SNSを活用していると、本人になりすまして投稿するアカウントを見かけることがあります。
ある芸能人が、自身は活用していないSNS上において、本人と称するアカウントが開設されたことに不快感を表明されたということがありました。
このような「なりすまし」行為は、不快というだけではなく、社会的な評価を低下させてしまうこともあります。
そのため本人の承諾を得ることなく、勝手に芸能人の顔写真を活用して投稿している行為は、「肖像権の侵害」にあたる可能性があります。
今回ここでご紹介する事例は、「なりすまし」投稿による肖像権侵害が認められたケースですが、「肖像権」に着目してお伝えしていきたいと思います。
なお、肖像権の定義については下記の記事でより詳しく解説しています。
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肖像権とは?定義や侵害となる基準についても徹底解説
SNSを利用する人が多い昨今、被写体の許可をとらないまま動画や写真が公開されてしまうケースが問題になっています。場合によっては、このような行為は「肖像権の侵害」に該当します。 本来、動画や写真を撮影・公開するときは被写体 …
こんな疑問にお答えします
A.肖像権侵害とみなされる可能性が高くなります。
撮影自体は許可してSNSなどへの公開を認めていない場合にも、肖像権侵害が該当する可能性があります。
他者によって勝手に写真や画像を使用されている場合であれば、速やかに実績豊富な弁護士に速やかに相談することをおすすめします。
【事例で学ぶ】なりすまし投稿による肖像権侵害で損害賠償請求が認められたケース
この事件は、インターネットの匿名掲示板において原告本人と同じアカウント名で開設し、本人の顔写真を無断で活用したうえで、第三者に対して罵声を浴びせ、名誉毀損的な発言を投稿したというものです。
「なりすまし」投稿によって社会的評価が低下した原告は、投稿を行った被告に対して慰謝料と弁護士費用などを含めて、計723万6000円の損害賠償請求を行っています。
裁判所は肖像権をはじめ名誉権の侵害も認め、慰謝料額60万円、発信者情報開示に要した費用85万6,000円、弁護士費用12万円の合計130万6,000円の支払いを命じました。
ここで認められた侵害内容は、「肖像権」と「名誉権」です。
肖像権については、原告本人の顔写真を無断で使用し、社会的評価を低下させるような内容の投稿を繰り返したために、利益を侵害したとして認められました。
また名誉権については、なりすまし投稿によって、一般ユーザーが普通にその投稿を読めば、原告本人の投稿であると誤認するであろうと認めることが相当であると判断しています。
「肖像権」に背景にある「プライバシー権」とは
今回ご紹介した事例では、本人の顔写真を勝手に使用し、なりすまし投稿によって本人の社会的評価を著しく低下させたとして肖像権を侵害していると認められました。
では、もし自身が観光地で撮った写真に他人が写り込んでいて、その写真をSNSに投稿したとしたら、それは「肖像権侵害」に当たるのでしょうか。
私たちには「表現の自由」という権利も認められていますが、たまたま写り込んでいた人のために、表現の自由が奪われてしまうことになるのでしょうか。
「肖像権」には、その背景に「プライバシー権」があると言われています。どのような権利なのか明らかにしたうえで、肖像権について詳しくお伝えしていきます。
みだりに公開されない権利
私たちには、プライバシーが存在し、私生活上での事柄をみだりに公開されない権利を持っており、それを「プライバシー権」と呼んでいます。
「私生活上での事柄」には、撮られた写真や画像も含まれます。
例えば、過去の写真や私生活上の写真を勝手にSNSなどに投稿されたりすると、不快感や嫌悪感を覚えるのではないでしょうか。
みだりに撮影されない権利
プライバシー権には、公開されない権利だけではなく、みだりに撮影されないという権利も持っています。
例えば、いきなり断りもなく他人に写真を撮られると、不快に感じるでしょう。
近年では、安全面の観点から、運動会や学校行事などの写真をSNSにアップしないように呼びかけていることが多くなりましたが、これもプライバシーに対する配慮であるといえます。
肖像権侵害になるケース
では、実際にどのようなケースがプライバシー権侵害に該当するのかお伝えしておきます。
例えば、観光地で撮った写真に、たまたま他人が写り込んでしまった場合には、プライバシー権侵害に該当するのでしょうか。
今回ご紹介したケースで言いますと、
- 他人の写真を本人の許可なく無断でSNSなどにアップロードした場合
- SNSなどにアップロードした写真や画像が拡散される可能性が高い場合
といった内容が肖像権侵害に該当すると認められました。
肖像権侵害はこのようなケースだけではなく、撮影自体は許可して、SNSなどへの公開を認めていない場合には、該当する可能性があります。
そのように考えてみれば、肖像権侵害ならないようにするためには、
- 写真をアップロードする際には誰なのか判別つかないようにする
- 写真をそのままアップロードするのであれば必ず本人に許可を得る
といった配慮が必要となります。
肖像権侵害の判断基準
- 写真や画像などによって本人を特定することができる
- 本人から写真や画像の撮影や公開の許可を得ていない
- SNSなどにアップロードされていて拡散される可能性が高い
- 写真や画像は私的な領域で撮影されている
今回ご紹介した判例も含め、さまざまなケースをもとに判断基準を探っていくと、上記4つのポイントにまとめることができます。
肖像権侵害の判断基準は、法律で明確に明文化されている訳ではありません。
そのため、過去に裁判所が下した判例などから、その判断基準を理解しなければならないのです。
写真や画像などによって本人を特定することができる
写真や画像が、本人だと特定することができる場合には、許可なく使用すると肖像権侵害に該当します。
仮に、横顔や髪で隠れているような場合でも、本人と判別できるようであれば肖像権の侵害になりますし、後ろ姿であったとしても名札などが写っているような場合ではプライバシー権の侵害に該当する可能性があります。
ただし、顔の正面が写っているとしても、かなり遠くであったり、多数の人物が写り込んでいて、人物の特定が難しい場合であれば肖像権の侵害には当たらない可能性が高いでしょう。
本人から写真や画像の撮影や公開の許可を得ていない
上記でもご説明した通り、プライバシー権として、
- みだりに公開されない権利
- みだりに撮影されない権利
が存在します。
撮影や公開には必ず本人の許可が必要になるということです。
ここで注意すべきは、撮影と公開は別々の許可が必要になり、仮に撮影する許可があったとしても公開しても良いということにはなりません。
また、一度許可されたからと言って、いつまでも使っていいかと言うと、そうではありません。
その時点で、本人が望んでいないのであれば、公開してしまうことによって人格権の侵害に該当する可能性がありますから注意が必要です。
SNSなどにアップロードされていて拡散される可能性が高い
写真や画像がどの場所で公開されたかということがとても重要で、上記のケースのように匿名掲示板であれば誰もが閲覧できますから、拡散されてしまう可能性があります。
SNSにおいても拡散性が高いために、肖像権の侵害が成立しやすいと言えるでしょう。
ただ、本人の許可がないとしても、ごく少数だけに見せてしまった程度であれば、肖像権の侵害とまでは認められにくくなるでしょう。
写真や画像は私的な領域で撮影されている
公開した写真や画像が、道端や外出先で撮られたようなものであれば、大勢の人に目につく場所ですから、肖像権の侵害とまでは認められない可能性があります。
しかし、自宅で撮影したものや、私的な領域で撮影しているものであれば、肖像権の侵害として認められる可能性が高くなります。
肖像権侵害によってとれる民事責任
ここからは、肖像権侵害によってとれる法的措置を解説します。
肖像権の侵害は、無断で自身の写真や動画を撮られ公開されることを指し、民法上の不法行為にあたります。そのため、民事責任の追従が可能です。
問える責任は、問題となった投稿の差し止め請求や損害賠償請求が認められます。
差し止め請求
差し止め請求とは、他者が違法な行為を行っている、もしくは行う恐れがある場合に、その行為を止める法的手続を指します。
差し止め請求を行う流れは、以下のとおりです。
- 相手に違法行為をやめるよう請求(書面・口頭のどちらも可)
- 相手が応じない場合は裁判所にて仮処分の申立を行い、訴訟を提起する
- 裁判所で審理が行われる
- 裁判所で認められれば、相手に当該行為を止めるよう命じられる
- それでも相手が応じない場合は、強制的に行為をやめさせる手続きが行われる
注意点として、相手が肖像権を侵害する行為をはたらいていたとしても、表現の自由を主張しそれが認められてしまうケースもあります。
トラブルを確実に解決させるためにも、ぜひ弁護士のサポートを受けることをおすすめします。
損害賠償請求
肖像権侵害によって苦痛を被った場合は、相手に対して損害賠償請求ができる可能性があります。
ここで、SNSなど匿名で利用できるサービスで肖像権侵害を受けている場合は、相手を特定しなければ損害賠償請求ができません。
その際は、発信者情報開示請求の手続きで相手を特定することから始めましょう。
発信者情報開示請求の手続き方法や費用については、こちらの記事で詳しく解説しています。
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まとめ
今回は「肖像権」に着目して、ケースをご紹介しました。
インターネットの匿名掲示板において原告本人と同じアカウント名で開設し、本人の顔写真を無断で活用したうえで、第三者に対して罵声を浴びせ、名誉毀損的な発言を投稿したという事例です。
肖像権の侵害などが認められて、計130万6,000円の支払いを命じたという判例となっています。
本人の承諾なく写真や画像を使用すると、肖像権侵害として認められる可能性があります。
そのため、なりすましなどによって勝手に写真や画像を使用されている場合であれば、速やかに実績豊富な弁護士に速やかに相談することをおすすめします。
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記事を振り返ってのQ&A
Q.観光地で撮った写真に他人が写り込んでいて、その写真をSNSに投稿したとしたら、それは「肖像権侵害」に当たるのでしょうか。
A.肖像権侵害とみなされる可能性が高くなります。
撮影自体は許可してSNSなどへの公開を認めていない場合にも、肖像権侵害が該当する可能性があります。
Q.肖像権侵害にならないようにするにはどうしたらいいのでしょう?
A.「写真をアップロードする際には誰なのか判別つかないようにする」「写真をそのままアップロードするのであれば必ず本人に許可を得る」といった配慮が必要です。
Q.肖像権の判断基準を教えてください。
A.肖像権は法律で規定されていませんが、一般的に肖像権侵害になる基準として以下の4つが挙げられます。
- 写真や画像などによって本人を特定することができる
- 本人から写真や画像の撮影や公開の許可を得ていない
- SNSなどにアップロードされていて拡散される可能性が高い
- 写真や画像は私的な領域で撮影されている