※この記事は『ワークルール検定問題集』などの著者であり、労働法の研究者である平賀律男氏による寄稿文です。
全国的に暑い日が続いていますね。
この暑い夏に気をつけなければならないのは、やはり熱中症です。
熱中症は、体内の水分・塩分のバランスが崩れ、体内の調整機能が破綻して発症するものです。
患者全体に占める65歳以上の方の割合が高いためか、体の調整機能が弱いお年寄りだけが気をつけていればいいようなイメージもありますが、実は仕事中にも熱中症で緊急搬送される労働者は毎年数百人、そのうち死亡に至ってしまう例も数十件発生しているのです。
詳しく報道されていないだけで、本当は怖い仕事中の熱中症について考えてみましょう。(なお、労災保険の対象となる災害には「業務災害」と「通勤災害」とがありますが、以下では業務災害(仕事中の病気など)のみについて検討します。)
まずは労災認定の基準を確認しよう
法文上、労災保険の給付は、業務上の負傷・疾病・障害・死亡に対して行われると規定されていますので(労災保険法12条の8、労基法75条以下)、「業務上」の意味を考える必要があります。
①業務遂行性
まず、疾病等が「業務上」発生したとされるためには、その疾病等が仕事中に発生していることが大前提となります。
そして、休憩中や準備・待機中であったとしても、会社の支配下・管理下にあったのであれば、これは時間的・場所的に本来業務に関連すると考えられるため、仕事中にあたると広く判断されます。これを「業務遂行性」といいます。
②業務起因性
そして、①の業務遂行性があるとしても、その疾病等が、その仕事が持つ危険性が現実化したものだといえることが必要です。これを「業務起因性」といいます。
このため、仕事と関係ない私的な行動によって発生した事故は業務起因性が認められません。
これを熱中症にあてはめて考えると、①の業務遂行性、つまり仕事の時間中に仕事場で熱中症が発症したこと、そして②の業務起因性、つまり熱中症にかかったのは仕事中の環境や作業内容が原因であること(裏を返せば、労働者がもともと熱中症にかかっていたわけではないこと)、という2つの条件を満たす場合に、労災に該当することになります(他にも、医学的診断要件といって、発症者の症状や発生時の環境などから、業務起因性を導き出す方法もあります)。
熱中症が労災と認められた事例はこんなにある!
ここで、過去10年のデータを見てみましょう。
職場での熱中症が労災と認められた災害件数及び死亡者数は、下表のとおりとなっています。
高齢化に伴って熱中症の患者は全国的にも増加傾向にありますが、労災件数についても同様の傾向があります。
なお、平成22年の件数が突出していますが、この年は「観測史上最も熱い夏」と呼ばれる酷暑の夏であり、全国的に熱中症患者が非常に多かった年でした。
夏の暑い日に屋外で肉体労働に従事したり、屋内であっても工場や厨房などの高温多湿となる場所で作業したりすると、作業の負荷が大きく職場環境自体も過酷であるため、熱中症になりかねない危険性をはらんでいるといえます。
実際に、業種別で見ると、建設業や製造業での発生件数が多く、この2つで半分以上が占められます。
会社には熱中症対策を行う義務がある
労災事故が発生した場合、会社は労働者(被災者)に対して損害賠償義務を負うことになりますが、それ以前に、労働者に対する安全配慮義務や、労働安全衛生法上の義務、すなわち熱中症対策を行うという義務を負います。
厚生労働省が企業向けに作成しているリーフレットでは、会社がとるべき対策として、以下のようなことが挙げられています。
・休憩場所を整備する
・熱に慣れ、環境に適応するための期間を設ける
・労働者がノドの渇きを感じなくても、水分・塩分を摂取させる
・労働者に、透湿性・通気性の良い服や帽子を着用させる
・生活習慣病や日常の体調不良など、労働者の健康状態に配慮する
熱中症が起こりやすい業種である建設業や製造業は、いわゆる「労災隠し」が横行している業種でもあります。
労災が発生すると保険料が値上がりしてしまったり、元請会社に迷惑は掛けられないなどといった理由から、会社が被災労働者と秘密裏に交渉して労災事故をもみ消してしまうことがよくあるのです。
しかし、一人の病人にすら労災保険を使わせようとしない会社が、今後手厚い補償をしてくれることなどまずありえません。
仮に会社が労災申請の書類作成に全く協力してくれなかったとしても、労働者自身が労災申請をすることは可能なのです。
会社に労災隠しを打診され、面と向かってノーとは言えなかったとしても、必ず専門家に相談してください。
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平賀 律男(パラリーガル)

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