※この記事は『ワークルール検定問題集』などの著者であり、労働法の研究者である平賀律男氏による寄稿文です。
全国的に暑い日が続いていますね。
この暑い夏に気をつけなければならないのは、やはり熱中症です。
熱中症は、体内の水分・塩分のバランスが崩れ、体内の調整機能が破綻して発症するものです。
患者全体に占める65歳以上の方の割合が高いためか、体の調整機能が弱いお年寄りだけが気をつけていればいいようなイメージもありますが、実は仕事中にも熱中症で緊急搬送される労働者は毎年数百人、そのうち死亡に至ってしまう例も数十件発生しているのです。
詳しく報道されていないだけで、本当は怖い仕事中の熱中症について考えてみましょう。(なお、労災保険の対象となる災害には「業務災害」と「通勤災害」とがありますが、以下では業務災害(仕事中の病気など)のみについて検討します。)
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こんな疑問にお答えします
A. 熱中症になった原因が、職場環境や作業内容によるものであれば対象となります。具体的には、仕事の時間中に仕事場で熱中症が発症したこと(業務遂行性)、熱中症にかかったのは仕事中の環境や作業内容が原因であること(業務起因性)の2つの条件を満たした場合に、労災として認められます。
労災申請は一般的には会社が行いますが、従業員やその家族も可能です。申請方法は以下の手順で進めてください。
- 労災の申請を行う
労災の申請を行います。職場での熱中症の場合、申請手続きは本人に代わって企業が申請手続きを行うのが一般的です。 - 医療機関を選択する
医療機関を選択します。熱中症の症状が中度や重度の場合は治療を優先する必要があるため、指定医療機関に限らずただちに病院に搬送してください。 - 請求書類の提出
労災保険給付の請求書類を提出します。一般的には会社を通じて提出しますが、従業員自ら提出することも可能です。
労災指定医療機関で治療を行った場合は受診した医療機関へ、指定外の医療機関で治療を行った場合は労働基準監督署へ提出しましょう。
熱中症の症状と危険性
まず、熱中症がどれほど危険なのか、症状と共に解説します。
熱中症の症状
熱中症の症状は大きく分けて以下の3つのレベルに分けられます。
重症度Ⅰ度:軽度
重症度II度:中度
重症度Ⅲ度:重度
軽度の熱中症は、手足のしびれやめまい、立ちくらみといった症状が出ます。軽度の症状の場合はすぐに涼しい場所へ移動し身体を冷やし、様子を見ます。状態が改善しない場合や悪化しそうな場合は病院へ搬送します。
中度の熱中症は、頭痛や吐き気、倦怠感やだるさ、意識がもうろうとするなどの症状が出ます。自ら水分を取れない状態となるため、病院へ搬送する必要があります。
重度の熱中症は、身体が火照り痙攣が起きます。重度となるともはや立ち上がることができず意識もない状態となり非常に危険な状態です。すぐに病院へ搬送してください。
熱中症の危険性
熱中症の判断が遅れることは、命の危険性を伴います。
特に、職場が炎天下であったり高温多湿の屋内作業だったりすると、熱中症の発症リスクが高くなります。
重度の熱中症は後遺症の危険性もあるので、病院での早急な処置が必要です。
では、職場で熱中症を発症した場合は労災に該当するのでしょうか。次の章で、まず労災認定の基準を確認してみましょう。
まずは労災認定の基準を確認しよう
法文上、労災保険の給付は、業務上の負傷・疾病・障害・死亡に対して行われると規定されていますので(労災保険法12条の8、労基法75条以下)、「業務上」の意味を考える必要があります。
①業務遂行性
まず、疾病等が「業務上」発生したとされるためには、その疾病等が仕事中に発生していることが大前提となります。
そして、休憩中や準備・待機中であったとしても、会社の支配下・管理下にあったのであれば、これは時間的・場所的に本来業務に関連すると考えられるため、仕事中にあたると広く判断されます。これを「業務遂行性」といいます。
②業務起因性
そして、①の業務遂行性があるとしても、その疾病等が、その仕事が持つ危険性が現実化したものだといえることが必要です。これを「業務起因性」といいます。
このため、仕事と関係ない私的な行動によって発生した事故は業務起因性が認められません。
これを熱中症にあてはめて考えると、①の業務遂行性、つまり仕事の時間中に仕事場で熱中症が発症したこと、そして②の業務起因性、つまり熱中症にかかったのは仕事中の環境や作業内容が原因であること(裏を返せば、労働者がもともと熱中症にかかっていたわけではないこと)、という2つの条件を満たす場合に、労災に該当することになります(他にも、医学的診断要件といって、発症者の症状や発生時の環境などから、業務起因性を導き出す方法もあります)。
熱中症が労災と認められた事例はこんなにある!
ここで、職場での熱中症に関する直近のデータを見てみましょう。
厚生労働省が発表したデータによれば、令和4年における職場での熱中症による死傷者(死亡・休業4日以上)は827人にのぼり、前年比266人・47%増という結果となっています。
そのうち全体の約4割が建設業と製造業で発生しています。
高齢化に伴って熱中症の患者は全国的にも増加傾向にありますが、労災件数についても同様の傾向があります。
夏の暑い日に屋外で肉体労働に従事したり、屋内であっても工場や厨房などの高温多湿となる場所で作業したりすると、作業の負荷が大きく職場環境自体も過酷であるため、熱中症になりかねない危険性をはらんでいるといえます。
参考:厚生労働省|令和4年「職場における熱中症による死傷災害の発生状況」(確定値)
会社には熱中症対策を行う義務がある
労災事故が発生した場合、会社は労働者(被災者)に対して損害賠償義務を負うことになりますが、それ以前に、労働者に対する安全配慮義務や、労働安全衛生法上の義務、すなわち熱中症対策を行うという義務を負います。
厚生労働省が企業向けに作成しているリーフレットでは、会社がとるべき対策として、以下のようなことが挙げられています。
・休憩場所を整備する
・熱に慣れ、環境に適応するための期間を設ける
・労働者がノドの渇きを感じなくても、水分・塩分を摂取させる
・労働者に、透湿性・通気性の良い服や帽子を着用させる
・生活習慣病や日常の体調不良など、労働者の健康状態に配慮する
熱中症が起こりやすい業種である建設業や製造業は、いわゆる「労災隠し」が横行している業種でもあります。
労災が発生すると保険料が値上がりしてしまったり、元請会社に迷惑は掛けられないなどといった理由から、会社が被災労働者と秘密裏に交渉して労災事故をもみ消してしまうことがよくあるのです。
しかし、一人の病人にすら労災保険を使わせようとしない会社が、今後手厚い補償をしてくれることなどまずありえません。
仮に会社が労災申請の書類作成に全く協力してくれなかったとしても、労働者自身が労災申請をすることは可能なのです。
会社に労災隠しを打診され、面と向かってノーとは言えなかったとしても、必ず専門家に相談してください。
熱中症による労働災害認定の申請方法
職場中に熱中症を患った場合の労災申請の手順を解説します。手続きを確実に行うことで労災保険の給付を受けられます。
手順①労災の申請を行う
まず、労災の申請を行います。
職場での熱中症の場合、申請手続きは本人に代わって企業が申請手続きを行うのが一般的です。
手順②医療機関を選択する
続いて、医療機関を選択します。
労災指定医療機関であれば自己負担なく治療を受けられます。
熱中症の症状が中度や重度の場合は治療を優先する必要があるため、指定医療機関に限らずただちに病院に搬送してください。
指定外の医療機関の場合は、後から全額戻ってきます。
手順③請求書類の提出
労災保険給付の請求書類を提出します。一般的には会社を通じて提出しますが、従業員自ら提出することも可能です。
書類の提出先は、受診した医療機関によって異なります。
労災指定医療機関で治療を行った場合は受診した医療機関へ提出します。その後、医療機関より労働基準監督署へ書類が提出されます。
指定外の医療機関で治療を行った場合は、労働基準監督署へ提出しましょう。
終わりに
熱中症の判断を怠ると最悪の場合、死に至ることがあります。
万が一、業務中に熱中症の症状が出た場合は悪化する前に応急処置を行いましょう。
また先述のように、熱中症が起こりやすい建設業や製造業は「労災隠し」も見られます。
その場合は、労働者自身やその家族が労災申請を行いましょう。もし、会社に労災隠しを迫られた場合は、法律の専門家である弁護士に相談してください。
弁護士の選び方や詳しい相談窓口を知りたい方は、こちらの記事もご覧ください。
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記事を振り返ってのQ&A
Q.職場での熱中症は労災の対象になりますか?
A.熱中症になった原因が、職場環境や作業内容によるものであれば対象となります。具体的には、仕事の時間中に仕事場で熱中症が発症したこと(業務遂行性)、熱中症にかかったのは仕事中の環境や作業内容が原因であること(業務起因性)の2つの条件を満たした場合に、労災として認められます。
Q.労災として認められる熱中症を発症した場合の申請手順を教えてください。
A.労災申請は以下の手順で進めてください。
- 労災の申請を行う
労災の申請を行います。職場での熱中症の場合、申請手続きは本人に代わって企業が申請手続きを行うのが一般的です。 - 医療機関を選択する
医療機関を選択します。熱中症の症状が中度や重度の場合は治療を優先する必要があるため、指定医療機関に限らずただちに病院に搬送してください。 - 請求書類の提出
労災保険給付の請求書類を提出します。一般的には会社を通じて提出しますが、従業員自ら提出することも可能です。
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