「本人訴訟」という言葉をご存知ですか?
本人訴訟とは、裁判の当事者が弁護士に依頼せずに、自分一人で裁判を進めることです。
裁判を起こす側の「原告」が本人の場合、訴えられた「被告」が本人の場合、原告と被告の「双方とも」本人の場合があります。
今回は、本人訴訟の進め方と元弁護士の立場から見たメリットとデメリットをご紹介します。
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こんな疑問にお答えします
A:福谷 陽子(元弁護士)
詳細は、是非、ご覧頂ければと思いますが、本人訴訟をすると、費用は安く済んでも多くのデメリットがあります。
弁護士費用に足が出ない見込みが高いならば、費用を負担してでも弁護士に訴訟を依頼した方が良いでしょう。
弁護士に相談をする際には、弁護士の費用がかかるケースに備えて、弁護士保険に加入しておくこともおすすめです。
実際に訴訟などになった際の弁護士費用を軽減することが可能です。
また、法人・個人事業主の方には、法人・個人事業主向けの弁護士保険がおすすめです。
日本で弁護士なしの裁判を起こすことは可能なのか
裁判を起こすときには、通常弁護士に依頼するイメージがありますが、そもそも弁護士に依頼せずに裁判を進めることなど可能なのでしょうか?
日本の民事訴訟では、弁護士や司法書士などの専門職に依頼せず、自分で裁判を進めることが認められています。
弁護士や司法書士に頼らず本人が進める裁判のことを「本人訴訟」と言います。
原告(訴えた方)のみが本人のケースもありますし、訴えられた被告が弁護士に依頼せずに自分一人で裁判に対応するケースもあります。
原告被告とも弁護士に依頼せず、自分で対応しているケースも意外と多いのです。
日本は、世界の中でも本人訴訟の割合が比較的高い国です。
たとえば、ドイツでは、裁判を起こしたり起こされたりしたときには、弁護士に依頼することを法律で義務づけられていますが、日本の民事裁判ではそのような制限がありません。
そこで、日本で訴訟を起こしたり受けたりするときには、弁護士に依頼するか自分一人で対応するか、選ぶことができます。
裁判の何割ぐらいか本人訴訟なのか
日本では、比較的本人訴訟の割合が高いと言いましたが、具体的にはどのくらいの割合で本人訴訟が行われているのでしょうか?
これについては、裁判所の司法統計をみると明らかです。
司法統計とは、毎年最高裁判所が発表している裁判についての資料です。
令和元年度の司法統計によると、各裁判所や裁判の種類ごとの本人訴訟の割合は、以下の通りです。
地方裁判所の本人訴訟の件数
第一審が行われる裁判所は、通常地方裁判所か簡易裁判所のどちらかです。
地方裁判所では、比較的訴額が大きな事件や複雑な事件が取り扱われます。
令和元年度の地方裁判所での既済事件数(終了した事件数)は131,560件です。
そのうち双方に弁護士がついたのは、61,753件だったので、割合にすると約47%です。
残りの53%は本人訴訟ということです。
本人訴訟の内訳をみると、原告のみに弁護士がついた件数が54,718件、被告のみに弁護士がついた件数が3,896件となっており、一方のみに弁護士がついた件数が合計で58,614件です。
どちらにも弁護士がつかず、原告被告とも本人訴訟だった件数は11,193件でした。
以上のように、地方裁判所でも半数以上の事件は本人訴訟となっています。
簡易裁判所の本人訴訟の件数
次に簡易裁判所での本人訴訟の割合を見てみましょう。
簡易裁判所では司法書士にも代理権が認められるので、弁護士ではなく司法書士に代理を依頼しているケースもあります。その場合にも、専門職に対応を依頼しているので、本人訴訟とは言いません。
以下で、弁護士にも司法書士にも依頼していない本人訴訟の割合をみてみましょう。
まず、令和元年度において簡易裁判所で終了した事件の総数は339,903件です。
このうち、双方とも弁護士がついた件が19,672件、双方とも司法書士をつけたものが79件です。原告側が弁護士、被告側が司法書士の件が290件、原告側が司法書士、被告側が弁護士の1,056件が件です。
つまり、原告と被告が双方とも弁護士または司法書士に依頼した件数は、19,672件+79件+290件+1,056件=21,097件です。割合にすると、全体の6%程度にしかなりません。
残り94%の簡易裁判所の事件は、原告または被告、もしくはその両方が本人訴訟で進められています。
なお、簡易裁判所の場合、原告または被告のどちらか一方または双方に弁護士または司法書士がついた件数が84,597件であり、残りの255,306件は両方とも本人訴訟で進められています。その割合は約75%に及びます。
少額訴訟
もう1つ、少額訴訟という訴訟類型についてのデータもみておきましょう。
少額訴訟とは、60万円以下の金銭債権を請求するときに利用できる簡略化された訴訟手続きです。
少額訴訟では、通常1回で結審して判決まで言い渡してもらえるので、スムーズにかつ簡単にトラブルを解決できるメリットがあります。
令和元年度に終結した少額訴訟事件の総数は6,565件でした。
このうち、双方とも弁護士がついた件数はわずか19件、原告側が弁護士、被告側が司法書士だった件が2件、原告側が司法書士、被告側が弁護士だった件が1件、双方とも司法書士だった件は0件でした。
つまり、少額訴訟の場合、原告被告ともに専門職がついた件数はわずか22件で、割合にすると0.3%にすぎません。
また、原告と被告のどちらか一方に専門職がついた件も847件で、割合にすると13%弱です。残りの5,718件(87%強)は、どちらも弁護士や司法書士をつけず、本人同士で訴訟が進められています。
以上からすると、少額訴訟では弁護士や司法書士に依頼する方がかなり例外的なケースと言えます。
※関連ページ→「少額訴訟の流れや費用・訴状の書き方について」
弁護士なしで裁判に挑むのが多いケース
以上のように、裁判所の種類によっても少額訴訟の割合は異なるのですが、裁判の種類によっても本人訴訟の割合が違ってきます。
以下ではどういったケースで本人訴訟が行われることが多いのか、見ていきましょう。
地方裁判所の事件を見ると、「金銭請求の訴え」の「その他」の事件では、比較的本人訴訟の割合が高くなっています。
ここに含まれるのは、たとえば貸金返還請求や損害賠償請求訴訟などの一般的なケースです。
建物や土地を目的にする訴えの事件でも、比較的本人訴訟率が高くなっています。
これに対し、医療過誤や公害訴訟、労働に関する解雇無効などの訴えなどのケースでは、弁護士が関与する割合が高くなっています。
簡易裁判所の事件をみると、やはり金銭を目的にする訴えにおいて、本人訴訟率が高いです。
たとえば貸金返還請求や損害賠償請求、売掛金請求や残業代請求などがこの部分に含まれます。
建物や土地を目的にした訴訟では、本人訴訟率は低くなっています。
少額訴訟の場合には、だいたいどの事件でも本人訴訟率が高いのですが、特に売買代金請求事件や貸金請求事件、立替金・求償金等の請求事件(信販会社から債務者に対して起こした裁判)などにおいて、本人訴訟の割合が高くなる傾向があります。
交通事故の損害賠償事件やその他の損害賠償事件、手形・小切手の事件では、少額訴訟でも弁護士に依頼している例が、比較的多くみられます。
本人訴訟のメリット
本人訴訟のメリットは、なんと言っても費用がかからないことです。
通常、弁護士に訴訟を依頼すると最低10万円の着手金が必要となります。
すると、請求額が10万円以下の場合には、その時点で足が出てしまいます。
また、請求額が30万円や50万円でも必ず勝てるとは限りませんし、相手との和解や一部勝訴によって15万円しかもらえないかもしれません。
すると弁護士の着手金、報酬金、実費を払ってしまったら、手元に返ってくるお金が0円やそれ以下になってしまいます。
そこで、請求金額が小さいケースでは、本人訴訟にした方が、圧倒的にメリットが大きいです。
これに対し、請求金額が大きいケースや弁護士に依頼することによって獲得金額が増額されるケースなどでは、弁護士に訴訟を依頼するメリットが大きくなってきます。
そこで、簡易裁判所よりも地方裁判所の方が弁護士に依頼する件数が多くなっているのです。
また、交通事故の損害賠償請求は、裁判すると被害者が自分で示談交渉をするよりも大きく損害賠償金額が上がるので、やはり弁護士に依頼するメリットが大きく、弁護士依頼件数が比較的多くなっています。
※関連ページ→「弁護士費用の相場と着手金が高額になる理由」
本人訴訟を起こす際の流れ
本人訴訟を起こすときには、まずは訴状を用意して、証拠を揃えて裁判所に提出しなければなりません。
訴状の書式については裁判所がウェブサイトに掲示しているので、利用すると良いでしょう。
提訴の際には請求金額に応じた収入印紙と、送達用の郵便切手が5,000~7,000円程度必要となります。
提訴すると、裁判所から第1回口頭弁論期日への呼び出し状が届きます。
当日までに被告から答弁書が届くので、よく読んでおきましょう。
裁判所に行くと、当日までに提出された書面の内容を確認して、次回の期日を設定します。
このようにして、月1回くらい期日を入れて争点を整理していき、最終的に尋問を行って、裁判官が判決を下します。
少額訴訟の場合には、この一連の流れが1日に凝縮されます。
本人訴訟での勝率はどの程度か
本人訴訟をするとき、どのくらいの勝率になるのか気になる方もおられるでしょう。
2013年に法曹会から出版された司法研修所の『本人訴訟に関する実証的研究』という本に参考になる資料が掲載されています。
2010年の結果ではありますが、原告が弁護士を立てた事案で、被告にも弁護士がついた場合の原告の勝率は67.3%でした。
これに対し、原告に弁護士がついて被告に弁護士がつかなかった場合(被告が本人訴訟)では原告の勝率が91.2%にまで上がっています。
このことからすると、やはり訴訟では弁護士を立てた方が勝ちやすいと言えるでしょう。
本人訴訟のデメリット
以上、本人訴訟をすると勝率が下がることからもわかるように、本人訴訟にはデメリットも大きいです。
具体的にどのような問題があるのか、ご説明します。
法的な主張が理解できない
裁判を有利に進めるためには、法的な主張内容を理解することが必須です。
法的な理由がないことは、裁判所は認めてくれないからです。
しかし、法律知識の素養がない素人の方の場合、法的な主張を理解できないので裁判で不利になってしまいます。
知識やノウハウのない点は、プロである弁護士に頼る必要があります。
適切に対応できない
裁判では、一般社会とは異なる専門的な手続きや対応が必要です。
たとえば証拠の揃え方や提出方法、主張書面の書式やまとめ方など、さまざまな決まりがあります。
きちんと適切な形でまとめて提出しないと、裁判所が証拠の提出を受け付けてくれないこともあります。
また、法的な主張をまとめた準備書面以外にも、いろいろな上申書や期日請書などの書類提出が必要となり、素人の方には非常に面倒でわかりにくいです。
本人が対応していると、一体裁判所から何を求められているのか理解できず、対応に苦慮するケースがありますし、裁判所の方も「本人訴訟だから通じにくいし、説明が大変だなぁ」と感じ、お互いにストレスが溜まります。
手間がかかりすぎる
本人訴訟は、非常に手間がかかります。
裁判では、大量の書類や資料をまとめて適切な形で提出しなければなりませんし、提出したものは自分の控えとしてファイリングしていく必要があります。
相手の主張を法的に分析して反論する場面もあります。
普段自分の生活や仕事のある方にとってはこうした雑務が負担になりすぎます。
手間を省くためだけのためであっても弁護士に依頼するメリットがあります。
ストレスがかかりすぎる
ご本人が自分で裁判に対応すると、非常に大きなストレスがかかります。
勝つか負けるか、一人で抱え込むことになりますし、適切に対応できているか自信を持てません。
相手に弁護士がついている場合、明らかに不利になっている状況だけを感じ取って焦ってしまうケースも多いです。
ストレスを抱え込むと、精神衛生上もよくないので、やはり弁護士に対応を依頼した方が良いでしょう。
まとめ
以上のように、本人訴訟をすると、費用は安く済んでも多くのデメリットがあります。
弁護士費用に足が出ない見込みが高いならば、費用を負担してでも弁護士に訴訟を依頼した方が良いでしょう。
弁護士に相談をする際には、弁護士の費用がかかるケースに備えて、弁護士保険に加入しておくこともおすすめです。
実際に訴訟などになった際の弁護士費用を軽減することが可能です。
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「裁判」というと、、弁護士ではない一般の人が1人で手続きを進めるのは、ほとんど不可能だと思われている方が多いのではないでしょうか?ただ、「少額訴訟制度」という制度を利用すれば、弁護士に依頼せず、一般の方が1人で手続きを進めることも十分に可能です。
では、少額訴訟とはどのような制度なのでしょうか?どのようなトラブルでよく利用されるのか、通常訴訟や支払督促との違いはなんなのか、手続きの流れやリスクなど、知っておくべきことは多々あります。
今回は、知っておくと役立つ「少額訴訟」について、図解イラストつきで詳しく解説します。