【事例で学ぶ】SNSでの誹謗中傷による刑事告訴~投稿者と示談が成立したケース

2021年8月、コロナ禍で開催されたオリンピックでは日本選手が大活躍する一方で、SNS上において誹謗中傷されていることが話題となりました。

卓球混合ダブルスで金メダルを獲得した水谷隼選手は、自身のツイッターアカウントにおいて、自身に届いた誹謗中傷DMの具体的な内容を告白しています。

その内容は「死ね!」「くたばれ!」「消えろ!」といった直接的な暴言から、「お前不倫してるの?」「人間やめたれよ」といった根拠のないもの、「消せばいいじゃん」といった水谷選手に責任転嫁するものなど、さまざまであったようです。

さらに、すぐさま然るべき措置を取るとして、毅然とした対応を行うとしています。

近年、SNSなどネット上での誹謗中傷が社会問題としてクローズアップされ、対策が進んでいることもあり、さまざまな相談窓口が設置されるようになりました。

今回ご紹介する事例は、「はるかぜちゃん」として親しまれてきた春名風花さんに対するSNSでの誹謗中傷によるものです。

2010年、9歳の頃からSNSでの情報発信を行っており、その頃から誹謗中傷に悩まされていたのです。

当時はそのような判例もなかったことから、刑事告訴を経て、示談金による告訴の取り下げに応じるまで、すでに誹謗中傷が始まってから10年が経過していました。

ここでは、この事例の経過と共に、SNSの誹謗中傷に対する刑について考えてみたいと思います。

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【事例で学ぶ】SNSでの誹謗中傷による刑事告訴~投稿者と示談が成立したケース

 

今回ご紹介するケースは、女優の春名風花さんと母親が、ツイッターにおいて虚偽の内容が投稿され名誉が毀損されたとして、投稿した人物に対して慰謝料などを求めていたものです。

投稿者の代理人弁護士から示談金による刑事告訴の取り下げを求める連絡があり、さまざまな経緯を経て、示談に応じることになりました。

春名さん側に示談金315万4000円を支払うことで示談が成立しています。

ケースの概要

春名風花さんは「はるかぜちゃん」という愛称で人気となり、3歳からブログを、9歳からツイッターでの情報発信に取り組まれていました。

そのようなことから「デジタルネイティブ」と呼ばれる、先駆けであったと言えるのではないでしょうか。

情報発信の中で多くのフォロワーを獲得していくことになりますが、同時に誹謗中傷に悩むことにもなります。

「死ね!」「自殺しろ!」といったものをはじめとして、「ナイフで滅多刺しにしてドラム缶にセメント詰めて殺したい」といったものや、出演舞台に爆破予告が来ることもあったのです。

そのような状況から、春奈さんが高校生のときに警察に相談することになります。

しかし、当時はそれほどSNSが普及している時代ではなく、警察も「ツイッターとは何ですか?」といった状態で、相談しても「ツイッターをやめればいいんじゃないですか」と言われるだけだったようです。

そのような経緯があり、弁護士に依頼し、法的に解決する必要があるという考えに至りました。

発信者情報開示請求と刑事告訴

ただ、現在のように相談窓口が設けられている訳でもなかったために、どのように解決すべきなのか、どうやって賠償を求めたらいいのか、身の危険をどのように回避すればいいのか、すべてが大きな問題だったのです。

そのため、弁護士に相談してから示談で解決に至るまでに要した期間は2年ほどになりました。

当時は発信者情報開示請求のハードルも高かったために、認められる可能性が高い投稿を選びだしたうえで請求を行うことになりました。

その投稿が「彼女の両親自体が失敗作」というもの。

さらに投稿者を特定するために時間が必要で、ツイッターへの投稿からプロバイダーを割り出すのですが、この時点で候補が4社あり、この4社への発信者情報開示請求のために4回裁判を行うことになったのです。

その後、投稿者を特定し刑事告訴に踏み切っています。

法的措置を行った理由について春奈さんは、「社会的にきちんと罪を償ってほしいから」と説明しています。

訴訟から示談までの経緯

当時はSNSでの誹謗中傷に対する判例がなかったこともあり、春奈さんは「刑事・民事の両方で勝訴して、今後のための判例を作る」ことが大切だと考えます。

そのため、投稿者の代理人弁護士から示談金による刑事告訴の取り下げを求める連絡があった際にも、当初は断っています。

しかし、ここでネックになったのが、現在の法律では軽微な罪に終わってしまうということ。

現行法において刑罰は「3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金」と定められており、侮辱罪では「拘留または科料」にとどまっています。

春奈さんは、この処罰に対して「甘すぎる」という気持ちを告白しており、「現在の法律において軽微な罰で終わってしまうのなら示談に応じる」としたのです。

最終的には、春奈さん側に示談金315万4,000円を支払うことで示談が成立、刑事告訴は取り下げることになりました。

示談に対する思い

投稿者の代理人弁護士から示談金による刑事告訴の取り下げの求めについては、春奈さん側は示談にするつもりはまったくありませんでした。

これは、裁判で罪が認められない以上は、判例になることはないからです。

投稿者の発信者情報開示請求から約2年ほどの期間を費やした取り組みが、示談で終わってしまうことに悔しさを感じるのも当然のことだと思います。

しかし、担当していた弁護士は、SNSでの誹謗中傷では不起訴になってしまうような可能性がある中で、315万円といった高額の示談金を受け入れることは、大きな社会的意味があるだろうと助言したと言います。

確かに、名誉棄損罪だと「「3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金」、侮辱罪では「拘留または科料」で終わってしまうことになります。

仮に裁判で勝ったとしても相手に対する罪は軽いのであれば、目に見える形で相手に負担が発生したほうが、今後、裁判をする方のために参考になるだろうと考えたのです。

侮辱罪は軽い?侮辱罪の厳罰化が求められている理由

今回のケースとは違いますが、女子プロレスラーである木村花さんがSNS上において「死ね」などと誹謗中傷を受けた事件は記憶に新しいのではないかと思います。

この中傷によって花さんは亡くなってしまい、母の響子さんによって、投稿者に対して訴えを起こすことになりました。

この訴えによって立件された2人は侮辱罪が認められ刑事処分を受けましたが、科料9,000円の略式命令にとどまっています。

一般的にはあまり知られていない事実ではありますが、法定刑の中でも侮辱罪はもっとも軽く、響子さんは「SNSが普及した今の時代にあった罪の重さではない」と訴えています。

侮辱罪での「拘留または科料」は、「30日未満の拘留または1万円未満の科料」であるからです。

響子さんはそれでも、「前科がついた」ということによって本人も罪の重さを感じているのではないか、また罪を償って新しい人生を生きてほしい、としています。

侮辱罪の問題点

上記でもお伝えしましたが、SNSで誹謗中傷を受けた場合には、法的に責任追及する手段は次の2点になります。

  • 刑事訴訟(名誉棄損罪・侮辱罪)
  • 民事訴訟(損害賠償請求)

この2点の中で、今回の春奈さんのケースのように刑事罰を求める場合には、名誉棄損罪もしくは侮辱罪で立件することが考えられます。

名誉棄損罪と侮辱罪が成立する条件として、

  • 名誉棄損罪:公然と事実を適示し人の名誉を毀損した場合
  • 侮辱罪:事実を適示せずに公然と人を侮辱した場合

と示されています。

木村花さんのケースにおいては、「死ね」などといった事実を示したものではないために、侮辱罪が成立したとみられています。

仮に春奈さんのケースにおいても、「事実を適示」したと認定されない場合で、侮辱罪が適用されることになると、「30日未満の拘留または1万円未満の科料」になってしまうことになるのです。

まとめ

女優の春名風花さんと母親が、ツイッターにおいて虚偽の内容が投稿され名誉が毀損されたとして、投稿した人物に対して慰謝料などを求めていた事例をご紹介しました。

最終的には投稿者の代理人弁護士から求められた示談に応じることになり、示談金315万4000円を支払うことで成立しています。

春奈さんは判例を残したいという思いで訴訟に取り組んできましたが、初犯の場合には不起訴になる可能性があり、また罪が成立したとしても1万円未満の科料のみになる可能性があります。

現行法ではこのように問題点を感じる部分はありますが、誹謗中傷を受ける本人へのダメージを考えると、速やかに対処すべき問題であることは間違いありません。

もし、デマや誹謗中傷を受けてお悩みの場合であれば、実績豊富な弁護士に速やかに相談することをおすすめします。

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