「インセンティブ(歩合給)が残業代代わり」って労基法的にどうなの?

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「インセンティブ(歩合給)が残業代代わり」って労基法的にどうなの?

※この記事は『ワークルール検定問題集』などの著者であり、労働法の研究者である平賀律男氏による寄稿文です。

法律事務所といえば、テレビCMでもおなじみの「払いすぎた借金が返ってくる」過払金請求がブームでしたが、業界ではその需要も一巡した感じがあります。

次なるブームとしては、ブラック企業問題に揺れるわが国において、「サービス残業を取り戻す」残業代請求の時代を迎えたと言ってもよいかもしれません。

今日も、知っているようで知らない残業代の仕組みを考えてみます。

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月給にあらかじめ固定残業代を組み込んでもいいの?

残業代といえば「基本給とは別に、残業した分だけ支給される」というのが一般的なイメージでしょう。

しかし、これはホワイト企業での話であり、実際にはサービス残業が横行したり、月給に固定残業代が組み込まれていたり、という例は多々あります。

この『月給に残業代を組み込む』というのは、法的に可能なのでしょうか。

これについては、裁判所が明確に判断しています。

月15時間分の残業時間を加えて基本給を支給したと会社が主張した事件において、そのような合意は、「その基本給のうち割増賃金に当たる部分が明確に区分されて合意がされ、かつ労基法所定の計算方法による額がその額を上回るときはその差額を当該賃金の支払期に支払うことが合意されている場合」は有効と判断しました(小里機材事件・最高歳昭和63年7月14日判決)。

つまり、基本給と固定残業代部分がはっきりと区別されており、予定した時間(この事件では15時間)を超えて残業した場合は差額を精算することが必要だということです。

じゃあ、100時間の残業代を組み込むのもOKってこと?

それでは、会社は例えば100時間などどいう長い残業代を固定で組み込んでおけば、さらに割増賃金を払わなくても済むことになるのでしょうか。

まずは、「最低賃金」の観点から問題があります。

例えば、月所定労働時間が160時間の会社で、月給18万円のうち基本給10万円、固定残業代8万円(約102時間分)として支払われるという合意をした場合、基本給に対しての時給を算出してみると625円となり(10万円÷160時間=625円)、最低賃金を割ってしまいますので、このような合意はおかしいということになります。

さらにもう一つ、そもそも「100時間」の残業はあまりに長時間すぎるという問題もあります。

この点、95時間分の定額残業代を支給したと会社が主張した事件において、

このような長時間の時間外労働を義務付けることは、使用者の業務運営に配慮しながらも労働者の生活と仕事を調和させようとする労基法36条の規定を無意味なものとする

月45時間以上の時間外労働の長期継続が健康を害するおそれがある(中略)から、月95時間もの時間外労働義務を発生させる合意というものは、公序良俗に反するおそれさえある

として、サブロク協定の1か月あたりの上限である45時間を限度として有効とした裁判例があります(ザ・ウィンザー・ホテルズインターナショナル事件・札幌高裁平成24年10月19日判決)。

つまり、会社の勝手な言い分で、あまりに長時間の残業代を組み込むのは認められない可能性が高いのです

インセンティブを残業代相当とすることに合意してしまったんだけど

営業成績などを基準として、給料に歩合的に報奨金を上乗せする、いわゆる「歩合給」とか「インセンティブ」とかを、残業代相当として支給することも問題となっています。

少し複雑な例となりますが、月所定労働時間が160時間の会社で月給32万円(時給2000円、時間外の時給2500円)の労働者が、4万円のインセンティブを得たが、20時間残業したというケースを考えてみましょう。

この場合、インセンティブの4万円は16時間の残業代に相当する(4万円÷2500円=16時間)ので、20時間残業した労働者は4時間分だけ損していることとなり、4時間×2500円=1万円を請求できるように見えます。

インセンティブも残業代の基礎に含まれる!

しかし、残業代計算の基礎に含まれない賃金は、労基法などで、①家族手当、②通勤手当、③別居手当、④子女教育手当、⑤住宅手当、⑥臨時に支払われた賃金、⑦1カ月を超える期間ごとに支払われる賃金、と、はっきり決められています(労基法37条2項ほか)。

つまり、これに該当しないインセンティブ(歩合給)は毎月の給料の一部であるという解釈も成り立つわけです。

すなわち、残業代とインセンティブは相殺する必要はなく、全く別物として扱い、基本給32万+インセンティブ4万=36万円を残業代計算の基礎とする、ということです。

この場合にですと、時給が2250円(36万円÷160時間=2250円)となりますので、時間外の単価である2812円50銭(時給2250円×時間外手当て1.25)に20時間を掛けた5万6250円が、インセンティブとは別に残業代として支払われなければならない金額という計算になります。

まとめると以下のようになります。

●Aさんの労働条件

所定労働時間 基本給 時間単価 時間外手当て
160時間 320,000円 2,000円 2,500円

※時間単価=基本給÷所定労働時間
※時間外手当て=時間単価×1.25

●Aさんがある月にもらった給料

基本給 歩合 残業時間 残業代 合計
320,000円 40,000円 20時間 0円 360,000円

●インセンティブも残業代の基礎に含めた場合の残業代

基本給 歩合 基本給+歩合 時間単価 時間外手当て
320,000円 40,000円 360,000円 2,250円 2812.5円

●労働基準法に沿った場合のAさんがもらうべき額

基本給 歩合 時間外手当て 合計
320,000円 40,000円 56,250円 416,250円

まとめ

今回は、裁判例の引用が多くて読みにくかったかもしれません。

残業代計算に関してはさまざまな裁判例があるので、会社側もいろいろと勉強したうえで賃金体系を決定しています。

その結果、自分の給与や手当が複雑になってしまって、よくわからないという方も多くいらっしゃるかもしれません。

自分の労働条件がおかしいなと感じたら、もしくは、転職する時にはこういう観点で、労働条件を確認し、納得ができないようであれば専門家に相談してみるのも選択肢の一つでしょう。

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