法律問題を扱っていると、相手方が真っ赤な嘘を繰り返す場合があります。
そもそも当事者同士の見解がまったく異なるからこそ、法律問題にまで発展しているわけですから、あまり驚くことではありません。
ですが、これが家庭内の問題となると、とても厄介です。
普段私たちは生活する上で、他人との間では、契約書や覚書といった正式な形でなくてもいずれかのやり取りをし、そのやり取りを意図的ではなくとも、メールや書面に残しておくことが多いでしょう。
しかしながら、家庭内の問題となると、夫婦で口頭の約束をしただけ、夫婦喧嘩の末に出た結論だったなど、双方がまったく違う解釈をしたまま放置されていたということがよくあるのです。
そして、そのような場合、往々にして証拠となるような資料がほぼ残っていないのです。
まず、相手方の主張がそもそも「虚偽」なのか冷静に考える
まず申し上げたいのは、私の経験上、すべての夫婦が必ずしも離婚を決意して調停を起こしているわけではなく、中には修復の余地があるケースもあるということです。
事実は人によって捉え方が異なりますから、自分と相手方の主張が異なるからといって、それがすべて悪意に基づくとは限りません。
たとえば、妻が作った料理が夫の口に合わず、夫が「料理がおいしくない、もっとおいしく作れないのか」と言ったとしましょう。
このような言い方をされれば、妻は傷つきますし、その頻度が多ければ「モラハラ」と評価できる面もあります。
しかし、一方で、夫も残業続きでクタクタになっていて、そんな余裕がない時に思わず放ってしまった一言であったらどうでしょう。
長く夫婦生活を続けたいのであれば、夫側は、料理をつくってくれた妻にまずは感謝し、その上で味については多めに見るか、せめて妻が傷つかないような言い方をすべきです。
発言してしまった後、心に余裕ができたときに冷静に謝ることも必要でしょう。
とはいえ、そのような余裕がある時ばかりではありません。
夫の食器の洗い方が、妻は気に入らなかったというケースでは、夫婦で逆の立場になるかもしれません。
夫側が、妻から粗末な扱いを受けていると感じ、モラハラと主張するかもしれません。
ずっと一緒にいる夫婦だからこそ、このような出来事が日々が起きるのです。
それでも、夫婦関係を継続していきたいという意思がお互いにあれば、大事にはなりません。
長期的なスパンで、また関係を修復できるでしょう。
しかし、ちょうど育児が大変な時期に重なってしまったり、他方の親族トラブルと重なってしまったりすると、お互いのストレスが増え、夫婦関係が悪化してしまうこともあります。
その結果、離婚話となり、調停まで進んでしまったという夫婦も多くいます。
しかしながら、このような夫婦の場合、まだやり直す余地があるのではないかと思います。
申し立てた側も冷静に考える余裕もないまま調停を申し立てている、というケースもあるからです。
あるいは、相手方に対し、離婚という切り札を出すことで、自分との関係について真剣に考えてほしいという訴えであることもあります。
駆け引きはあまりお勧めできませんが、そのようなコミュニケーションの取り方をする方も存在するのです。
離婚調停(円満ではなく)の相手方代理人となり、苦渋の決断をして調停に出頭したら、申立人側から「本当に離婚という選択でいいのか?」という返答をもらうことを、幾度も経験しました。
それだけ思い詰めていたということかもしれませんね。
さて、離婚調停の場であっても、もしもあなたがやり直したいと考えているのであれば、相手方の主張を虚偽だといって責め立てることは効果的ではありません。
今まで申し上げてきたように、ある事実についてお互いの捉え方の違いである場合もあります。
上述のケースの場合、夫が自分の言い方が悪かったということを謝罪の上、妻と今後どうしていきたいのか、これから自分の態度を改めていく決意と一緒に伝えれば、修復の余地があるでしょう。
一方で、夫が「お前の言っていることは全部虚偽だ」と怒りにまかせて反論すればするほど、妻の気持ちは離れていってしまうでしょう。
その反対も、同様です。
まずは、相手方の主張がそもそも「虚偽」なのかを冷静に見極めるべきです。
自分の態度の悪い面をも振り返る作業でもあるので、楽なことではありませんが、相手方との関係をまだ大切に思っているのであれば、やってみる価値は大きいです。
訴訟となれば、このような話し合いは難しいでしょう。
闘いというより、あくまでも話し合いである調停の場であるからこそできることだと思います。
私は、このような経緯を経て、実際に修復したご夫婦を何組も見ています。
調停の後、お二人は夫婦として互いに努力していく必要があり、楽な道のりではないと思います。
それでも、修復余地のある夫婦が離婚せずに済むということは、弁護士としても人としても嬉しい気持ちになります。
相手方が本当に虚偽の事実を主張している場合
さて、一方でどんなに冷静に見極めても、相手方が虚偽の事実を主張しているとしか言えないというケースもあります。
例えば、典型的なのがDVやモラハラのでっち上げです。
上述したとおり、事実は人によって捉え方が異なりますが、片方の捉え方が極端に歪んでいたり、被害妄想的であったりする場合、DVやモラハラの主張をされてしまうことがあります。
また、稀に、離婚したいという気持ちが強く、かといって離婚後の生活保障がないため、慰謝料を請求するために虚偽の主張をでっちあげるケースがあります。
非常に残念なことです。
そのような場合、ご自身で調停を進めていると、気付けば調停委員は相手方の嘘を信じ、さも自分が悪いかのように見られてしまうことがあるかもしれません。
裁判官や調停委員は家庭内で起きていたことなど知る由もないため、実際には口がうまい人からうまく言いくるめられてしまうことも、残念ながらゼロではありません。
また、未だにジェンダーバイアスが根強く残っているため、女性の方が被害を訴えているケースでは、調停委員は特にその主張を信じやすいという傾向もあります。
家庭内の問題なので、これといった証拠が残っていることも少ないでしょう。
ただむやみに反論しても、埒があきません。
冷静に対応策を見極めましょう。
まずは、相手方の主張に証拠があるのかどうかがポイントです。
日記や友人に相談したメールの内容を出してきたり、というケースがありますが、日記やメールはあくまでも主観です。
もちろん、日記やメールが決め手になるケースもあるので、ケースバイケースですが、証拠が提出されたからといって、そこでもう終わりだと諦めるのは早いでしょう。
本当に証拠として信用性の高いものなのか、見極めるべきです。
また、一方で、自分の方に相手方の主張を覆すことができるような証拠がないかを考えましょう。
仕事のスケジュール的にどうみても相手方の日記の内容は虚偽や誤解であるとか、同じ日に自分も友人に相談したりしていてその内容が全然相手方の主張と異なる等、何かしらの糸口が出てくる可能性があります。
話し合いの場である調停において証拠を出してよいのか
調停はあくまでも話し合いの場ですし、冒頭で書いたとおり夫婦関係が修復するケースもあるので、いきなり臨戦態勢で応じることはあまりお勧めできません。
とはいえ、相手方が明らかに虚偽の主張をしている場合、それを正す作業は誠実に話し合いを進める上で不可欠です。
また、調停が不成立に終わった場合、次は離婚訴訟に移行することとなりますが、その点では調停は裁判の前哨戦という意味合いも少なからずあります。
※関連記事→「離婚調停不成立の場合の選択肢と離婚訴訟を起こすメリット・デメリット」
調停段階で提出することができたにも関わらず、その証拠を裁判まで提出しなければ、後に裁判となったときに裁判官から不信を抱かれる可能性もあります。
ですから、明らかに事実と異なる主張を相手方がしている場合、調停委員や裁判官に正しく事実関係を把握してもらうためにも、証拠は提出して問題ありませんし、むしろ積極的に提出すべきです。
相手が嘘をつけばつくほど、それが事実と異なると判明したとなれば、今まで嘘をついた分だけ裁判官や調停委員の心証が悪くなります。
調停が終始相手側のペースで進んでしまうと焦りも出てしまいますが、すべての嘘に反論しようと躍起になっていても、それこそ相手の思う壺です。
一つ嘘をつき崩せばあっという間に崩れていきますので、冷静にその機会をうかがうよう戦略的に進めていきましょう。
調停で虚偽の主張をすることは偽証罪には問われないのか?
偽証罪(刑法169条)は、「法律により宣誓した証人が虚偽の陳述をしたときは、3ヶ月以上10年以下の懲役に処される」というものです。
刑法上の犯罪はそれにより罰せられる場合の不利益の重大性に鑑み、罪刑法定主義といって、法律で明確に構成要件(どのような場合に当該犯罪が成立するのか)と刑罰が明確に定められていなければなりません。
偽証罪は、上記のとおり、刑法169条で「法律により宣誓した証人」が「虚偽の陳述をしたとき」に成立します。
調停における当事者は法律により宣誓した証人ではありませんから、離婚調停において虚偽の事実を述べることが偽証罪になるということはありません。
ただ、刑事罰にならなければよいというものではありません。
虚偽の主張をすれば、当然裁判所の心証は悪くなり、良い結果は望めません。
また、それ以上に長年連れ添った相手方や相手方の関係者、さらには調停進行に尽力している裁判所に対して、あまりにも不誠実です。
※関連ページ→「【判例つき】民事裁判の証言や陳述書で嘘をついたら偽証罪に問えるのか」
調停での解決を諦め訴訟提起をするという方法も
さて、どうにも相手の嘘に振り回されてしまい、それを崩すこともできず、どうやら調停委員もそれを信じ込んでいるというような場合、打つ手がないという事態も起こりえます。
そのような場合、無理して相手方の要求をのんでその後の生活で後悔するよりは、調停での解決を諦め、証拠とそれに裏付けられた主張で闘っていく訴訟での解決に、希望を託すという選択肢もありでしょう。
調停はあくまでも話し合いですから、双方の合意がなければ成立することはありません。
いくら検討しても応じることができないのであれば、Noと言えばそれでいいのです。
勝手に調停調書が作成されてしまうようなことはありません。
ただ、訴訟に移行したからといって、必ず調停より有利な結果が得られるとも限りません。
また、訴訟には訴訟独自の負担があります。
※関連記事→「離婚裁判の流れや期間と弁護士費用をデータを交えて解説」
少しの譲歩で済むのであれば、解決までの時間や精神的な余裕をお金で買ったと考えて、調停での早期解決を目指すという選択肢も実は大切なことです。
一方で、相手方のDVや不貞等、証拠もあり、傷ついたことに対して慰謝料が支払われるのが当然なのに、無理して調停を成立させることは妥当ではありません。
ケースバイケースなのです。
調停を継続することができなければ、調停は不成立となります。
相手方の虚偽の主張がもとで調停が不成立になるようなケースでは、次は訴訟を起こすことになります。
冷静に見極めたいときは弁護士に相談を
本記事では、相手方が虚偽の主張を繰り返す場合の対処方法について検討してきました。
どの局面でも、相手方の立場や主張、自分の置かれている状況について、冷静な見極めが必要です。
そもそも相手方が本心から離婚を望んでいるのか、事実の捉え方の違いがきっかけでの不和に過ぎないのか、決定的に修復困難なのか、相手方の主張が虚偽である場合にそれをどうやって崩していくか、自分の主張をどう展開していくべきか、調停の引き際はどこかなど検討することはたくさんあるのです。
これらを全部ご自身だけで行うというのは、非常にご負担が大きいでしょう。
ただでさえ、離婚問題というのは精神的負担が大きいものです。
感情的になってしまい、冷静な判断が難しいというケースもあるでしょう。
常に多くのケースと向き合い、その場その場に応じた判断をし、経験を積んだ弁護士だからこそアドバイスできることがたくさんあります。
一緒に考え、判断をし、行動をしてくれる専門家を頼ってみていただきたいと思います。
弁護士に相談する場合には、弁護士保険がおすすめです。
保険が弁護士費用の負担をしてくれるので助かります。