DV(ドメスティックバイオレンス)とは、一般的に配偶者との間で起こる家庭内暴力のことをいいますが、身体的な暴力だけではなく精神的、経済的、性的な暴力も対象とされています。
近年では、身体的以外の暴力のことをモラハラ(モラルハラスメント)と呼んだりもしています。
警視庁によると、令和元年の配偶者からの暴力相談等の相談件数は、8,435件となっており、前年に比べ607件(6.7%)減少したものの、依然多い状況です。
このようなDVを日々繰り返されていては、、離婚を検討するのも当然です。しかしながら、DV夫との離婚は協議離婚ではまとまらないケースが多く、離婚調停や裁判離婚にまでもつれ込む可能性が非常に強いです。
また、あまりにもDVがひどい場合には、裁判官による審判離婚へと移行することもあります。
DVでの協議離婚が難しい理由
ではなぜ、協議離婚ではまとまらないケースが多いのでしょうか。
その理由の一つとして、DV夫は自分が離婚原因を作っているのだという自覚が一切見られず、夫婦関係の破綻を認めないことがほとんどだからです。
また、離婚に応じないDV旦那も多いです。
離婚をまったく認めないDV夫に対して、協議離婚を進めるのは非常に危険です。
さらにDVがエスカレートしてしまう可能性も否めません。
過去にはDV被害者に命の危険が及んだケースも数多くありますので、協議離婚は早々に諦めて離婚調停の申立を検討しましょう。
状況によっては保護命令の申立も検討する必要があります。
DVの種類について
DV被害者は自分が被害者だということに気づいていない場合があります。
そして日々の生活のすべてがDVに当てはまっていないため、我慢をしている女性が多くいるのです。
しっかりとDVの種類について知ることで、自分が被害者だったと気づくこともあります。
ここではDVの種類について簡単な説明をしていきます。
DVの種類①身体的な暴力
DVの代表例が殴る蹴る等の暴力です。
なにかを投げつけたり、髪の毛をつかまれたりといったことも、こちらに該当しています。
DVの種類②精神的な暴力
「クズ」「バカ」「デブ」などといった暴力的な発言は精神的な暴力に該当します。
証拠が残りにくいため、友人など周囲の方や、DVの当事者間もそれがDVであると自覚しにくいという特徴があります。
言葉の暴力だからといって、軽く考えないようにしましょう。
時には身体的な暴力よりも深く傷ついてしまうケースも少なくありません。
他には携帯電話の中見を勝手に見るといった、度を超えた監視行為や嫌がらせ行為もこちらに該当しています。
DVの種類③経済的な暴力
わざと生活費を渡さなかったり、相手名義で借金をしたりといった行為が該当します。
夫婦は経済的に助け合う義務があり、夫婦間において明らかな金銭的不平等を与えるのは経済的暴力です。
夫婦である以上、どちらか一方が稼いだお金は夫婦の共有財産となります。
共有財産であるため、夫婦間で話し合って生活費を決めていくのが当然と言えます。
経済的な格差が夫婦間において大きい際に起こりやすい、各家庭によって収入、支出が違うため、被害を自覚しにくいなどの特徴があります。
DVの種類④性的な暴力
無理やりに性交渉を強要したり、度を超えた性的行為を強要させたりといった場合はこちらに該当します。
上記した中から1つでも該当していれば、それは立派なDVといえます。
DVを受けることにより、自分が悪いという思考になってしまっている方も少なくありません。
また、DV夫は共通する特徴がある場合が多く、本人が悪いことをしているという自覚がないケースも多くあります。
周りのご友人などに相談し、客観的に状況を整理してみることをお勧めします。
もちろん上記したものは一例でしかありませんので、DV被害者としての心当たりがある方は、勇気を持ってお近くの警察署への相談を検討しましょう。
離婚を考えているのであれば、後々、保護命令の申立をする際にも、警察への相談をしていたほうがスムーズに手続きも進みますので、必ず足を運ぶようにしましょう。
DV夫からの被害者に対しての保護命令の申立と種類
では、先述した保護命令の申立とはどういったものなのでしょうか。
保護命令とは、お住まいの管轄の地方裁判所へ申し立てることによって、裁判所からDV夫への接近禁止命令を出してもらうことをいいます。
この申立はDV被害者であって、提出できるDVの証拠さえあれば誰でも申し立てることができます。
提出する証拠としては、暴力を受けたことがわかる写真や診断書で構いません。
もちろん暴力的な発言を録音している音声データ等でも大丈夫です。
保護命令にはいくつか種類があります。
②子への接近禁止命令
③親族等への接近禁止命令
④電話等禁止命令
⑤退去命令
それぞれ言葉の通りですが、接近禁止の期間としては6ヶ月間という定めがあります。
もちろん場合によっては延長することも可能です。
DV夫への離婚調停をするのであれば、保護命令も同時に申立をすることで、より安全に調停手続きに入ることができます。
DV夫と離婚調停をするなら別居は必須
DV事案にて離婚調停を検討するのであれば、別居が必須条件といえます。
今後の生活などで不安だとは思いますが、DVはどんどんエスカレートしていく場合が多くあるため、自分や子供の身の安全を最優先に考えましょう。
とはいえ、実家に帰るだけでは居場所をすぐに特定されてしまいますので、自らに収入がない場合は別居を諦めている方も多くいると思います。
そんなときには、お住まいの役所の生活保護課へ相談にいきましょう。
DVの保護命令申立を検討していることを伝えれば、柔軟に対応してくれるはずです。
生活保護費を受けることが出来れば、引っ越し等の初期費用の立て替えをしてもらうこともできるので、まったく収入がなくても別居をすることができます。
生活保護なんて恥ずかしいことだ、と思っている方は多いかもしれませんが、DV夫とどうしても離婚をしたいのであれば手段を選んでいる場合ではありません。
事情が事情ですので、早急に生活保護費を受給できることになるとは思いますが、生活保護申請をしている時間もないほど切迫した状況の場合、警察署やシェルターに逃げ込むといった方法もあります。
自分が置かれている状況をしっかりと把握してから、手続きを選ぶようにしましょう。
DV夫からの被害者に対する家庭裁判所における配慮
DVが離婚原因の場合の離婚調停では、家庭裁判所でもいろいろと配慮をしてもらえます。
離婚調停申立時に併せて提出することができる「進行に関する紹介回答書」では、離婚調停をどのように進めて行きたいのかを事前に裁判所側に伝えることができます。
こちらには、事前協議の有無や相手に暴力があったのか、あったとしたらどういった内容だったのかなどを書き込む欄があります。
裁判所へ配慮を求める欄もありますので、待ち合わせ場所を変えてもらう等、相手と直接顔を合わせずに進めてもらえるよう協力を求めましょう。
他には、「非開示の希望に関する申出書」といったものもあります。
こちらは事前に提出することにより、裁判所へ提出した書面記録を閲覧・謄写の対象から外すことができます。
基本的に裁判所へ提出した書面というのは、当事者や利害関係人であれば閲覧・謄写をすることができるのです。
もちろんそこには現在住所等の相手に知られたくない情報の記載もありますので、それを相手に見られないように申し出ておくことができるのです。
DV夫との離婚には弁護士がいたほうがいい
先述したように、DV夫はなかなか離婚に一切応じないことが多いので、調停が長引いてしまうことが多いです。
もちろん調停が不成立となれば、あとは裁判離婚しかありませんので、調停と裁判をあわせて考えると1年くらいでは終わらない可能性も十分にあります。
こんなときに弁護士が代理人として就いていれば、毎回裁判所へ出廷しなくても話し合い自体は進みますし、裁判になってからは1度も出廷しなくても判決まで出ます。
このように、相手と顔をあわす危険性がなくなりますので、それだけでも弁護士に依頼するメリットは十分にあるといえます。
さらに弁護士がいれば離婚調停の申立から保護命令、離婚訴訟提起まで、すべてを代わりにやってくれます。
ただでさえ心身に負担のかかる離婚調停で、相手がDV夫となれば、その心労は計りしれません。
そんな中で、裁判所へ出廷したり書面や証拠を作成したりといったことにまで気を回さなければならないのですから、素人には負担が大き過ぎるといえます。
通常の離婚調停では、弁護士がいなくても乗り切ることができるとは思いますが、DV夫との離婚調停に限っていえば、体力面、精神面から考えてあまりに負担が大きすぎます。
そのため、調停前段階の離婚協議の時点から弁護士へと依頼することをおすすめいたします。
生活保護申請についても弁護士に立ち会ってもらえますので、より確実に手続きを進めることが可能です。
DVは身体だけではなく、身体共に深い傷を負ってしまう可能性があります。
「自分も悪いところはあった」「我慢すれば大丈夫」「相談するほどのことでもない」「子供のために我慢する」など、被害者は自分で自分を責めてしまいがちです。
DVを受けていると気付いたら、一人で抱え込まず、友人や警察、弁護士に相談するなど、すぐに行動に移しましょう。