悪質クレーマーの対応は、企業や店舗にとって避けては通れない課題です。適切な対処法をとることで、事態を悪化させずに解決へ導けるでしょう。
しかし「クレーム対応時に警察を呼ぶべきなのか」「警察に頼らずとも効果的に対処するための方法はないのか」等、悩むところかもしれません。
本記事では、悪質クレーマーに直面した際の企業や店舗が取るべき正しい対処法について、具体的な対応を解説します。
悪質クレーマーの存在に悩むビジネスオーナーや店舗管理者は、ぜひ参考にしてみてください。
こんな疑問にお答えします
Q.悪質クレーマーに遭遇した場合はどう対応すべきですか?
A.まずは相手の言い分を聞きましょう。事実確認をし、必要であれば解決策を提案してください。ただし、悪質クレーマー対応時は、安易な返答をしてはいけません。また、身の危険を感じたり業務を妨害されたりするようであれば、迷わず通報してください。
悪質クレーマー3つのタイプ
悪質クレーマーにはさまざまなタイプが存在し、それぞれ異なる対応が必要になります。典型的な3つの悪質クレーマータイプは、以下の3通りです。
長時間拘束タイプ
まず、長時間拘束タイプです。
このタイプのクレーマーは、事業者や従業員を長時間にわたって拘束し、度が過ぎた要求や無理なクレームを繰り返します。その目的は、自分の要求を満たすことよりも、相手に時間的な損害を与えることにあります。
具体的な対応としては、要求に応じらない旨を告げ、一定時間を超えて居座る場合は引き取ってもらうよう伝えましょう。
リピートタイプ
悪質クレーマーの中でも特に厄介なのが「リピートタイプ」です。
このタイプのクレーマーは、繰り返し同じ企業や店舗に対して根拠のない苦情を持ちかける特徴があります。
具体的な行為としては、以下のようなものがあります。
- 電話やメールで何度も同じ苦情を述べる
- 小さなミスを大きな問題として取り扱い、繰り返し謝罪を要求する
- 従業員を個人的に攻撃し、恐怖心を煽る
従業員や企業に対して攻撃的な態度を取り、脅迫めいた言動をすることもあるので毅然とした対応が必要になるでしょう。
それでも繰り返し悪質クレームを続ける場合は、通話やメールの内容、苦情の詳細、対応履歴などを詳細に記録し、必要に応じて法的な対処を行えるよう準備してください。
暴言・暴力タイプ
暴言・暴力タイプの悪質クレーマーは、非常に危険です。このタイプのクレーマーは、自身の不満を解消するために、暴言や身体的暴力を用いて従業員を恐怖に至らしめてきます。
具体的な行為としては、以下のとおりです。
- 従業員や他の顧客に対して暴言や罵倒をする
- 店舗の物品を壊したり壁を叩いたりするなど破壊行為をする
- 従業員に対して暴力をふるう
暴言や暴力が発生した場合は、従業員や他の顧客の安全が最優先です。できるだけ速やかに警察に通報してください。また、暴言や暴力の事実を証明するために録音しておくといいでしょう。
悪質クレーマーに遭遇した際の初動対応
悪質クレーマーは、お客様ではありません。毅然とした態度で対処しましょう。
ここからは、悪質クレーマーに遭遇した際の初動対応を解説します。
主張や不満を聞き出す
悪質クレーマーに遭遇したら、まずは相手の主張や不満を丁寧に聞き出すことが重要です。
「クレーマーの話に耳を傾ける必要があるのか?」と疑問に思うかもしれません。
この段階で相手の言い分に耳を傾ける姿勢が、クレーマーの感情を落ち着かせる効果をもたらすことがあります。
最初の段階で、攻撃的な態度や不適切な言動は避けるようにしましょう。
事実確認が必要な場合は調査する
クレーマーからの主張や不満が明らかになったら、次に事実確認します。
主張が具体的であればあるほど、その真偽を確かめるための調査が必要になります。この調査を通じて、クレームの根拠があるかどうかの判断材料になるでしょう。
事実関係が確認できれば、それを基にした解決策を検討します。企業側の誠実さをクレーマーに示す意味でも重要なので、必ず事実確認をしてください。
解決策を提示する
事実確認の結果、クレームに一定の根拠があると判断された場合は、可能な限り迅速に解決策を提示します。
この際、企業ポリシーや法的な制約を考慮しつつ、問題解決に向けて具体的かつ実行可能な提案を行いましょう。
他者を引き合いに出されても要望に応じないこと
クレーマーから他の店舗や他社を引き合いに出されても、要望に応じないことが重要です。
クレーマーの中には「あの店なら自分の要望をすべて聞いてくれた」や「他社なら土下座して謝ってくれたぞ」と、不合理な主張をしてくるケースがあります。
結論、応じる必要はありません。
他者のケースと自社の事例は異なることが多く、一律の対応は適切ではないからです。
不合理な要求には、企業のポリシーと合致しないことを理由に断固として応じない姿勢を保ちましょう。この際も、応じられない理由を明確に説明し、可能な範囲での対応策を再提示することが望ましいです。
長時間拘束してくる場合は退去してもらう
一部の悪質クレーマーは、非常に長い時間にわたって従業員を拘束し、業務の遂行を妨害する場合があります。
このような場合、適切な時点で「これ以上の対応はできない」と明確に伝え、必要であれば退去を求めましょう。
従業員や他の顧客の安全を確保するためにも、必要に応じてセキュリティや警察の介入を検討してみてください。まずは、安全を最優先に考えることが大切です。
悪質クレーマー対応時に警察を呼ぶべきケース
悪質クレーマーへの対応は、従業員にとって大きな負担になります。場合によっては、警察の力を借りる必要が生じることもあるでしょう。
とはいえ「クレーマーごときで警察を呼んでもいいものか?」と、通報すべきかどうか迷うかもしれません。
結論からいうと、クレーマーによって業務に支障が出る場合や身の危険を感じた場合、警察を呼ぶべきといえます。
具体的なケースを4つ紹介します。
退去に応じない場合
クレーマーが退去に応じない場合、警察へ通報しましょう。この状況は、刑法第130条で規定される不退去罪に該当する可能性があるからです。
不退去とは、他人の土地や建物に無断で侵入したり、所有者や占有者の意に反して居続ける行為のこと。要求に応じて退去しない場合、この行為は犯罪となり得ます。
具体的には、以下の条件を満たす必要があります。
- 侵入:許可なく、または正当な理由なく他人の土地や建物に入ること
- 不退去:所有者や占有者からの退去要求に応じず、居続けること
日本の刑法において、不退去罪は特に明記されているわけではありませんが、これに類似した行為は「住居侵入罪」(刑法第130条)に該当する可能性があります。
たとえば、悪質クレーマーに対して「本日はお引き取りください」と伝えても、「要求を受け入れるまでここを退かない」と居座り続ける行為は、違法行為になり得るでしょう。
従業員や他の顧客の平穏を害する行為として、民事上の不法行為が成立する可能性があります。
脅迫行為がある場合
脅迫行為をするクレーマーに対しては、すぐに警察へ通報してください。脅迫行為は、個人の安全を脅かす重大な問題であり、「脅迫罪」に該当する可能性があるからです。
脅迫罪は、他人に対して不当に恐怖を感じさせ、被害者を特定の行動に追い込む犯罪です。刑法第222条に定められており、具体的には次のような行為が該当します。
- 他人に対して、危害を加えることを告げる行為
- 不法な利益を求める行為
この法律の文言には、「危害を加えること」と表現されていますが、これには身体的な危害だけでなく経済的な危害や精神的な危害も含まれます。また「不法な利益を求める行為」とは、金銭や物品など不正な手段で要求することを指します。
脅迫罪は、上記のような内容を「告知」した時点で成立します。
警察へ通報する際は、脅迫の内容、脅迫が行われた日時や方法(電話、メール、直接の会話など)、証拠があれば警察へ提供してください。
脅迫行為は非常に悪質で恐怖を感じるかもしれませんが、できるだけ冷静に情報を整理し、警察に伝えましょう。
いずれにしても、生命の危機を感じたら即刻110番してください。
脅迫罪の成立要件について詳しくは、こちらの記事をご覧ください。
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暴力・暴行を用いて金品の要求がある場合
暴力や暴行を用いて金品の要求がある悪質クレーマーに対しては、警察への通報が必要です。このような行為は、恐喝罪に該当する可能性が高く、非常に重大な犯罪行為になるでしょう。
恐喝罪とは、他人に対して暴行や脅迫を用いて金品を要求する犯罪のこと。刑法第249条によって規定され、暴力や脅迫を背景に不正な利益を得ようとする行為全般を含みます。
恐喝罪に該当しやすいクレーマーの具体的な行為は、以下のようなものがあります。
- 事業主や店舗に対して、「このことをSNSで大々的に公開し、評判を落とす」と脅迫し、無料で商品やサービスを提供することを要求する行為
- 実際には発生していないサービスのトラブルや商品の欠陥をでっち上げ「解決のためには金銭が必要だ」と不当に金品を要求する行為
これらの行為はいずれも他人に不利益を与え、不当に利益を得ようとするものであり、法律によって厳しく罰されます。
恐喝罪に該当する疑いがある場合は、速やかに警察に通報しましょう。
恐喝罪について詳しくは、こちらの記事をご覧ください。
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業務妨害された場合
業務を妨害する悪質クレーマーに対しても、警察へ通報しましょう。
業務妨害は、ビジネスの正常な運営を不当に阻害する行為であり、場合によっては刑法234条「威力業務妨害罪」に該当する可能性があります。
悪質クレーマーによる典型的な業務妨害の例は、以下のようなものがあります。
- 実際のサービスや商品に対する不満を理由に、営業時間中に店舗を訪れて大声で抗議する、または無理な要求を繰り返す
- SNSやインターネット上で、事実に基づかないクレームや誤った情報を故意に拡散し、企業や個人事業主の信用を毀損する行為
- 企業や店舗に対して理由もなく大量の電話やメールを送りつける行為
これらの行為は、単に不満を主張するレベルを超え、企業や店舗の業務を故意に妨害するものです。このような業務妨害に直面した場合は、事態の記録を詳細に残し、警察に通報する必要があるでしょう。
業務妨害については、こちらの記事で詳しく解説しています。
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悪質クレーム対処時にやってはいけない行動
悪質クレーマーに遭遇すると、恐怖や焦りからその場しのぎの対応をしてしまうかもしれません。しかし、対応を誤ると相手の行動をエスカレートさせるばかりか、インターネットで悪評を叩かれるリスクが生じてしまいます。
ここでは、悪質クレーム対処時にやってはいけない行動を7つ紹介します。
相手の話を遮る
まず、相手の話を遮ってはいけません。
悪質クレーマーは、感情的になっていることが多く、話を遮るとさらに怒りを募らせてしまう可能性があります。暴言や暴力に発展するおそれもあるでしょう。
こうなってしまうと、問題解決が遠のき状況が悪化しかねません。
相手が主張しているときは、言い終わるまで一旦待つ姿勢を見せることが重要です。
相手の話を否定する
相手の話を即座に否定する行為も、避けるべきです。
相手の主張を真っ向から否定すると、逆上する可能性があります。まずは相手の気持ちを理解しようと努めましょう。
即答してしまう
責任ある回答には、組織としての意思決定が必要です。
クレーマーに遭遇した際、早くその場を納めたいと相手の要求に対して「おっしゃるとおりです」「分かりました」と即答したくなるかもしれません。
しかし、こうした返事をしてしまうと「あのとき要求に応えると言ったじゃないか!」となり、不利な立場を招いてしまうでしょう。
すぐに答えを出すのではなく、後日改めて連絡する旨を伝えましょう。
他者に責任転嫁する
他者への責任転嫁は、悪質クレーマー対応時にしてはいけない行為です。
たとえば、以下のような発言です。
- 「これは私の責任ではない」
- 「製造元の責任です」
こうした対応は、企業の信頼性が損なわれ、状況がさらに悪化してしまいます。
もし、自社側の不手際があってのクレームであれば、責任を認めて謝罪しましょう。
感情的になる
感情的になることも、避けましょう。
クレーマー対応では冷静さを保ち、専門的かつ礼儀正しい態度で接することが求められます。
対応者が感情的になってしまうと、本来の問題から話が外れたり、解決に向けた建設的な話し合いが難しくなります。言葉の表現によっては、企業のブランドイメージに傷がつく可能性もあるでしょう。
個人的な感情を抑え、業務として冷静な対応を心がけてください。
SNSやネット掲示板で拡散させる
相手のクレームがいくら不当なものであっても、決して個人情報を漏洩してはいけません。
クレーム内容によっては、怒りを覚えるものもあるでしょう。しかし、怒りに任せて「この人が店舗内で迷惑行為をした」と顔写真をSNSで投稿したり、ネット掲示板に「この人は注意人物!」と本名を公開したりする行為は、不法行為に該当する可能性があります。
相手から名誉毀損で訴えられる可能性があるため、絶対にやってはいけません。
警察を呼ぶことを躊躇する
最後に、警察への通報を躊躇しないことです。
クレーマー対応時に迷うのが「警察に通報しても民事不介入と言われてしまわないか?」という点です。
確かに、警察には民事不介入の原則が存在します。
ただこの原則は、個人間の財産問題や家族関係の問題など、民事訴訟法に基づく紛争に対して警察が直接的に関与しないことを意味するものです。クレーマーの行為が、業務妨害や不法行為に該当するのであれば、警察は対応してくれるでしょう。
警察を呼ぼうか迷ったときでも、躊躇することなく通報することが重要です。身の安全確保を最優先にしてください。
悪質クレーマーに対処するには早めに弁護士へ相談を
悪質クレーマーへの対応は、状況によって適切な対応方法が異なります。被害が拡大しないためにも、早期に弁護士へ相談することをおすすめします。
ここで「クレーマー対処と弁護士はどう関係あるの?」と疑問が生じるかもしれません。
クレーマー対処において弁護士が果たす役割は、相談者の権利を最優先に保護しながらトラブル解決を目指してくれる点です。
警察への通報も、もちろん解決への糸口でしょう。しかし、通報したからといって100%解決するかといえば、そうではありません。どういうことなのか、具体的に解説します。
必ずしも警察が動いてくれるとは限らない
悪質クレーマーの対応には、警察への通報が有効です。しかし、クレーマーの行為が犯罪行為と断定できない場合は、警察が積極的に動いてくれないケースがあるでしょう。
原則として、警察は民事トラブルには介入しません。
具体的にいうと、通報された事案が警察の介入を要する刑事犯罪に該当しない場合や、証拠が不足している場合、またはトラブル内容が民事トラブルで留まると判断された場合は、警察は対応を控えることがあります。
仮に、クレーマーの行為が迷惑行為であっても、具体的な犯罪行為に該当しなければ、警察を呼んでも根本的な解決にはつながりません。
ここで頼りになるのが、弁護士の存在です。
弁護士であれば相手方の犯罪行為に関係なく対応してくれる
弁護士であれば、相手方の行為が犯罪に該当するかどうかに関係なく対応してくれます。
クレーマー対応で警察が動いてくれない場合でも、弁護士は相談者の権利を守ってくれるでしょう。
また、自力で対応して一時的にクレーム行為が収まったとしても、相手によっては逆恨みになって誹謗中傷に発展するケースがあります。
たとえば、ネットで「客を罵るやばい店」「謝罪すらしない悪徳業者」のように、虚偽の情報が拡散されるといったものです。
こうした誹謗中傷は、たとえ偽の情報であっても拡散されると炎上リスクがあります。
取引先との契約解除や企業イメージダウンといった不利益につながりかねません。
弁護士に相談することで、相手方の行為が法的な問題にあたる場合に、加害者に対して警告書を発送し、行為の停止や謝罪、場合によっては損害賠償請求をしてくれます。
弁護士へ相談する際は弁護士保険の利用がおすすめ
弁護士へ依頼する際に、気になるのは弁護士費用でしょう。
通常、クレームによるトラブル解決を弁護士に委任すると、数十万から数百万かかる可能性があります。問題が解決される一方で、経済的な負担になってしまうものです。
弁護士費用の負担を抑える方法として最も有効なのが、弁護士保険です。
会社が弁護士保険に加入することで、法的トラブルに対する弁護士費用や訴訟費用を大幅に保険がカバーしてくれるため、費用の心配をせず法的支援を受けられます。
また、多くの弁護士保険では、実際に訴訟や法的手続きを開始する前の段階で、法律相談を利用できるサービスが含まれています。これにより、問題が小さいうちに適切なアドバイスを受けられるでしょう。
法人・個人事業主の方で法的トラブルにお困りの場合には、法人・個人事業主向けの弁護士保険がおすすめです。
記事を振り返ってのQ&A
Q.悪質クレーマーに遭遇した場合はどう対応すべきですか?
A.まずは相手の言い分を聞きましょう。事実確認をし、必要であれば解決策を提案してください。ただし、悪質クレーマー対応時は、安易な返答をしてはいけません。後のリスクを考慮し、冷静で的確な対応を心がけてください。
Q.クレーマー対応時は警察へ通報してもいいですか?
A.従業員や他の顧客の安全確保のためにも、通報した方がいいケースがあります。特に、身の危険を感じたり業務を妨害されたりするようであれば、迷わず110番してください。
Q.悪質クレーム対応時の注意点を教えてください。
A.相手の話を否定したり他者への責任転嫁はしないでください。また、安易な返答も避けましょう。いずれにしても、自社が不利になるような行為や発言は控えることが重要です。