【図解】仮処分命令とは?仮処分申請の流れと本訴訟との違い

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この記事の執筆者

福谷 陽子(元弁護士)

弁護士に依頼するなどして裁判を起こすとき、「仮処分」という手続きを利用するケースがあります。

テレビのニュースなどでも耳にすることのある「仮処分」ですが、一般には実際にどのような手続きか知られていることは少なく、「通常の裁判と仮処分の違いは何か?」と聞かれても、よくわからないということがほとんどでしょう。

仮処分と似た手続きに仮差押(かりさしおさえ)がありますが、仮差押と仮処分の違いについても「わからない」という方が多いと思います。

そこで今回は、知っているようで知らない「仮処分」手続きの内容と流れ、さらには仮処分を弁護士に依頼した場合の費用について解説します。

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こんな疑問にお答えします

Q: 仮処分命令とは何ですか?

A:福谷 陽子(元弁護士)
仮処分とは、
・裁判が通常、1~2年など、長く時間がかかる
・裁判が終わるのを待っていては、相手が財産隠しなどをして裁判の目的が達成できないケースがある
・それを防ぐ為に、一定のケースにおいて、仮に財産の処分を禁止したり、債権者に仮に一定の地位を認める
・それにより、裁判の結果が無駄にならないように対処する
という一連の行動を言います。

仮処分とは

仮処分とは、

「ある権利関係に関してトラブルが起こっている場合、本訴(裁判)による結果を待っていては債権者に著しい不利益が発生する危険があり、保全を認める必要性が高い場合に、権利保全に必要な暫定的措置を認める処分」

のことです。

このように言われても、理解するのは難しいでしょうから、以下でわかりやすく説明します。

通常、トラブルが起こった場合に裁判をしますが、裁判はとても時間がかかります。

1年~2年以上もかかることも多いです。

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ところが、裁判が終わるのを待っていては、相手が財産隠しなどをして裁判の目的が達成できないケースがあります。

たとえば、相手の所有している不動産が問題になっている場合、判決前に相手が不動産を誰かに譲渡してしまったら、相手に対して勝訴判決が出ても無駄になってしまうおそれなどがあります。

そこで、法律は、一定のケースにおいて、仮に財産の処分を禁止したり、債権者に仮に一定の地位を認めたりする事により、裁判の結果が無駄にならないように対処しています。

そのために必要な仮の手続きのことを、仮処分と言います。

仮処分とは

仮処分で認められるのは仮の決定なので、本訴で決着がついたときには、本訴の結論が優先されます。

たとえば、仮処分が認められていても、本訴で負けてしまったら仮処分の効力はなくなりますし、相手に損害が発生していたら賠償しなければなりません。

本訴訟で勝訴できたら仮処分の内容通りになります。

仮処分と本訴訟の違い

裁判所まず、本訴訟とは、通常の裁判手続きのことであり、これによって権利の内容が確定します。

これに対し、仮処分は暫定的な権利や地位を定めるだけの手続きなので、仮処分があっても権利内容は確定せず、後に本訴で異なる判断が出ることもあります。

本訴は1年や2年などの長期間かかりますが、仮処分は2週間~2,3ヶ月程度の早期に結論が出ます。

仮処分と本訴訟の違い

仮処分と仮差押の違い

仮処分も仮差押も、ともに本訴の結果が出るまで待っていられない場合に、仮に権利や地位を定める民事保全です。

ただ、仮差押は、金銭債権の保全を目的とする場合に利用が限られます。

たとえば、相手に対して「貸金」という金銭債権の返還請求をしたい場合、本訴の結果が出るまで待っていたら、相手が自分の財産を処分してしまうかもしれない場合などに、相手の預貯金や不動産などを仮に差し押さえることができます。

これに対し、仮処分は、金銭債権以外の権利の保全を目的とする場合に利用します。

たとえば、「不動産」は金銭債権ではないので、その所有権移転登記の請求をする場合、本訴の決定を待っていては相手が別の人に不動産を譲渡してしまうおそれがある場合などに、仮処分によって不動産の所有権移転をできなくさせることが可能です。

仮処分と仮差押の違い

仮処分が認められる要件

仮処分が認められるためには、どのような要件が必要なのでしょうか?

具体的には「被保全権利」と「保全の必要性」が必要です。

まずは、仮処分で保全されるべき権利の存在があることが前提です。

また、仮処分を認めると、相手にとっては権利の制限をされることになるので、大きな影響があります。

そこで、やみくもに認める事はできず、保全の必要性も求められます。

たとえば、本訴が終わるまで待っていては強制執行(差し押さえ)ができなくなるおそれが高い場合や、本訴が終わるまで待っていては権利の実行が困難になる場合に、保全の必要性が認められます。

保全の必要性があるかどうかについて判断する際には、債務者の財産状態や収入、職業や地位などが考慮されます。

仮処分は2種類ある

仮処分の種類仮処分には、2つの種類があります。

それは、「係争物に関する仮処分」と「仮の地位を定める仮処分」です。

以下で順番にわかりやすく説明します。

係争物に関する仮処分

係争物に関する仮処分とは、金銭債権以外の権利の実現を保全するため、「現状維持」を命じる手続きです。

係争物に関する仮処分には、処分禁止の仮処分占有移転禁止の仮処分があります。

●処分禁止の仮処分
処分禁止の仮処分とは、不動産の所有権移転や登記、抵当権設定などの処分の禁止を目的とする仮処分のことです。

たとえば、不動産の返還を目的としている場合、相手が他人に不動産を売却してしまったら、たとえ裁判で勝っても不動産の取り戻しができなくなるので、処分禁止の仮処分によって権利移転が禁じられます。

●占有移転禁止の仮処分
占有移転禁止の仮処分とは、建物などの占有を、他人に移転することを禁じる仮処分のことです。

たとえば、賃貸借契約で相手に対して建物の明け渡しを求める場合など、本訴終結前に相手が勝手に第三者に建物を占有させてしまったら、第三者に対しても裁判が必要になってしまい、相手に対して勝訴判決が出ても目的を達成できません。

そこで、占有移転禁止の仮処分によって、相手が第三者に占有を移転できないようにして、権利を保全することができます。

仮の地位を定める仮処分

次に、仮の地位を定める仮処分について、見てみましょう。

仮の地位を定める仮処分とは、本訴前に債権者に仮に法的な地位を認める事により、権利保全をはかる手続きのことです。

このように言われてもわかりにくいでしょうから、よりわかりやすく説明します。

仮の地位を定める仮処分は、債権者の権利を守るために利用できる「仮差押と係争物に関する仮処分以外の手続き」です。

これら以外を「すべて」含むので、仮の地位を定める仮処分の範囲はとても広くなります。

たとえば、自分の敷地内に他人が勝手に建物を建築し始めたとします。

この場合、本訴によって相手に差し止めを請求しても、認められるまでの間に建物が完成してしまい、不利益が及びます。

そこで、仮の地位を定める仮処分によって仮に建物建築を差し止めて、債権者の権利を守ります。

仮の地位を定める仮処分の具体的ケース

仮の地位を定める仮処分の範疇はとても広いので、具体的にどのようなケースで認められるのかのイメージがわきにくいことが多いでしょう。

そこで、以下では仮の地位を定める仮処分の具体例をご紹介します。

金員仮払い

まずは、金員仮払いの仮処分があります。

これは、仮に相手に対してお金を支払わせる場合です。

たとえば、交通事故の被害者が相手に対して損害賠償請求を求めているケースで、被害者が非常に生活に困窮しているケースを考えてみます。

このとき、本訴の結果が出るのは1年後などになるので、被害者はその間生活出来なくなります。

そこで、金員仮払いの仮処分によって、相手にお金を支払わせることができます。

また、労働者が会社に対して未払の給料の仮払いを求める際にもよく利用されます。

この場合も、本訴の結果が出るのを待っていては労働者が困窮することがありますし、会社自体が倒産したり逃げたりして給料の支払いが受けられなくなるおそれがあるので、仮処分が認められます。

建物などの建築工事の禁止

次に、建物などの建築工事を禁止する場合にも、仮の地位を定める仮処分が利用されます。

たとえば、自分の土地内に勝手にフェンスや壁などを作られそうな場合、本訴の決定を待っていては建築物が完成してしまって不都合です。

そこで、本訴決定前に、仮処分によって差し止めをすることができます。

私道上に柵を作られて通れないようにさせられそうな場合にも、仮処分によって撤去することが認められます。

自宅の隣に高い建物が建って、自分の家に日光が当たらなくなり日照権侵害が起こりそうな場合にも、建物が建ってしまってからでは被害回復が難しいので、やはり仮の地位を定める仮処分によって差し止めが認められます。

自分の所有している建物内に不法に投棄物が放置されている場合、本訴の決定が出るまで待たなければならないのは不合理なので、やはり仮処分によって撤去することが可能です。

原発の運転禁止を求める仮処分が起こることもありますし、ストーカー行為を禁じる仮処分が命じられるケースもあります。

名誉毀損やプライバシー権侵害

名誉毀損やプライバシー権侵害が危惧される内容の本が出版されそうな場合には、出版差し止めの仮処分によって権利を守ることができます。

最近では、インターネット上に誹謗中傷記事が掲載された場合に、名誉毀損やプライバシー権侵害などにもとづいて削除を求める仮処分などがよく利用されています。

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解雇

労働者が不当解雇により訴訟を提起する際には、労働契約上の権利を有する地位を仮に定める「地位保全仮処分」を申し立てることができます。

また、この場合には、賃金仮払の仮処分も併せて申し立てることが一般的です。

仮処分申立の手続きの流れ

本訴の決定を待つことができない場合に権利保全をするための仮処分ですが、具体的にはどのような方法で、手続をすすめることができるのでしょうか?

以下で、順を追って解説します。

仮処分申請の流れ

①まずは申立をする

参考:裁判所HP

不動産仮処分命令申立書のサンプル 参考:裁判所HP

仮処分は、裁判手続きの中でも複雑で専門的なものです。

被保全権利の存在と権利保全の必要性を疎明しないと、裁判所は仮処分命令を出してくれないため、素人が自分ですすめようとしても、うまくいかないおそれが高いです。

ですので、仮処分をするときには、まずは弁護士に手続を依頼する必要があります。

弁護士に仮処分手続きの依頼をしたら、弁護士が資料を揃えて申立をしてくれます。

申立の際には、「仮処分命令申立書」という書類を作成して裁判所に提出しなければなりません。

ここには、「被保全権利」と「保全の必要性」をわかりやすく記載して、正本と副本を提出します。

さらに、「被保全権利」と「保全の必要性」を疎明するための資料も沿えて提出する必要があります。

疎明(そめい)とは、証明の程度にまでは至らないけれども、裁判官に「一応確からしい」と考えてもらえる程度の資料です。

仮処分の申請先の裁判所は、本訴訟が係属している地方裁判所か、係争物を管轄している地方裁判所になります。

②裁判所で審尋が行われる

仮処分の申立をしたら、裁判所において審尋が開かれます。

審尋とは、裁判官との面談のことです。

弁護士に依頼していれば、弁護士のみが出頭して手続を進めることができます。

このとき、疎明に必要な資料が足りていなければ、追加で資料提出を促されますし、被保全権利などについての債権者の言い分が不十分な場合にも、やはり補正を促されます。

これらの追加の資料提出や補正がないと、手続きが先に進みません。

③相手方に対しても審尋が行われる

仮処分命令が出ると、相手の権利が制限されることになるので、相手にとっては大きな影響があります。

そこで、仮処分の手続きでは、相手の手続き保障のため、相手に対しても審尋が行われます。

このことを、債務者審尋(さいむしゃじんしん)と言います。

相手方からも主張があれば聞き入れられますし、疎明資料の提出があればその内容も考慮されます。

④要件を満たせば仮処分命令が発令される

債権者から提出された主張内容や疎明資料や債務者審尋の結果、裁判官が被保全権利と保全の必要性の要件を満たすと考えた場合には、仮処分命令が発令されます。

債権者による主張内容や疎明が足りない場合には、仮処分は発令されません。

債務者からの反論や疎明によって、裁判官が要件を満たさないと考えた場合にも、やはり仮処分命令の発令は行われません。

仮処分と本訴のタイミングについて

仮処分は、本訴を前提とする手続きです。

本訴とは、仮処分によって保全する権利を実現するための裁判です。

たとえば、名誉毀損が問題となる出版物を差し止める仮処分の場合、本訴は「出版差し止め請求訴訟」となります。

ここで仮処分や本訴を「いつ起こすのか?」と疑問を持たれる方がたくさんいらっしゃいます。

たとえば、「仮処分をしてから本訴」となるのか「本訴の最中に仮処分を起こしてもかまわない」のか「仮処分だけを申し立てて本訴をしないことが可能か」など、わかりにくいですよね?

以下では仮処分と本訴のタイミングについて、解説します。

仮処分と本訴の違い、関係

仮処分は後に覆る可能性がある

仮処分は、「仮に地位を定めたり暫定的な権利を認めたりする判断」です。

仮の判断なので確定的ではなく、後に裁判が起こったら判断が覆る可能性もあります。

たとえば、出版差し止めの仮処分が認められても、後に裁判(本訴)をしたら負けてしまい、出版が認められるケースがあります。

その場合、仮処分は無効となります。

一方、本訴は「確定的に権利や義務を認める判断」です。

本訴で決まったことは絶対的であり、後に別の手続きによって覆ることはありません。

仮処分はスピーディに判断してもらえる

仮処分と本訴は、かかる時間も異なります。

そもそも仮処分を行う目的は「本訴を最後まで進めていると、その間に重大な権利侵害が起こる可能性があるので、早期に仮処分を出してもらって権利を守る」ことです。

このように「仮の」判断なので、仮処分の場合には早く結論を出してもらえます。

一方、本訴では「権利義務が確定する」という重大な効果が発生するので慎重に対応する必要があり、時間がかかります。

つまり、「本訴を待っていることができない場合に仮処分を行う」という仕組みになっています。

このように、仮処分は本訴を前提とする手続きなので、基本的には「仮処分のみを行って本訴をしない」ことは予定されていません。

仮処分と本訴を起こすタイミング

では、実際に仮処分の申請をするとき、仮処分と本訴のタイミング(先後関係)はどのようになるのでしょうか?

仮処分→本訴の流れが一般的

「仮処分は本訴を待っていられないときに行う緊急の手続き」であることからすると、理屈として仮処分を先に行ってから本訴をするのが本筋です。

仮処分によって、まずは権利を保全した上でゆっくりと訴訟を進めることができるからです。

実際に、そのような流れになることが一般的です。

●具体例
名誉毀損の文書が出版されそうなとき、先に出版差し止めの仮処分を出してもらってから出版差し止め訴訟を行い、判決によって確定的に出版差し止め命令を出してもらうケース

本訴と仮処分を同時に申請できる

仮処分が本訴の前提とはいえ、必ず仮処分を本訴前に申し立てなければならないわけではありません。

本訴と仮処分を同時に申請することも可能です。

実際、仮処分の申立内容と本訴の申立内容は似通っていることが多いので、同時に準備できれば同時に申立をすることに全く問題はありません。

●具体例
名誉毀損の文書が出版されそうなとき、出版差し止めの仮処分と本訴を同時に行う。

先に仮処分命令が出るので、その後は落ち着いて訴訟を進めて判決で確定的に出版差し止め命令を出してもらうケース

本訴提起後に仮処分も可能

例としてはあまり多くありませんが、本訴提起後に仮処分を申し立てることも可能です。

先に本訴を申し立てたけれども、訴訟の途中で相手が不穏な動きを見せたので牽制するために仮処分を行う場合などです。

ただ、いったん本訴を提起してしまったら相手は警戒しますし、本訴に刺激されてこちらが懸念していた行為を実行してしまうケースなどもあります。

たとえば、名誉毀損の書籍の出版差し止めを求めるとき、仮処分前に本訴をしたら、相手は出版に踏み切ってしまうかもしれません。

本訴をしてから仮処分をすることは可能ですが、あまり有効ではないのでお勧めはできません。

●具体例
名誉毀損の文書が出版される危険があるけれどあまり具体的になっていない場合などに、訴訟で出版差し止めを求める。

しかし、訴訟を進めている間に相手が出版に踏み切りそうな態度をとり始めたので仮処分によって出版を差し止めるケース

仮処分だけで本訴をしないのは可能?

以上のように、仮処分と本訴のタイミングは法律上決まっていませんが、これを一歩進めて「仮処分だけ行って本訴をしない」ことは可能なのでしょうか?

仮処分のみを行って本訴をしないこと自体に問題はない

債権者は、仮処分や訴訟を「いつ行うか」だけではなく、そもそも手続きを行うかどうかも自由に決められます。

仮処分だけを行い、本訴をしないことも可能です。

実際に仮処分だけで目的を達成できる場合には、その後本訴をしないケースもあります。

たとえば、以下のような場合です。

「ネット誹謗中傷において、誹謗中傷の投稿を削除するための仮処分命令を出してもらう」

この場合、仮処分によって「投稿の削除」という目的が達成されてしまうので、その後本訴をする必要がありません。

仮処分が通ったら本訴をしないのが通常です。

債務者は「起訴命令の申立」ができる

ただし、上記のような例は少数であり、一般的には仮処分のみが認められて本訴をされない場合、債務者の地位が非常に不安定になります。

たとえば、名誉毀損のおそれがあるので文書出版の差し止め命令(仮処分)が出た場合、本訴が確定しない限り債務者はいつまでの文書の出版ができません。

本訴で債務者が勝訴すれば出版できるのですから、このように仮の判断によって出版を禁止され続けるのは不利益です。

そこで、債務者は裁判所に対し「起訴命令の申立」をすることができます。

起訴命令とは、裁判所が債権者へ「裁判を起こしなさい」と命令することです。

つまり、債権者が仮処分だけを中途半端に行って本訴を提起しないので、債務者は裁判所を通じて債権者へと本訴提起を促すよう求めることができるのです。

債務者から起訴命令の申立があると、裁判所は債権者に対して相当期間を定めて裁判を起こすよう命令を出します。

相当とされる期間はケースにもよりますが、1か月程度が標準と考えましょう。

起訴命令が出た場合の効果

起訴命令が出たら、債権者は指定された期間内に本訴を申し立てなければなりません。

相当期間が過ぎても本訴提起しない場合には、債務者は一方的に仮処分命令を取り消すことが可能です。

つまり、起訴命令を無視していると、せっかく出された仮処分が無効になってしまうということです。

●具体例
名誉毀損のおそれがある出版物を差し止める仮処分を受けてそのまま放置していたら、出版社が起訴命令を申し立て、裁判所が1か月以内に本訴を申し立てるよう起訴命令を出した。

その後1か月を経過しても差し止め訴訟を起こさなかったため、債務者の申立によって仮処分が取り消されてしまった。

結果として出版社が文書の出版に踏み切り、権利侵害が起こってしまった。

このように、仮処分のみによって目的を達成できない通常のケースでは、早期に本訴を申し立てないとせっかく仮処分を出してもらった意味がなくなる可能性があります。

仮処分が認められたら、早めに本訴の提起をしましょう。

相手が処分に不服の場合は保全異議ができる

仮処分命令が出たとき、相手に不服があれば、相手は仮処分決定の送達を受けた2週間以内であれば、保全異議という手続きをすることができます。

保全異議と同時に執行停止の申立をすれば、仮処分命令が出ても、債権者(仮処分の申立人)目的を達することができません。

保全異議や保全抗告は、仮処分命令が発令されたのと同じ裁判所(地方裁判所)です。

保全異議による決定に対して不服がある場合には、高等裁判所に対して保全抗告という手続きをとることができます。

仮処分の申立にデメリットはあるの?

仮処分は、通常訴訟の判決を待たずに財産や権利を保全できるというメリットがあると解説してきました。

では、デメリットはあるのでしょうか。

デメリットを一つあげるとすれば、担保金が必要になることです。

仮処分では、申立人が発令する前に担保金を供託することになります。この担保金の基準は裁判所によって決定され、対象の目的物や債権によって異なります。

仮処分の申立には、担保金が必要になることを理解しておきましょう。

仮処分申立にかかる費用

次に、仮処分申立をする際にかかる弁護士費用について、ご説明します。

仮処分にかかる費用

着手金

仮処分申立を弁護士に依頼すると、着手金がかかります。

着手金とは、弁護士に事件処理を依頼する際、当初にかかる費用のことです。

仮処分申立の着手金は、依頼する事務所と依頼する仮処分の内容によって大きく異なります。

定型的な処分なら20万円でも受けてもらえますし、原則30万円としている事務所もあります。

請求金額によって金額を設定していて、原則的に請求金額の5%とした上で、最低額が10万円と定めている事務所などもあります。

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報酬金

報酬金とは、事件が解決したときに、その解決内容に応じてかかってくる費用のことです。

仮処分申請が通って仮処分命令が発令された場合に、報酬金を支払う必要があります。

仮処分の報酬金も事務所と請求内容によってさまざまです。

20万円~30万円としている事務所も多いですが、請求金額の4%~5%程度にしている事務所などもあります。

実費

仮処分をする場合、裁判所に対する申立が必要になるので、裁判所に納める費用(実費)がかかります。

具体的には、債務者1人について2,000円の収入印紙と数千円分の予納郵便切手が必要となります。

予納郵便切手の金額と内訳は、各地の裁判所によっても異なるので、事前に確認する必要があります。

保証金

仮処分命令が発令される場合、保証金を要求されることが普通です。

保証金の金額は一律ではなく、求める仮処分の内容によってさまざまです。

請求債権の2~3割程度になることが一般的と言われますがケースによって異なり、疎明の度合いが低いケースなどでは、より高額になります。

裁判所で決定された保証金の供託がないと、仮処分の効力は発生しないので注意が必要です。

また、仮処分が認められても本訴で敗訴してしまった場合、相手が仮処分によって損害を被っていれば、保証金は相手に支払うことになります。

この場合、保証金は債権者の手元には戻ってきません。

逆に、債権者が本訴で勝訴した場合や、相手方が取り戻しに同意した場合には、取りもどすことが可能です。

ただ、労働者が会社に対して未払賃金の請求をする場合には、保証金が不要になるのが一般的です。

労働者の未払賃金請求においては、労働者は収入がなく困窮していることが仮処分を認める理由になるので、保証金を支払えないことが前提であるため要求されないのです。

まとめ

以上のように、仮処分は、聞いたことはあっても実際に内容を把握している人は少なく、かなり複雑で専門的なので、理解が難しいです。

ただ、本訴の裁判結果を待っていては権利が保全されないことも多いので、債権者の権利を守るために重要な手続きであることは確かです。

今、裁判手続き中で、本訴の結果を待っていると不都合な急ぎのケースなどには、一度弁護士に仮処分申請の相談をしてみると良いでしょう。

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記事を振り返ってのQ&A

Q:仮処分と本訴訟の違いは何か?
A:本訴訟とは、通常の裁判手続きのことであり、これによって権利の内容が確定します。これに対し、仮処分は暫定的な権利や地位を定めるだけの手続きなので、仮処分があっても権利内容は確定せず、後に本訴で異なる判断が出ることもあります。本訴は1年や2年などの長期間かかりますが、仮処分は2週間~2,3ヶ月程度の早期に結論が出ます。

Q:仮処分と仮差押の違いは何ですか?
A:仮差押は、金銭債権の保全を目的とする場合に利用が限られます。たとえば、相手に対して「貸金」という金銭債権の返還請求をしたい場合、本訴の結果が出るまで待っていたら、相手が自分の財産を処分してしまうかもしれない場合などに、相手の預貯金や不動産などを仮に差し押さえることができます。これに対し、仮処分は、金銭債権以外の権利の保全を目的とする場合に利用します。

たとえば、「不動産」は金銭債権ではないので、その所有権移転登記の請求をする場合、本訴の決定を待っていては相手が別の人に不動産を譲渡してしまうおそれがある場合などに、仮処分によって不動産の所有権移転をできなくさせることが可能です。

Q:仮処分が認められる要件は何ですか?
A:「被保全権利」と「保全の必要性」が必要です。

Q:仮処分申立の手続きの流れとは?
A:①申し立て ②裁判所で審尋 ③相手方に対しても審尋を行う ④仮処分命令

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