パワハラは、上司が部下に対し通常の注意や叱責のレベルを通り越した苦痛を与える行為です。
昨今は「パワハラは訴えたもん勝ち」と考えている人も増えています。
しかし、果たしてそれは真実なのでしょうか。
結論から申し上げますと、「パワハラは訴えたもん勝ち」と言い切ることはできません。
パワハラで訴えても、負けることは珍しくないのです。
本記事では、「パワハラは訴えたもん勝ち」と言われるようになった理由や、訴える際の注意点について解説します。
ぜひ参考にしてください。
こんな疑問にお答えします
Q:「パワハラは訴えたもん勝ち」と言う人がいますが、本当ですか?
A:それは誤解です。
現在はパワハラ防止法の施行を背景として、パワハラ防止への取り組みが強化されるようになりました。
しかし、訴えたからといって被害者が必ず勝てるわけではありません。
そもそもパワハラとは?すぐに相談すべき?
パワハラとは、上司が地位や権力を利用して、部下に苦痛を与えるハラスメントです。
仕事をするうえでは、時に注意や叱責が必要になる場合もあるでしょう。
ただし、部下の人権を侵害するようなレベルの行為になれば、それはパワハラにあたります。
一人でパワハラについて悩み続ける方もいますが、本来はすぐに相談して解決すべき事案です。
また、パワハラを受けた側の精神的負担は大きく、場合によっては精神疾患を発症することや退職に追い込まれることもあります。
こちらの記事ではパワハラについてさらに詳しく解説しているので、ぜひ参考にしてください。
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「パワハラは訴えたもん勝ち」と誤解される理由
昨今、「パワハラは訴えたもん勝ち」と言われる風潮があります。
ただし、それは誤解であることに注意してください。
ここでは、「パワハラは訴えたもん勝ち」と誤解されるようになった背景をみてみましょう。
パワハラ防止法が施行されたため
まず、パワハラ防止法が施行されたためです。
2020年に施行されたパワハラ防止法により、企業にもパワハラ防止措置が義務化されました。
法律でパワハラ防止が明文化された影響は大きく、現在、「パワハラは絶対に許されない」「パワハラをする側が悪い」という認識が浸透しつつあります。
そして、その結果として「パワハラは訴えたもん勝ち」という誤解をする人が増えています。
パワハラについての情報を得やすくなったため
昨今は、多くの人がインターネットを利用する時代となり、パワハラについての情報もすぐに得られる環境です。
検索すれば、パワハラで訴えた人の体験談やパワハラを訴える方法などの記事も閲覧できます。
パワハラで訴えて成功した人の体験談を見れば、「パワハラは訴えたもん勝ち」という思い込みも強まりやすいでしょう。
このように誰もが情報をすぐに得られる環境が、「パワハラは訴えたもん勝ち」というイメージを浸透させる理由の一つです。
自分が「パワハラだ」と思えば訴えが成立すると勘違いしているため
上司から受けた注意や叱責を不快に感じた際、自分が「これはパワハラだ」と思えば、その時点でパワハラが成立すると勘違いしている人もいます。
そして、そのような考えを持つ人は「パワハラを訴えれば、自分が勝つ」と思い込んでいる傾向にあります。
しかし実際は、業務を進めるうえで必要な注意や叱責であれば、パワハラとして認定はされません。
また、客観的に見てパワハラであると思われるような行為でも、正確に立証できない限りは認められないのが実態です。
パワハラを訴える際の注意点
パワハラを訴える際は、下記の点にも十分な注意が必要です。
訴える際には費用が必要になる
訴える際は、費用が必要になります。
訴訟費用や弁護士費用を合わせれば、多額の費用が掛かってしまうでしょう。
勝訴して損害賠償を請求できた場合は良いものの、敗訴した場合は費用だけが掛かって終わりになります。
したがって、勢いで訴えるのではなく、「本当に勝訴の見込みがあるか」を冷静に考えることは非常に重要です。
証拠がなければ訴えるのが難しい
証拠がなければ、訴えることが難しくなります。
パワハラを受けていても、保存できている証拠は意外と少ないというケースはよくみられます。
いくら「訴えたい」と考えても、いざ証拠がないとなればパワハラが認定されない点に注意しましょう。
解決するまでに時間を要する
訴えたとしても、解決するまでには時間が掛かります。
解決までに数か月~1年は掛かることを覚悟できる場合は、訴えることを検討しても良いでしょう。
しかし、長い時間をパワハラ問題に費やすのは、訴える側にも大きな精神的負担が掛かります。
そのような面も考慮したうえで「訴えるかどうか」を慎重に検討してください。
勝訴できるとは限らない
パワハラを訴えたとしても、勝訴できるとは限りません。
確実に勝訴できるような証拠を集めるのは、案外大変なことです。
また、自分では証拠を集めたつもりでもそれが決定的な証拠として認められる保証はなく、勝訴するのは難しいのが実態です。
パワハラの証拠がないときの対処法
では、「パワハラの証拠がなく、訴えるのが難しい」という状況の場合、どのように対処したら良いのでしょうか。
そのときは一度、下記の対処法も検討してください。
加害者に直接指摘する
まず、加害者に直接指摘する方法があります。
部下側から上司の行為がパワハラであると直接指摘した場合、人によっては怒り始めるかもしれません。
そこで強く反論したり暴言を吐かれた場合、録音しておけば証拠を手に入れられます。
普段は咄嗟に行われるパワハラ行為の証拠を残すのは難しくても、この方法であればあらかじめ録音の準備をしておけます。
反論や暴言は本人がパワハラを認めた証拠にもなり得ます。
社内窓口に相談する
社内窓口に相談するのも選択肢です。
現在はパワハラ防止法により、会社にはパワハラ防止に努める義務が課されています。
そのため証拠の有無に関わらず、会社側はパワハラの実態調査をして相談者を守らなければなりません。
もし、社内でパワハラを解決できるのであれば、労力や時間をかけて訴える必要もなくなります。
可能であれば、社内窓口に相談してみましょう。
しかし、初めてパワハラを相談するとなれば勇気がいるものです。
「社内の人には相談しづらい」と考える場合は、一度社外の窓口を頼るのも選択肢です。
パワハラの相談窓口について詳説した記事はこちらになるので、ぜひ参考にしてください。
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パワハラで訴えられた側に下される処分
最後に、パワハラで訴えられた側に下される処分について解説します。
懲戒処分になる
パワハラが認められた場合、加害者は懲戒処分になる可能性があります。
ただし、懲戒処分の内容は会社の規則やパワハラ行為の度合いによって変わります。
減給や出勤停止に留まる場合もありますが、重い処分になれば解雇になることもあるでしょう。
損害賠償請求される
損害賠償を請求されることもあります。
損害賠償の金額は、被害内容や程度によって変わってきます。
被害者が精神疾患を発症したり通院した場合は、高額な慰謝料になる傾向があります。
刑事罰の対象となる
被害者に暴力をふるうようなパワハラ行為の場合は、暴行罪や傷害罪が問われて刑事罰の対象となることもあります。
また、人権侵害に該当するような暴言を吐いた場合などは、侮辱罪や名誉棄損罪に該当する可能性も生じます。
これらの刑事罰については、下記を参考にしてください。
暴行罪
第二百八条 暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、二年以下の懲役若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。
引用元:刑法|e--Gov法令検索
傷害罪
第二百四条 人の身体を傷害した者は、十五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
引用元:刑法|e--Gov法令検索
侮辱罪
第二百三十一条 事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、一年以下の懲役若しくは禁錮若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。
引用元:刑法|e--Gov法令検索
名誉棄損罪
第二百三十条 公然と事実を摘示し、人の名誉を毀き損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。
2 死者の名誉を毀損した者は、虚偽の事実を摘示することによってした場合でなければ、罰しない。
引用元:刑法|e--Gov法令検索
まとめ
パワハラは、決して訴えたもん勝ちではありません。
証拠がなければ勝訴の見込みなどないこと、訴えるとなれば多額の費用や精神的負担が掛かることなど、デメリットがあることも忘れないようにしましょう。
また、訴える前にできることもあります。
現在はパワハラ防止法により社内でも安全管理が義務化されているので、思い切って社内窓口を頼るのも手です。
もしくは、まず社外窓口に相談するのも良いでしょう。
「パワハラは訴えれば良い」というものではないので、短絡的な考えで訴訟に踏み切らず、総合的な観点から最善の解決方法を検討してください。
記事を振り返ってのQ&A
Q:「パワハラは訴えたもん勝ち」と言われるようになったのはなぜですか?
A:下記が理由です。
- パワハラ防止法が施行されたため
- 個人がパワハラについての情報を得やすくなったため
- ドラマの内容に影響されることがあるため
Q:パワハラで訴えるとどんなデメリットがありますか?
A:下記のようなデメリットがあります。
- 費用が掛かる
- 証拠がなければ訴えるのが難しい
- 解決までに時間を要する
- 勝訴できるとは限らない
Q:パワハラで訴えられた側にはどんな処分が下されますか?
A:懲戒処分、損害賠償請求、刑事罰の対象になり得ます。
「弁護士費用保険の教科書」編集部
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