知り合いから頼まれて、少しの間だけ子供を預かった経験がある人は多いと思います。
子育ての場面でお互いに助け合うことは大切ですが、場合によっては預かった子供が怪我をしてしまうこともあります。
そして、このような場合、非常に大きな責任を負うことになる可能性もあるのです。
今回は、他人の子供を預かった場合の法的責任や裁判事例について紹介します。
子供を預かった場合、法律上の関係はどうなるの?
他人の子供を預かった場合、法律上の関係はどうなるのでしょうか。
また、預かった子供が万が一怪我をしてしまった場合、損害賠償責任などを負う可能性はあるのでしょうか。
他人の子供を預かった場合の法的責任は、子供を預ける・預かることについて双方の「合意」があるかどうかによって異なります。
それぞれの場合について、以下で見ていきましょう。
合意があった場合
子供を預ける人と預かる人の間に、明確な約束として「子供を預ける・預かる」という合意があった場合、民法656条に定める「準委任契約」が成立します。
準委任契約とは、契約当事者の一方が法律行為でない事務を相手方に委託し、相手方がこれを承諾することで効力が生じるというものです。
子供の預かりの場合、預ける側(委任者)が子供の監護一切を委ね、預かる側(受任者)がこれをすべて引き受けるという趣旨の合意があれば、準委任契約が成立します。
準委任契約が成立した場合、受任者は「善良な管理者の注意をもって委任事務を処理する義務(=善管注意義務)」を負います。
善管注意義務とは、受任者の職業や地位などから考えて通常期待される注意義務のことをいいます。
そして、受任者がこの注意義務を果たさなかったことから委任者に損害を与えてしまった場合には、受任者に債務不履行責任が生じ、受任者は損害賠償義務を負うこととなります。
したがって、子供の預かりについて準委任契約が成立している状況で、預かった子供が怪我をしたという場合には、預かった人が善管注意義務を果たしたかどうかが問題となります。
そして、預かった人が善管注意義務を果たさなかったと判断された場合は、債務不履行責任に基づく損害賠償責任を負うことになります。
なお、準委任契約の成立には必ずしも契約書等は必要なく、事務の委託が有償か無償かも関係ありません。
したがって、口約束であっても、無償で子供を預かる場合であっても、当事者間の合意があれば準委任契約は成立します。
合意がなかった場合
子供を預ける・預かることについて双方の明確な合意がなかった場合、上記で説明した準委任契約は成立しません。
しかし、預かった子供が怪我をした場合、合意がなくとも状況によっては民法709条の「不法行為責任」が生じる可能性があります。
不法行為責任とは、故意または過失によって他人の生命や身体に損害を与えた場合、損害賠償責任を負うというものです。
子供を預ける・預かることについて明確な合意がなかった場合にも、預かった子供の生命や身体に危険が及ぶことが予見される場合などには、預かった人にそれを阻止する注意義務が発生します。
そして、この注意義務を怠った過失により損害を与えた場合には、不法行為責任による損害賠償責任が発生を負う可能性があるのです。
以上のように、預かった子供が怪我をしたという場合、子供を預かるという合意があった場合もなかった場合も、預かった側には損害賠償責任が生じる可能性があります。
預かった子供が死亡してしまった裁判事例
預かった子供が事故により死亡してしまい、預かった側の責任が問われた裁判例として、1977年(昭和52年)から1983年(昭和58年)に起きた、いわゆる「隣人訴訟」というものがあります。
事案の概要と判決結果について、下記で解説します。
事案の概要
Aさん夫婦とBさん夫婦は、同じ町内に居住して親しく交際する間柄でした。
ある日、Aさんの子供とBさんの子供は、Bさんの自宅の近くで自転車に乗るなどして遊んでいました。
その後、Aさんが買い物に出かけるに際して子供を連れて行こうとしたところ、Aさんの子供はこれを拒みました。
そこでAさんは、「よろしく頼みます」という旨をBさんに告げ、Bさんもこれを受けました。
しかし、Aさんが買い物に行っている間に、Aさんの子供は近くにあったため池に入り、溺死してしまったのです。
その間Bさんは自宅内で仕事をしており、Aさんの子供が池に入っていることには気付きませんでした。
そこでAさんは、Bさん夫婦に対して、Aさんの子供を監護する内容の準委任契約の債務不履行責任または不法行為責任による2,885万円の損害賠償を求めて裁判を起こしました。
裁判結果
裁判所は、Aさんの請求の一部を認容し、Bさん夫婦に対して不法行為責任に基づく損害賠償を命じました。
まず、裁判では、Aさんの子供の預かりに関する準委任契約の成立については認められませんでした。
これは、Aさんが子供の監護を依頼してBさんが引き受ける応答について、「近隣のよしみ・近隣者としての好意から出たものと見るのが相当であり、原告らが子供に対する監護一切を委ね、被告らがこれを全て引き受ける趣旨の契約関係を結ぶという効果意思に基づくものであったとは認められない」と判断されたためです。
しかし、事故当時の状況を鑑み、Bさんには「幼児を監護する親一般の立場からしても、かかる事態の発生せぬようにする措置をとる注意義務があった」とされました。
そして、この注意義務を果たさなかったBさんに対して、不法行為責任に基づく損害賠償責任が認められたのです。
ただし、裁判所は、子供を預けたAさん側にも過失があったとして、7割の過失相殺を行っています。
この結果、Bさん夫婦に対して526万円の損害賠償が命じられました。
この裁判では、Bさん夫婦が子供を預かることになった経緯を鑑み、準委任契約は成立していないと判断したものの、事故当時の状況からBさん夫婦には子供に危険が発生しないようにする注意義務があったとして、Bさん夫婦の不法行為責任が認められました。
子供を預かることに関する明確な合意がなかった場合でも、子供を預かることになった以上は、重い責任を負うことになるといえるでしょう。
まとめ
他人の子供を預かるという日常的な行動でも、法的に重い責任が伴う可能性があります。
子供の安全を確保するためにも、安易に子供を預かることは避けた方がよいといえるでしょう。
もしも、子供を預かることになった場合には、定期的に見守りを行ったり周囲に存在する危険を排除したりするなど、しっかりと注意義務を果たすことが大切です。
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