窃盗や痴漢、オレオレ詐欺の手伝いや薬物犯罪などで逮捕されたとき、あなたやご家族を守ってくれるのは「弁護士」です。
しかし、お金がなかったら弁護士に依頼できません。
そこで助けてくれるのが「国選弁護人」の制度です。
今回は、そもそも国選弁護人とはどのような人で、どうやって選任するのか、何をしてくれるのか、本当に費用がかからないのかなど役に立つ知識をご紹介していきます。
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こんな疑問にお答えします
A:国選弁護人に依頼することで、基本的に弁護費用なしで法的サポートが得られます。ただし、「預貯金など資産が50万円以下」「弁護人がいないと刑事裁判を開けない事件」が条件となります。
そのため、被疑者や被告人に資力があり、支払いができると判断された場合は、裁判所から支払いを求められることがあります。
条件を満たしていない場合は、弁護士費用に不安を抱える人も多いでしょう。その場合は、弁護士保険の利用も検討してみましょう。
弁護士保険とは、日常生活の個人的トラブルや事業活動の中で発生した法的トラブルに対し、弁護士を利用した時にかかる弁護士費用を補償する保険サービスです。
弁護士保険に加入しておくことで、法的トラブルが発生した場合に、弁護士に支払う費用をおさえることができます。
国選弁護人制度とは
国選弁護人とは、国が公費でつけてくれる弁護人です。
憲法が国民に保障している「弁護人選任権」を実現するためのものです。
刑事事件で被告人になると、「検察」という国家権力によって追い詰められるので、被告人の立場は非常に不利です。
守ってくれる人がいないと冤罪などで不当な判決が出てしまう可能性も高くなります。
そこで、憲法は起訴前の被疑者や刑事裁判となった被告人に対し、弁護人を選任する権利を認めています。
ただ、弁護士に刑事弁護を依頼すると多額の費用がかかります。
お金がない人の場合、形式的に弁護人選任権という権利だけが認められても現実的にお金が足りず、依頼することができません。
すると弁護人選任権が有名無実となります。
そこで、国選弁護人制度を作り、最低限刑事裁判になった被告人については国が費用を負担して弁護士をつけることとしました。
それがもともとの国選弁護人制度です。
なお、後述しますが、今は法改正によって国選弁護人制度が拡大され、起訴前の被疑者段階においても適用されるようになっています。
国選弁護人と私選弁護人との違い
国選弁護人は、よく「私選弁護人」と対比されます。
私選弁護人とは、資力のある人が自分で直接弁護士にお金を払って依頼する弁護人で、起訴前の被疑者段階でも逮捕直後からつけることができます。
国選弁護人の場合には国が弁護士を選びますが、私選弁護人の場合には被疑者被告人自身が弁護士を選べます。
さらに、逮捕直後から依頼できますし、国が弁護士を選定する期間のロスがないので、弁護士を見つけたらすぐに依頼して活動を開始してもらえます。
つまり、対応がスピーディで、効果的な弁護活動を行いやすいのです。
被疑者被告人から直接依頼されているので、弁護士側もなおざりな対応はしないことが通常です。
ただし、私選弁護人にもデメリットがあります。
それは高額な弁護士費用です。
国選弁護人の場合には負担額が0円になるケースが多くなりますが、私選弁護人をつけると100万円近い金額がかかる事例も珍しくはありません。
国選弁護人と当番弁護士との違い
次に、国選弁護人と「当番弁護士」が比較されることも多いので、説明します。
国選弁護も当番弁護も「無料で利用できる弁護士」という点でよく似ていますが、実際には利用場面や利用方法がまったく違います。
当番弁護士は「逮捕勾留されている被疑者が1回だけ無料で弁護士を呼べる制度」です。
つまり、当番弁護士に来てもらえるのは「1回切り」であり、「刑事弁護人」になってもらえる制度ではありません。
また、当番弁護士を呼ぶために資力要件は不要です。
お金がたくさんあって私選弁護人を呼べる人でも一度であれば当番弁護士を呼ぶことができます。
当番弁護士を呼んでも示談交渉や検察官との交渉、証拠集めなどの具体的な弁護活動はしてもらえないので、こういったことを頼みたければ「私選弁護人」または「国選弁護人」になってもらう必要があります。
当番弁護士は無料でも引き続いて私選弁護人になってもらった場合には費用が発生します。
一方、当番弁護士から引き続いて国選弁護人になってもらった場合には、当面費用が発生することはありません。
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国選弁護人の対象になる事件
刑事事件で逮捕される理由はさまざまです。
すべての事件で国選弁護人を選任できるのでしょうか?
国選弁護制度の適用対象については、起訴後の刑事裁判になった段階と起訴前の被疑者段階で異なる取扱いをされていたので、分けてご説明します。
起訴後の刑事裁判になった段階
逮捕後捜査が終了して検察官が起訴すると、刑事裁判がはじまって被疑者は「被告人」となります。
刑事裁判になると、従来から変わらずどのような事件でも国選弁護人を選任できます。
罰金や科料などの微罪でもかまいません。
起訴後の国選弁護人制度は、基本的には被告人に弁護士費用を支払う資力がない場合に適用されますが、一定以上の重大犯罪の場合などには被告人に資力がある場合であっても選任できるケースがあります。
起訴前の被疑者段階
一方起訴前の被疑者段階では、長い間国選弁護人制度の適用がありませんでした。
しかし、被疑者段階から弁護士がついていないと捜査官による自白の強要などによって冤罪も発生しやすくなり、被疑者の権利が守られません
そこで日弁連の活動などによって2006年10月からは被疑者段階にも一部国選弁護制度が適用されるようになりました。
これを「被疑者国選」と言います。
当初に被疑者国選の適用対象となったのは「死刑、無期、短期1年以上の懲役若しくは禁錮にあたる事件」のみでした。
これでは対象が狭すぎるということで、2009年5月から適用対象が拡大されて「死刑、無期、長期3年以上の懲役若しくは禁錮にあたる事件」となりました。
一方、これらに該当しない事件については「刑事被疑者援助支援制度」という法テラスを通じた事業によって、補充されていました。
さらに2018年6月からは、被疑者国選制度が「被疑者が勾留されているすべての事件」に拡大されています。
つまり、現在では「すべての勾留された被疑者」が国選弁護人を利用できます。
ただし、逮捕後勾留までは国選弁護人をつけられませんし、在宅捜査となった場合にも国選弁護人は利用できません。
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国選弁護人を利用できる要件
国選弁護人を利用するには、以下の要件を満たす必要があります。
資力が一定以下
国選弁護人を利用するには、被疑者被告人の資力が一定以下である必要があります。
具体的には「預貯金などの資産が50万円以下」が基準です。
国選弁護人の選任を申し出るときに「預貯金の額」を回答する欄があり、50万円を下回っていたら国選弁護人を選任してもらえます。
自己申告ですが、虚偽を述べた場合には過料(金銭を支払う行政罰)の制裁があります。
必要的弁護事件
必要的弁護事件とは「弁護人がいないと刑事裁判を開けない事件」です。
一定以上の重大事件などの場合、弁護人なしに裁判を進めるのは被告人にとって不利益が大きすぎるので、必ず弁護人をつけなければなりません。
そういった事案で被告人自身が弁護士を雇っていない場合、放っておくと裁判できないので国選弁護人をつける必要があるのです。
必要的弁護事件は、以下のとおりです。
必要的弁護事件
・刑罰が長期3年以上の懲役や禁錮
・即決裁判手続き
・公判前整理手続きや期日間整理手続きになった事件
即決裁判は軽微な犯罪の簡易な裁判手続きですが、充分な審理を行わずに一方的に有罪判決を下される可能性が高くなるので被告人の権利を守るために必要的弁護事件としています。
必要的弁護事件の場合、被告人に資力があっても国選弁護人をつけられますが、その場合には後に費用負担を求められる可能性が高くなります。
国選弁護人に依頼できる内容
国選弁護人に依頼した場合、どのような弁護活動を行ってもらえるのでしょうか。
基本的には、私選弁護人と同じです。
国選弁護士の活動内容は、基本的に私選弁護士と同じです。どちらを選択しても弁護活動に差が生じることはありません。
サポート内容としては、被疑者・被告人にとって有益な証拠の収集や被害者との示談交渉、検察官への働きかけといった基本的な弁護活動を行います。
国選弁護人のメリット
国選弁護人のメリットは、以下のようなところです。
費用がかからない
国選弁護人と言えば、費用がかからないことが一番のメリットでしょう。
通常弁護士に刑事事件を依頼すると数十万~100万円以上のお金がかかり、無罪判決をとれた場合などには、数百万円の費用がかかるケースもあります。
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国選弁護人の場合には、どんなに手間がかかっても無罪判決を勝ち取ってもらったとしても、本人が無資力であれば費用がかかりません。
仮に費用がかかったとしても、非常に安い金額となります。
自動的に弁護士を選任してもらえる
刑事事件で逮捕された方が、自分で弁護士を探して依頼するのは簡単なことではありません。
そもそも身柄を拘束されていたら自分で弁護士探しなどできませんし、家族に頼むとしてもどうやって探したら良いかわからない方もいます。
また、頼める家族がいない場合もあるでしょう。
国選弁護人なら弁護人選任の申出さえすれば、国が弁護士を選んでつけてくれるので、自分で弁護士を探す必要がありません。
国選弁護人のデメリット
一方、国選弁護人にはデメリットもあるので注意が必要です。
弁護人を選べない
国選弁護人の大きな問題点は「弁護人を選べない」」ことです。
弁護士の取り扱い分野はさまざまであり、刑事事件と得意とする人もいればそうでない人もいます。
「普段はまったく刑事事件をやっていなくて、たまに国選をやる程度」の方も多数です。
また、国選弁護は報酬が安いので、手を抜く弁護士も少なからず存在します。
そのような腕の悪い、あるいはやる気のない弁護人にあたってしまったら、有効な弁護活動は期待できません。
あまり接見にも来てもらえず、被害者との示談なども進めてもらえず、重い刑罰を科されてしまう可能性もあります。
私選弁護人なら自分で気に入った人を選べるので、腕の良い弁護士、相性の良い弁護士についてほしいのであれば、私選の方が無難です。
選任時期が遅い
国選弁護人の場合、国が弁護士を選ばなければならないので、選任のための日数がかかります。
被疑者段階では「勾留」された事件が対象なので、逮捕後勾留されるまでの間は弁護士に来てもらえません。
しかも弁護士にやる気がないこともあり、選任されたらすぐに来てくれるとも限りません。
弁護士が来るまでの間に数日経過して不利な調書をとられるかもしれませんし、被害者との示談などの弁護活動が間に合わなくなってしまうかもしれません。
選任時期が遅くスピーディな対応が難しくなる点も国選弁護人のデメリットの1つです。
積極的に働いてもらえないケースもある
国選弁護人の報酬体系は弁護士の通常の金銭感覚からすると非常に安くなっています。
また、無罪判決や大幅な執行猶予判決をとったからといって報酬が上がるわけでもありません。
弁護士の通常の金銭感覚からすると大幅に報酬金額が低くなっているので、どうしても手を抜こうとする弁護士がいます。
そういった弁護士にあたると有効な弁護活動をしてもらえないので被疑者被告人に不利益が及んでしまいます。
弁護人が要らない事案でも選任されてしまう
被疑者や被告人に弁護人選任権が保障されていますが、すべての方が弁護士選任を望むわけではありません。
後に国選弁護人の費用負担を命じられるケースもあります。
しかし、必要的弁護事件では、即決裁判などの簡易な手続きのケースでも強制的に弁護人が選任されてしまい、不服に感じる方もいます。
国選弁護をやっていない弁護士もいる
国選弁護人のデメリットの1つに「すべての弁護士が国選弁護をやっているわけではない」ことが挙げられます。
国選弁護の報酬が安いことから国選弁護の登録をしていない人もたくさんいます。
刑事事件が得意な弁護士は、国選をやらなくてもいくらでも私選の刑事事件が来るので、ほとんど国選をやっていないケースも多々あります。
国選弁護人を使ったときには、あまり腕の良くない弁護士があたる可能性も発生します。
国選弁護人を選ぶべきかどうか、判断基準
以下で、国選弁護人を選ぶか私選弁護人を選任すべきか、判断基準を示します。
国選弁護人を選ぶべきケース
・私選弁護人を雇う資力がない
・軽微な事件
・弁護士は誰でもいい、こだわらない
・弁護士をつけるのに急いでいない
・ついてくれた国選弁護人が熱心な良い弁護士であった
私選弁護人を選ぶべきケース
・十分な資力がある
・重大事件であり、弁護士の腕が重要
・ストレスなく話ができる、相性の良い弁護士を選びたい
・弁護士の年齢、性別、経験年数などにこだわりがある
・いったん選んだ国選弁護人とどうしても合わない、真面目に弁護してくれない
・すぐに示談交渉を開始する必要などがあって早期に弁護活動を開始してほしい
国選弁護人の費用について
国選弁護人についてもっとも気になるのは「費用」でしょう。
以下では国選弁護人の費用がいくらくらいになるのか、ご説明します。
費用の相場
国選弁護人の報酬は基本的に国から払われるので、基本的には本人に負担はありません。
※一部負担を求められるケースについては後述します。
国から支払われる報酬の金額は、被疑者段階と被告人段階で異なります。
被告人段階では基本的に「裁判の期日の回数」によって計算し、複雑で困難な事件の場合には裁量によって増額されます。
たとえば、無罪を主張している事件などで、何回も裁判が開かれて難しい対応が必要となったら弁護費用が多少高くなります。
相場としては、通常一般の認めの事件であれば10万円以下、複雑で1年以上かかる案件でも20~30万円程度に収まることが多いでしょう。
被疑者段階の場合には基本的に「接見の回数」によって計算されます。
弁護士が何度も留置場に接見に来てくれたらその分費用が上がるイメージです。
それでもだいたいは10~20万円程度で収まります。
一般的な私選弁護の場合、起訴後の認めの事案でも60万円程度、無罪を主張する事案なら100万円や200万円以上かかることが多くなります。
起訴前弁護でも最低30万円は必要ですから国選弁護人は非常に安いことがわかります。
国選弁護人の費用負担
国選弁護人の費用が安いとは言っても10万円以上になることもあるので、被疑者や被告人の方たちには負担です。
無料になる場合と費用負担が発生する場合の区別はどのようにして行われるのでしょうか?
費用負担を求められやすいケース
国選弁護人の費用は「基本的に無料」です。
ただし、被疑者や被告人に資力があり支払いができると判断されると、支払いを求められる可能性があります。
傾向として、執行猶予がついたり罰金刑となったりして社会に戻れた場合や無罪となった場合などに負担を求められるケースがみられます。
実刑判決になった場合にはほとんどのケースで無料です。
社会生活を送れる場合、仕事をして収入を得られるので費用負担を求めるのでしょう。
執行猶予や無罪になったら必ず負担を求められるという意味ではなく、「まれに負担を求められるケースがある」程度です。
保釈金を払って保釈してもらった場合や無罪になった場合、在宅起訴となった場合などでも費用負担がないケースはたくさんあります。
負担すべき費用の金額
支払いの負担を求められる場合の金額は、上記で紹介した国選弁護人の報酬金額の通りです。
被疑者段階なら10~20万円、被告人段階なら10万円以下となるケースが多数です。
支払いができない場合の対処方法
国選弁護人報酬の負担を求められて支払いが困難なケースでは、「執行免除の申立て」という手続きによって支払いを免除してもらえる可能性があります。
申立ての際には、費用を払えない理由を具体的に書かねばなりません。
たとえば収入も資産も一切ないこと、扶養すべき家族がいて収入から費用を用意するのが難しいことなどをわかりやすく書きます。
資料もあればつけましょう。
また申立ては判決確定後の20日以内にしなければなりません。
訴訟費用負担の判決を下した裁判所に対し、早めに申立書と資料を提出しましょう。
国選弁護人を依頼する流れ
国選弁護人を依頼したいときには、以下のような流れとなります。
被疑者国選の場合
起訴前の「被疑者段階」の場合には、逮捕後勾留前に行われる「勾留質問」の際に、裁判官から「国選弁護人をつけますか?」と聞かれます。
つけてほしければ、そのとき「はい、つけてください」と希望を伝えれば裁判官が手続きをとり、国選弁護人を選任してもらえます。
勾留質問の際に弁護人の選任を希望しなかった場合、留置場に戻ってから警察官に弁護人選任希望を伝えて申請用紙を提出することにより、被疑者段階での国選弁護人をつけてもらえます。
被告人国選の場合
起訴されて被告人となった場合には、警察の留置管理係の人に「国選弁護人をつけたい」と申し出ます。
すると申請用紙を渡されるので、記入して提出すれば国選弁護人を選任してもらえます。
国選弁護人の選任用紙には「資力」を書く欄があります。
基本的に「50万円以下」のケースでしか国選弁護人を選任してもらえません。
虚偽申告すると過料の制裁がありますし国費の無駄遣いとなって他の人にも迷惑をかけてしまいますから、正直に書きましょう。
資力オーバーしている場合には国選弁護人はあきらめて私選弁護人を依頼する必要があります。
自分から申出をしないと国選弁護人をつけてもらえない
被疑者段階でも被告人段階でも言えることですが、必要的弁護事件でない限り、基本的に被疑者や被告人が自分から申出をしないと国選弁護人はつけてもらえません。
警察官から「国選弁護人をつけるか?」などとは言ってもらえないケースが多数です。
遠慮する必要はないので、警察官に自ら申し出てください。
国選弁護人はやる気がないのか
国選弁護人に関しては「やる気がないからやめた方が良い」「私選弁護人の方が良い」と言われるケースが多々あります。
実際に国選弁護人の報酬は弁護士の感覚からすると異常に安いので、積極的に働いてくれない事案があるのは事実です。
このことは国選弁護人のデメリットの1つにも挙げました。
一方で、国選弁護でも積極的に取り組み被疑者被告人のために尽くしてくれる人がいることもまた事実です。
国選弁護人だから必ずしもやる気がないというわけではなく、「当たり外れが大きい」というのが実際のところです。
また、国選弁護人は「若い弁護士が多いから頼りにならない」という噂もあります。
確かに国選弁護を熱心にやっている人は、まだ自分の事件で忙しくなっていない若手が多いのは事実です。
しかし、若手だからと言って必ずしも未熟であったり手を抜いたりすることはありません。
若くても非常に熱心で毎日のように接見に来てくれる弁護士もいますし、反対にベテランでも「国選は安いからやりたくない」と言って手を抜く人もいます。
老齢になって適当な弁護活動をしている人も中には存在します。
若い国選弁護人にあたったからといってがっかりする必要はありません。
国選弁護人は解任や変更はできるのか
基本的に変更はできない
国選弁護人には当たり外れが大きく、相性の悪い弁護士が選任される例もあります。
気に入らない国選弁護人に当たったときには別の良い国選弁護人に変えてほしいと考える方がおられるでしょう。
国選弁護人の変更はできるのでしょうか?
被疑者被告人の意思による国選弁護人の変更は、基本的に不可能です。
そのようなことを認めると、たくさんの被疑者被告人が「変えてほしい」を連発するようになり、機能停止状態になるからです。
そもそも費用を国が負担してつけているのですから、誰に弁護してもらうかまで指定することは認められません。
それをしたければ自分で費用を負担して私選弁護人を依頼する必要があります。
解任も難しい
選任された国選弁護人とどうしても相性が合わない場合や、弁護士を信頼できず「自分一人で裁判した方がマシなので辞めてもらいたい」と思ったとき、国選弁護人を解任できるのでしょうか?
解任も、被疑者被告人の意思ではできません。
国選弁護人は国によって選任されており、被疑者被告人が選んだ弁護人ではないからです。
国選弁護人を解任できるのは裁判所のみです。
どうしても国選弁護人に辞めてほしい場合には、裁判所に「解任請求」をする必要があります。
解任請求があった場合、裁判所は以下のような要件を満たす場合に国選弁護人を解任できます(刑事訴訟法38号の3の第1項)
国選弁護人を解任できるケース
・被告人と弁護人との利益が相反する状況となり、弁護人に職務を継続させるべきではなくなったとき
・心身の故障その他の理由で弁護人が職務を行うことができない、または困難になったとき
・弁護人が任務に著しく反したため、職務の継続が相当でないとき
・被疑者被告人が弁護人に暴行や脅迫をしたりして著しい迷惑をかけたとき
「弁護人にやる気を感じられない」「相性が合わない」「一人で裁判したい」という理由では解任は認められません。
解任が認められるのは、弁護士が病気や怪我で弁護活動を続けられない場合や弁護士が被疑者被告人に不利益となる行動を積極的にとっている場合、被疑者被告人が弁護士を脅迫している場合など、相当極端な例に限られます。
また、解任が認められたとしても、次に選任される弁護士を選ぶことはできないので、以前の弁護士よりさらに気に入らない弁護士が来る可能性もあります。
国選弁護人の解任請求をすると、手続きのために無駄に身柄拘束期間も長引いてしまうケースがあります。
国に弁護士をつけてもらっている以上はあまり注文をつけない方が良いでしょう。
国選弁護人から私選弁護人への切り替えについて
いったん国選弁護人が選任されると、ずっとその弁護人に対応してもらうしかないのでしょうか?
実は、国選弁護人を辞めさせて自分の気に入った弁護士に依頼する方法があります。
それは「私選弁護人」への切り替えです。
私選弁護人が選任された場合、国選弁護人をつける必要性がなくなるので、国選弁護人を解任できるからです。
私選弁護人に切り替えるときには、特に難しい理由は要りません。
国選弁護人が任務懈怠をしている必要もありませんし、利益相反が発生していたり関係が悪化していたりする必要もありません。
また、私選弁護人に切り替えたら、気に入った弁護士が自分のために活動してくれるので、ストレスもなくなります。
国選弁護人に活動してもらっていてどうしても合わない、信頼できない、ストレスがたまるといった状況になってきたら、家族などに刑事事件に強い弁護士を探してもらって私選弁護人として選任するのが最善の対応です。
国選弁護人へのお礼について
国選弁護人の中にも、非常に熱心に弁護活動をしてくれる人がいます。
そのような良い弁護士にあたり、無事に執行猶予や無罪判決などがとれたとしても、国選弁護人には報酬が発生しないので(国が負担します)、被疑者被告人としてはお礼のしようがありません。
たとえば、お菓子やお酒を渡したり、食事をごちそうしたりすることは許されるのでしょうか?
弁護士には「弁護士職務基本規程」といって、弁護士として守るべき倫理についてのガイドラインがあります。
その中で、弁護士は国選弁護の被告人やその家族、関係者などから報酬や弁護活動の対価を受け取ってはならないとされています。
そのような事情から国選弁護人の弁護士にお菓子などを持っていくと迷惑がられる可能性が高いです。
感謝の気持ちを伝えたいならば、手紙を書いて渡しましょう。
その後も再犯に及ばずしっかり働いて家族を大切にし、毎年年賀状などで「あのときはありがとうございました」と状況報告をすることが、弁護士にとっては一番うれしい報酬となります。
国選弁護人は「国がつけてくれる弁護人」であり、無料で利用できるのでメリットが大きい制度です。
一方で「弁護人を選べない」「当たり外れが激しい」などデメリットがあります。
資力がある場合や重大事件の場合、たまたま悪い弁護士に当たった場合などには、多少無理をしてでも私選弁護人を雇った方が良いケースも多々あります。
国選弁護人から私選弁護人への切り替えも可能なので、困ったときには一度刑事弁護に強い弁護士に相談してみましょう。
国選弁護人についてよくある疑問
最後に、国選弁護人についてよくある疑問を紹介します。
国選弁護人の報酬は誰が負担しているのか
国選弁護人は費用がかからないとメリットに挙げましたが、誰が報酬を負担をしているのか気になる方も多いでしょう。
結論、国選弁護人の報酬は、基本的に国が負担し、その原資は国民の税金です。
しかし例外として、資力状況から費用負担が可能と判断された場合は、裁判所から一定額の負担を命じられることもあります。
民事訴訟を起こす際でも選任できるのか
民事訴訟を起こす場合は、国選弁護人を選任できません。これは、日本国憲法第37条に基づき、刑事制度があるからです。
民事事件の対応を弁護士に依頼するときは、依頼者が負担しなければなりません。
まとめ
国選弁護人に依頼することで、基本的に弁護費用を負担することなく法的サポートが得られます。無料で利用できるというメリットの反面、「弁護人を選べない」「当たり外れがある」といったデメリットも理解しておきましょう。もし、担当になった国選弁護人が合わないと感じたら、私選弁護人への切り替えも可能です。
また、弁護士費用に不安を抱えている場合は、弁護士保険の利用を検討してみましょう。
弁護士保険に加入しておくことで、法的トラブルが発生した場合に、弁護士に支払う費用をおさえることができます。
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記事を振り返ってのQ&A
Q:国選弁護人と私選弁護人は何が違うの?
A:費用負担額と、弁護人を選べるかどうかの違いがあります。国選弁護人へ依頼する場合、依頼者が弁護人を自由に選ぶことはできません。また、国選弁護人の報酬は国が負担するため、基本的には無料です。一方で、私選弁護士は、依頼する弁護人を自由に選択でき、費用は弁護人との契約で決め、依頼者が負担します。
Q:国選弁護人を利用できる条件はあるの?
A:国選弁護人を利用するには、「資力が一定以下であること」「必要的弁護事件であること」が条件です。資力の基準は、預貯金など資産が50万円以下となります。必要的弁護事件とは、弁護人を必要とする刑事裁判です。弁護人なしで進めることで、被告人が不利になり得るからです。
Q:国選弁護人を選ぶべきかどうか、判断基準はあるの?
A:国選弁護人を選んだ方がいいケースは、私選弁護士に依頼する資力がない、弁護士にこだわりがない、軽微な事件であるときです。一方で、私選弁護人を選んだ方がいいケースは、資力が十分にある、弁護士の腕を必要とする重大事件である、弁護士にこだわりがある、早急に弁護活動を求めるときです。
Q:国選弁護人は本当に無料なの?
A:国選弁護人は基本的には負担なく利用できます。ただし、被疑者や被告人に資力があり、支払いができると判断された場合は、裁判所から支払いを求められることがあります。