労働審判制度のメリット・デメリット、期間や費用を徹底解説!

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この記事の執筆者

福谷 陽子(元弁護士)

勤務先と賃金や解雇問題などでトラブルになってしまったとき、自分たちだけで自主的に話し合って解決するのは難しいものです。

そんなとき「労働審判」制度を利用すると、効果的に解決できることが多いので、活用方法や効果、メリットやデメリットなどを理解しておきましょう。

今回は、労働審判制度利用の流れや利用すべき人、費用や期待できる効果など、知っておきたい知識をまとめてご紹介します。

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労働審判制度とは

労働審判は、従業員と雇用者の間のトラブルを解決するための専門的な手続きであり、地方裁判所で行われるものです。

1人の「労働審判官」と2人の「労働審判員」が関与して、スピーディにかつ適切に労働問題を解決することを目指します。

労働審判官とは裁判官のことで、労働審判員は労働問題についての専門知識をもっている民間人を指します。

労働審判の様子(再現)※裁判所のHPより

労働審判の様子(再現)※裁判所のHPより

労働審判は、2006年4月から始まった比較的新しい制度ですが、利便性やメリットが大きいため今では広く利用されています。

日本弁護士連合会の「弁護士白書2022年版」によると、労働審判は毎年4,000件近く実施されています。

会社と労働トラブルになって、話合いでは解決が難しそうであれば、一度労働審判の利用を検討してみましょう。

労働審判と裁判の違い

労働審判は裁判所で行われる手続きなので、「労働訴訟(裁判)と何が違うのかわからない」という方が多いもの。以下で、その違いを説明します。

労働審判は、話合いの手続きがメイン

労働審判が始まると、当初の3回は裁判所で「調停」が開かれます。

調停とは、当事者が話合いによってトラブルを解決する手続きです。

労働審判の調停では、労働問題に詳しい労働審判員が間に入って当事者間の調整をしてくれます。

調停で合意ができれば、お互いが納得して解決できますし、0か100かという極端な解決方法ではなく、状況に応じた柔軟な解決方法も可能です。

これに対し、訴訟は当事者がそれぞれの主張を戦わせる手続きで話合いではありません。

和解しない限り裁判官が判決によって白黒つけてしまうので、勝ち負けがはっきりします。

労働審判は、早期に解決できる

労働審判を利用すると、早期にトラブルを解決できます。

原則3回の調停によって合意できなければ、すぐに手続きが審判に移行して、審判官が解決方法を決めてしまいます。労働審判の多くは、3か月程度で最終解決しています。

これに対し、労働訴訟を起こすと標準的に10か月程度かかりますし、1年以上かかることもあります。

※関連ページ→「民事裁判の判決や和解までの流れと平均期間はどのぐらい?

労働審判に対しては異議申立が可能

労働審判では、当初の3回の期日で調停が成立しなければ審判に移行します。

審判になると審判官が判断を下しますが、当事者が審判内容に不服であれば、異議申し立てすることが可能です。異議申立があると審判の効力はなくなり、訴訟に移行します。

つまり、労働審判は最終的な解決にならない可能性があるということです。

労働訴訟の場合には、最終的な判断となるので、異議申立によって効果を失わせることはできません。

労働審判が扱えるのは労働トラブルのみ

一般的に「裁判」というと、労働事件に限られずどのような法的トラブルも対象になります。

たとえば、賃貸借契約トラブルや借金のトラブルなど、すべて裁判で争えます。

しかし、労働審判で扱えるのは、雇用者(会社・個人事業主)と被用者(従業員)の労働トラブルのみです。

民間の雇用者と被用者間の問題しか対象にならないので、パワハラやセクハラ問題で上司や同僚などの個人を相手にする場合には労働審判を使えません。

労働組合と会社の闘争も対象外ですし、公務員の労働トラブルも労働審判の対象になりません。

このように、労働審判と労働訴訟では、対象になる事件の範囲がまったく異なります。

以上の通り、労働審判と労働訴訟は全く異なる手続きです。

会社相手の労働トラブルであれば、全般的に労働審判の方が取り組みやすいです。

労働トラブルが起こったときには、まずは労働審判を利用して、それでも解決できないときに労働訴訟で解決する、というパターンが多いです。

労働審判制度が始まってからは、いきなり労働訴訟を起こす人は減っています。

労働審判の解決率は?

労働審判の施行開始から令和4年までに終了した事件のうち、66.9%は3ヶ月以内に終了しています。

気になる解決率ですが、だいたい7〜8割程度が労働審判によって最終解決に至っていると考えられます。

労働審判を利用すると、多くのケースで問題を解決できるということです。

参考:労働審判手続き 裁判所

労働審判の最大のメリット・デメリット

労働審判のメリット・デメリット
次に、労働審判にはどのようなメリットやデメリットがあるのか、みてみましょう。

労働審判のメリット

●スピーディに解決できる
労働審判は、労働訴訟(裁判)と比べて、とても早くトラブルを解決できます。

労働訴訟になると平均的には10か月、長引くと1年以上かかるケースもありますが、労働審判なら3か月以内で解決できることが多数です。

いつまでもトラブルを引きずっていると、前に進めず不利益が大きくなるので、早期に解決できる労働審判にはメリットが大きいです。

●個人でも取り組みやすい
労働審判は、弁護士などの専門家に依頼せず、個人で取り組みやすい手続きです。

訴訟は書面審理であり、綿密な法的主張と立証が必要ですが、労働審判の場合、話合いを主として進めるので、当初の3回の調停で解決するなら難しい手続きは不要です。

また、専門知識を持った労働審判員がサポートしてくれるので、労働者に詳しい法律の知識がなくても、正しい方向に話を進めてもらえます。

●法的に妥当な方法で解決できる
労働審判では、労働問題の専門知識を持った労働審判員が関与する上、その後ろには審判官(裁判官)が控えているので、法的に妥当に妥当な内容の解決を実現できます。

自分たちだけで話し合っていると、企業側と労働者側の力の差により、労働者側が著しく不利になってしまったり、法律の考え方とは大きくかけ離れた解決方法になってしまったりすることがありますが、そのような懸念は小さくなります。

●会社に無視されない
労働トラブルが起こったとき、労働者側が会社に申し入れをしても、会社側が軽く考えて無視することが多々あります。

そのような場合、労働審判を起こしたら、会社は放置できません。

労働審判を無視すると、最終的に会社側に不利な審判が出てしまう可能性が高いからです。

トラブルにまっすぐ向き合わない雇用者に対しては、労働審判を起こすと効果的です。

●解決案を提示してもらえる
労働審判で調停手続を進めていっても、お互いが納得できないケースは多々あります。

そのようなとき、専門知識を持ち、たくさんの労働審判の事例を経験してきている労働審判員から、解決策を提案してもらえることはが多数です。

両者が解決案を受け入れるとトラブルを最終解決できるので、自分たちで話し合うよりも解決につながりやすいメリットがあります。

●強制執行ができる
労働審判で話合いによって決めた内容(調停)や確定した審判には、強制執行力が認められます。

そこで、会社側が義務に従った支払いをしない場合、労働者側は調停調書や審判書を使って会社の資産や債権などを差し押さえることができます。

このことにより、確実に未払賃金や慰謝料、解決金などを回収できることも、労働審判のメリットとなります。

労働審判のデメリット

労働審判は非常にメリットの多い手続きですが、デメリットもあるので押さえておきましょう。

●最終解決できるとは限らない
労働審判の最大のデメリットは、最終解決できるとは限らないことです。

労働審判を起こして、話合いでは解決できずに審判をしてもらっても、どちらかが異議を申し立てれば通常訴訟(労働訴訟)に移行してしまうからです。

そうなると、労働審判をしていた審理期間が無駄になり、当初から訴訟を申し立てた方が早く解決できた、という結果にもつながります。

ただ、労働審判から訴訟に移行した事案では、労働審判時に争点などが整理されている分、訴訟移行後も比較的裁判がスムーズに進むことが多いです。

●利用できるケースが限られている
労働審判は、すべての労働トラブルを解決できるものではないことに注意が必要です。

まず、労働審判は雇用者個人と被用者間のトラブルしか対象にしません。

上司からパワハラを受けた場合や、労働組合と会社のトラブルなどは、労働審判で解決できないので、訴訟によって対応する必要があります。

たとえば、パワハラ事案でパワハラをした上司本人と会社の両方を訴えたいとき、会社に対しては労働審判で争えますが、上司に対しては訴訟をしなければならない、ということも起こります。

また、公務員も労働審判を利用できません。

●調停中から準備しておかないと、審判で不利になる
労働審判は、話合い(調停)から開始するので比較的個人でも取り組みやすいと説明しました。

しかし、審判になると、審判官は提出された資料やそれまでの主張内容にもとづいて、法的な観点から判断を行います。

このときには、きちんと法的な主張と立証ができていないと、自分の主張を認めてもらうことができません。

ただ、調停が決裂して審判になると、割合とすぐに結果が出るので、審判が始まってから主張や証拠を揃えようとしても遅すぎます。

労働審判では、調停の段階から、審判を見据えた主張立証を行っていないと、不利な判断が出てしまうので注意が必要です。

労働審判を利用できるトラブル・できないトラブル

以下では、労働審判を利用できるトラブルとできないトラブルについて、詳しくみていきましょう。

労働審判を利用できるトラブルの要件

労働審判を利用できるトラブルの要件は、以下のようなものです。

●雇用者と被用者の労働問題
広く雇用者と被用者間の労働問題が労働審判の対象です。

権利や利益の大小には無関係で、1000円の賃金を要求するために労働審判を利用することも可能ですし、5000万円の退職金を請求することも可能です。

特に多いのが、残業代などの賃金トラブルと解雇トラブルです。

当事者である労働者は「個人」であることが前提なので、「組織」としての労働組合は当事者になりません。

また、相手は雇用者である必要があるので「上司」を相手にすることはできません。

ただし、相手が「会社」である必要はなく、「個人事業主」相手でも、労働審判を申し立てることは可能です。

●権利関係についてのトラブル
労働審判で解決できるのは、「賃金支払い請求権(支払い義務)」や「解雇されたときの在職確認と未払賃金請求権(支払い義務)」などの、権利義務に関する争いに限られます。

賃上げ交渉その他の労働条件改善のための交渉に労働審判を利用することはできません。

利用できるトラブルの例

労働審判を利用できるトラブルの例を示します。

・会社の経営不振を理由とした未払い賃金請求
・未払い残業代請求
・未払い退職金や賞与の請求
・正当な理由のない降格や減給、配置転換など(労働条件の不利益変更)
・解雇トラブル
・雇い止め
・退職強要
・退職勧奨
・会社の安全配慮義務違反

上記のようなトラブルが発生したら、労働審判を検討してみましょう。

利用できないトラブルの例

逆に、以下のようなケースでは、労働審判で解決できません。

・パワハラ上司を訴えたい
・セクハラ加害者を訴えたい
・労働組合による団体交渉を拒絶された
・賃金を上げてほしい
・公務員の場合

労働審判は、対雇用主を前提とした手続きなので、パワハラやセクハラの直接の加害者を訴えることはできません。こうした個人を相手にする場合、訴訟によって解決する必要があります。

公務員は一般の民間企業とは異なる制度によって雇用されているので労働審判を利用できません。

労働基準法や労働組合法、労働関係調整法のいわゆる労働三法の適用がなく、国家公務員法や地方公務員法によって、国や自治体との雇用関係が管理されているからです。

労働審判の流れ

労働審判の流れ画像を拡大する
引用元:裁判所のHP

労働審判を利用するとき、どのような流れになるのかみてみましょう。

申立

まずは、地方裁判所で労働審判の申立をしなければなりません。

審判申立書と証拠などの関連資料、必要な収入印紙と郵便切手を裁判所に提出すると、申立が完了します。

第1回審判期日

申立をすると、裁判所において担当の労働審判官と労働審判員が決まり、第1回審判期日の日程調整が行われます。

そして、労働者と会社側の双方に対し、裁判所から期日呼び出しの通知が送られます。

第1回期日が開かれるのは、申立後1か月程度が経過した頃です。

指定された日に裁判所に行くと、労働審判員や審判官の関与のもとで、調停期日が開催されます。

第1回期日には、労働者側が提出した申立書や証拠、会社側が提出した答弁書や資料をもとにして事実確認を行い、時間的に余裕があれば解決のための話合い(調停)を進めます。

1回目の調停でお互いが合意できたときには、労働審判の手続は第1回期日で終了します。

調停に対して異議申立はできないので、終局的にトラブルを解決できます。

労務安全情報センターの平成22年~26年のデータによると、第一回期日までで終了する割合が30.7%となっています。

1回目では解決できなかった場合、2回目の期日の予定が入れられます。

第2回審判期日

第2審判回期日では、引き続いて労働者側と会社側の話合いが進められます。

労働審判員によるはたらきかけなどの効果もあり、多くの事例では、第2回期日までに調停が成立しています。

2回目までにどうしても調整できなかった場合には、最後のチャンスとして3回目の期日が入れられます。

第3回審判期日

2回調停を行っても解決できない場合には3回目の期日が開かれますが、それでも解決できなかった場合、調停手続は終了し、審判に移行します。

審判

審判になると、審判官が、それまでの当事者の主張内容や提出証拠をもとにして、解決方法を定めます。

双方が審判結果を受け入れたら労働トラブルを終局的に解決できますが、どちらから異議を申し立てると審判の効果はなくなって、通常訴訟に移行します。

異議申立は、審判書を受け取ってから2週間以内に行う必要があるので、注意が必要です。

また、異議申立をすると、わざわざ別途訴訟を申し立てなくても自然に裁判が始まるので、裁判所から訴訟についての連絡があるまで、特に何もする必要はありません。

訴訟になった後に必要になりそうな証拠集めなどの準備をしておきましょう。

労働審判にかかる期間

労働審判にかかる期間は、だいたい2~3か月です。

裁判所の「労働審判手続の概要」によると、全体の7割程度が3か月以内に終了しています。

3か月以上半年以内のケースもありますが、それ以上かかる事例はほとんどありません。

平均的には81.2日程度で解決できるので、目安として「2か月半〜3ヶ月」くらいあれば労働審判でトラブル解決を目指せると考えましょう。

労働審判にかかる費用

労働審判にかかる費用労働審判をするときにかかる費用はどのくらいになるのか、見てみましょう。

費用の種類として、印紙代と郵便切手代、弁護士費用(弁護士に依頼する場合)があります。

●印紙代
印紙代は、裁判所に納める手数料です。収入印紙を購入して支払う必要があります。

会社への請求金額や請求内容により、金額が異なり、請求金額が高額になると、印紙代も高くなります。

たとえば、100万円の未払い残業代を請求するときには、5,000円分の収入印紙が必要です。

請求金額が300万円なら、印紙代は1万円となります。

3,000万円の退職金を請求するなら印紙代は5,5000円です。

労働審判の印紙代は、労働訴訟をするときと比べて半額になっているので、訴訟をするより審判の方が費用を抑えられます。

●郵便切手代
労働審判をするときには、連絡用の郵便切手を提出する必要があります。

金額や内訳は裁判所によっても異なりますが、だいたい2,000円前後となることが多いです。

詳細は、申立先の裁判所の書記官に確認しましょう。

●弁護士費用
労働審判を弁護士に依頼すると、弁護士費用がかかります。

主な弁護士費用として「着手金」と「報酬金」がありますが、着手金は、会社に請求する金額の10%程度が相場です。

解雇など、金銭的評価ができない事件では15~20万円程度かかることが多いです。

ただし、最近では着手金不要の弁護士事務所も増えています。

報酬金については、会社から支払われる金額の15~25%程度となることが多いです。

これら以外に、当初に相談した際の法律相談料として30分5,000円程度必要になることもあります。

最近では法律相談料を無料にしている弁護士事務所が多いので、そういった事務所を利用すると費用を抑えられます。

弁護士費用は、個々の弁護士事務所が自主的に決定できるので、依頼する事務所によって大きく異なってきます。

弁護士を選ぶときには依頼前に費用の「見積もり」を出してもらいましょう。

全体でどのくらいかかるのかを把握して、相場と比べて高すぎないか、しっかり見極めることが大切です。

※関連ページ→「弁護士費用の相場と着手金が高額になる理由

労働審判の法的強制力

労働審判には「法的強制力(強制執行力)」があります。

これは、相手の資産や債権などを差し押さえる効力です。

調停で解決した場合も審判になった場合にも、強制執行力が認められます。

そこで、会社が労働審判で決まった内容を履行しない場合には、預貯金や不動産、売掛金や車両などの動産、株式などを取り立てることにより、強制的に支払わせることが可能です。

ただし、審判が出た後に当事者のどちらかが異議を申し立てて裁判になったときには、審判が失効するので強制執行力は認められません。

労働審判と時効

労働トラブルに巻き込まれたときには「時効」についても意識しておくべきです。

たとえば、残業代請求権や退職金請求権には時効があり、時効が成立するもはや労働審判を起こしても請求することができなくなってしまいます。

・残業代などの未払い給料の請求権の時効期間→2年
・退職金請求権の時効期間→5年

ただ、労働審判を申し立てると、申立の時点で時効が中断されます。

審判の途中で時効期間が経過しても、権利が失われることはありません。

そのまま調停が成立したら、支払いを受けることができます。

審判になった場合やその後に訴訟になった場合も同じで、労働審判申立時に時効が中断します。

そこで、残業代や退職金などの時効が迫っているならば、早めに労働審判を申し立てて権利を守ることが有効な対処方法となります。

労働審判を行った方が良い人・悪い人

労働審判を行った方が良い人とそうでない人の例も、ご紹介します。

労働審判をした方が良い人

・会社に残業代請求をしたい
・解雇トラブルを解決したい
・自分で会社に請求したら、無視された
・自分で会社と話し合いをしたが、決裂してしまった
・会社との関係が悪化している
・スピーディに問題を解決したい
・まずは弁護士に依頼せず、自分で解決を目指したい
・会社が安全配慮を怠ったので、怪我をしてしまった、死亡した

労働審判に向いていない人

・賃金を上げてほしい
・労働環境を改善してほしい
・会社に理解があり、自分で話し合いを持ちかけると、きちんと対応してくれそう
・公務員
・パワハラ上司を訴えたい
・証拠が不足している(今後も集められない)

上記のようなケースでは、労働審判による解決が難しくなる可能性が高いです。

労働審判を少しでも優位に進めるには

労働審判を有利に進めるには、以下のような点を工夫してみましょう。

なるべく資料を集める

労働審判は、会社側との話合いから始まるので、証拠の提出は必須ではありません。

それ故、充分に資料を集めないまま労働審判を申し立ててしまう方がおられます。

しかし調停段階で労働審判員を説得し、自分の言い分に沿った方向で話を進めてもらうには、必ず根拠資料が必要です。

また調停が決裂して審判になったとき、証拠がなかったら主張を認めてもらうことができません。

そこで、労働審判前に、なるべく多くの資料を集めておくべきです。

主張内容をわかりやすく整理する

労働審判では、法的な主張を整理して述べられるかどうかも重要です。

たとえば、解雇されたときにどうしてそれが不当解雇にあたるのか、どの法的要件を満たしていないから解雇が無効なのか、的確に説明出来なければなりません。

主張が不十分な場合、労働審判員も会社を強く説得することができませんし、審判になったときには負けてしまう可能性が高まります。

弁護士に相談する

労働審判を有利に進めるためには、少なくとも事前に弁護士に相談をして、アドバイスを受けておくべきです。

本来は依頼した方が有利になるのが間違いないですが、費用的な問題などから、どうしても依頼はしたくないという方もおられます。

そのような場合には、無料相談や有料相談を利用して、1回でも良いので、法律の専門家からの助言をもらっておくと、対処が変わってきます。

まずは労働審判の準備を始める前に相談を受けて、どのような証拠が必要で、どのようなことを申立書に書けば良いのかを尋ねましょう。

その後、自分で証拠と申立書を作成した後、弁護士にみてもらって内容に問題はないか、付け加えることや削った方が良いこと、不足している資料などについて、アドバイスをもらってから申立に及ぶと良いでしょう。

労働審判で、弁護士をつけた方が良いケース

労働審判で、弁護士をつけた方が良いケース<労働審判では弁護士をつけなくても進められると説明しましたが、弁護士に依頼した方が得になるケースがあります。

それは以下のような場合です。

請求金額が高額

残業代や退職金など、高額な請求をするときには、弁護士費用を支払っても充分利益が出る可能性が高いです。

難しい法的問題を含んでいる

たとえば解雇トラブルなどでは、法律的に難しい判断が含まれており、素人ではうまく対応できないことがあります。

会社が調停で譲ってくれない場合、審判で主張や立証が不十分になったら負けてしまうので、当初から弁護士に依頼しておく方が安心です。

自分で対応するのは難しい、煩わしいことをしたくない

労働審判の手続きは訴訟に比べて簡単、とは言っても一般の方には難しく感じることも多いです。

申立書類の作成や裁判所とのやり取りなど難しく感じる方や、煩わしいことをやりたくない方は、弁護士に代わりにやってもらうと良いでしょう。

忙しいので誰かに代わりにやってほしい

解雇や残業代でトラブルになると、今の会社に残ることを希望せずに転職活動をする方も多いです。

その場合、日々の活動で忙しくなるので、以前の会社との労働審判を自分で進めるのが困難になりがちです。

日々の生活や仕事、転職活動などに集中したい場合には、労働審判を弁護士に任せる方が良いでしょう。

弁護士保険を利用できる

弁護士保険に加入していると、労働審判の費用を弁護士保険が負担してくれます。

弁護士の着手金、報酬金だけではなく、印紙代や郵便切手代などの実費まで支払いの対象になるので(これらは自分で労働審判を起こしたときにも必要な費用です)、弁護士に依頼しないと損になると言ってよいくらいです。

弁護士保険を利用できるなら、労働審判前に必ず弁護士に依頼しましょう。

また、「労働政策研究報告書 No.174 2015 「労働局あっせん、労働審判及び裁判上の. 和解における雇用紛争事案の比較分析」によれば実際には、9割弱のケースで双方ともに弁護士を利用しています。

件数 割合
労使双方が弁護士を利用 402 88.9%
弁護士側のみが弁護士を利用 8 1.8%
使用者側のみが弁護士を利用 39 8.6%
双方ともに弁護士を利用しない 3 0.7%

まとめ

未払い賃金、残業第トラブル、不当解雇など、労働審判が有効となるケースはとても多いです。

今回の記事を参考に上手に労働審判を活用し、あなたの権利の実現に役立ててみてください。

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