サービス残業続きで、会社がいやになって退職を決意。
どうせなら未払いになっている残業代を支払ってもらおうと思い、いろいろネットで調べてはみたものの、情報は多すぎるし中身は小難しいし……。
結局どうやって準備したらいいものかさっぱりわからないものだと思います。
今日は、そんな一般の方が弁護士に依頼して、会社に残業代請求をするまでの大まかな流れを見てみましょう。
こんな疑問にお答えします
A.大きなメリットは、弁護士であれば強制力を持って解決へ導いてもらえることです。
自分で直接会社に交渉しようとしても、話を先延ばしにされたり、取り合ってもらえなかったりと、丁寧に取り扱ってもらえないことがあります。弁護士へ依頼した際の費用は、法律事務所や相談窓口によって異なります。相談のみであれば無料で対応してもらえるところもあります。着手金、成功報酬は法律事務所ごとによって異なります。
残業代未払いの原因と対策
残業代に未払いがある原因は、
(1)残業代計算の基礎となる賃金が不当に低い
あるいは
(2)会社が賃金計算に用いている労働時間が実際の労働時間よりも少ない(もしくはその両方)
ということが考えられます。
会社によるおかしな取扱いで生じた未払残業代を支払ってもらうために弁護士に依頼するとして、請求のためにどんな準備をすればいいのでしょうか。
残業代計算の基礎となる賃金がおかしい場合
会社がどのような計算によって自分の残業代計算の基礎となる賃金を算出しているかは、意外とよく知らないものです。
給与明細に細かい残業時間数や残業代が記載されていれば、割り算をして残業1時間あたりの単価を出すことができますが、給与明細を見ても残業代の中身がはっきりしないことがあります。
このような状態のときは、契約内容までさかのぼったうえで、合理的といえる時間単価を算出する必要があるので、給与明細のほかに、労働契約書(労働条件通知書)や就業規則(賃金規程)といった書類を準備できるのが好ましいでしょう。
また、以前の記事(「インセンティブ(歩合給)が残業代代わり」って法的にどうなの?)でも触れたとおり、残業代計算の基礎に含まれない賃金は、①家族手当、②通勤手当、③別居手当、④子女教育手当、⑤住宅手当、⑥臨時に支払われた賃金、⑦1カ月を超える期間ごとに支払われる賃金、と決められていました。
しかし、名目上このような名前がついている賃金でも、実態がその名前にそぐわないような場合は、残業代計算の基礎に含めることになっています。
例えば、家族のいない人にも支払われている家族手当とか、距離に関係なく全員1万円もらえる通勤手当ですと、これは家族や通勤に関係ありませんので、残業代の計算基礎に含めることになります。
とはいっても、他の人の労働条件は分かりませんから、この場合も就業規則(賃金規程)の規定ぶりを参照することとなります。
残業時間が実際より短くされている場合
実際には2時間残業をしているのに、1時間しか残業手当がついていないとか、月何十時間以上はどんなに残業しても残業手当はつかないなどどいう会社はよくあります。
会社のほうで勝手に残業時間を短くされている場合、どのような資料を準備すればよいでしょうか。
もっとも好ましい資料はタイムカードの写しです。
タイムカードはもっとも正確に在社時間を示す資料ですので、残業代請求の成功率(回収率)もグンと上がります。
ただし、不必要な早出や残業は労働時間として認められませんので、タイムカードの出勤時刻から退勤時刻まで1分ももらさず残業代請求ができるわけではないことには留意しなければなりません。
タイムカードがない場合
タイムカードがなくても、出勤簿や業務日報、残業申出書などに出退勤時刻を記入していれば、それもある程度客観的な資料として扱われるでしょう。
また、いかにも21世紀という感じですが、朝から晩まで会社のパソコンを使って仕事をしている方の場合ですと、そのパソコンのログイン・ログアウト時刻が労働時間に近いといえます。
パソコンのログは、仕事中に変なサイトを見ているとかゲームをしているとかいう余計なことも分かってしまいますが、まじめな労働者の場合は、堂々とパソコンの使用時間を労働時間だと主張することができます。
上記のどれもない場合
では、タイムカードも出勤簿もなにもなく、全く労働時間を管理していない会社の労働者はどうしたらよいのでしょうか。
その場合、出退勤時刻をつぶさに手帳に記録するとか、退勤時に会社内の時計をケータイで撮影しておくとか、会社のパソコンから帰るメールをするとか、そのような工夫で在社時間を記録しておく必要があります。
裁判例でも、手帳を証拠にした労働者の残業代請求が、5~6割程度認められたという事例があります。
ただし、手帳のメモは、働いていた当時にその都度行うことが重要です。
あとでまとめ書きしたような不正確な記載だと、会社側から「この日はおかしい」などと反論され、証拠としての能力がものすごく低くなってしまいます。
残業代未払いのトラブルを弁護士に相談するメリット
ここまで、未払い分を請求するための準備を解説しましたが、中には「弁護士に依頼しなくても自分で対応できるのでは?」と思われた方もいるかもしれません。
結論、自分で対応するよりも弁護士へ依頼するメリットの方が大きいといえます。
では、具体的にどのようなメリットがあるのか解説します。
残業代未払い分を正確に計算してもらえる
まず、未払い分がどれくらいあるのかを正確に計算してもらえることです。
会社の給与計算は非常に細かくシビアです。未払い期間が続いていると、さらに複雑化することは間違いありません。
未払い分の回収を何度も行ってきた弁護士であれば、これまでの経験値から正確な給与を算出できます。
また、依頼者の状況に応じて回収の見込みも予測できることも、弁護士へ依頼するメリットといえます。
残業代未払いの回収を期待できる
弁護士へ依頼することで、未払い分の回収をしやすくなります。
自分で直接会社に交渉しようとしても、話を先延ばしにされたり、取り合ってもらえなかったりと、丁寧に取り扱ってもらえないこともあります。弁護士であれば、強制力を持って解説へ導いてもらえます。
この他にも、未払い給料の回収には時効が存在します。一般的に未払い給料の請求は3年で時効になります。未払い期間が長いほど、早い段階で回収しなければなりません。
弁護士に依頼をすることで、豊富な知識のもと効率よく回収が期待できます。
未払い期間に対する遅延損害金も回収できる
弁護士へ依頼することで、遅延損害金の回収も可能です。
遅延損害金とは、支払い期限が遅れた時に損害賠償として支払われる損害金のことです。
遅延損害金の存在は一般的に知られていないケースが多く、法律の専門家でないと見逃してしまう可能性があります。
未払い期間が長い場合は、遅延損害金も多くなることもあります。弁護士に依頼することで、未払いの残業代と併せて回収してもらえるでしょう。
弁護士費用って高いんでしょう?
今まで資料の話や弁護士へ依頼するメリットを解説してきましたが、最後に立ちはだかるハードルは「弁護士費用」です。
弁護士費用はどうしても高いイメージがあり、相談するだけでもいくら掛かるかわからないなどと心配してしまいます。
現在は、各弁護士が自由に報酬基準を決めてもいいことになっているため、その点では明朗とは言い切れないのですが、弁護士に依頼して掛かる費用として一般的なものを説明していきます。
相談料
法律相談に要する費用です。
一般には30分5,000円というケースが多いようです。
しかし、相談から他の法的手続に発展する可能性もありえるので、相談料をあえて無料として、相談に行きやすい体制を作っている事務所もあります。
着手金
相談をした結果、相手方との交渉や訴訟などをその弁護士に依頼するときに支払う費用です。
依頼をすると、弁護士はその事件について調査や交渉をしたり、裁判所へ書面を提出したり裁判手続を行ったり、といった作業に入りますので、それに要する費用とお考えください。
これは、仮に完全にこちらの請求が不成功に終わったとしても還ってくるものではありません。
成功報酬
弁護士が前記のような仕事をした結果、なんらかの成功を収めて事件を終了させた場合に、その割合に応じて支払う報酬です。
証拠が揃っている未払残業代請求など一定の種類の事件では、成功する確率も高いと予想されるため、相談料だけでなく着手金も無料としたうえで、報酬は最後の成功報酬のみ、という価格設定の事務所もあります。
だいたい回収額の20~30%あたりが成功報酬の相場だといえそうです。
未払い残業代150万を請求して獲得できた場合の弁護士費用のシミュレーション
「未払残業代」として150万円を請求し、訴訟によって全額の請求が認められた場合の着手金と成功報酬について、全国CMを打っているような大手の法律事務所5か所と、ネット上で報酬規定を明らかにしている個人の法律事務所10か所の金額を算出してみました。偶然にも、この15か所はすべて相談料が0円でした。
法律事務所ごとの弁護士費用
着手金 | 成功報酬 | 合計 | |
---|---|---|---|
大手A | 13.5 | 27 | 40.5 |
大手B | 13.5 | 27 | 40.5 |
大手C | 0 | 43.74 | 43.74 |
大手D | 30 | 24 | 54 |
大手E | 10 | 62.1 | 72.1 |
個人F | 0 | 32.4 | 32.4 |
個人G | 0 | 32.4 | 32.4 |
個人H | 0 | 32.4 | 32.4 |
個人I | 0 | 38.88 | 38.88 |
個人J | 13.5 | 27 | 40.5 |
個人K | 0 | 45.36 | 45.36 |
個人L | 0 | 46.98 | 46.9 |
個人M | 0 | 57.5 | 57.5 |
個人N | 20 | 40.5 | 60.5 |
個人O | 0 | 81 | 81 |
(単位:万円)
また、「(旧)日本弁護士連合会報酬等基準」という、一般の法律事務所でよく使われている報酬基準の大まかなものを示します。なお、上の表では、「個人J」の事務所がこの基準を用いていました。
(旧)日本弁護士連合会報酬等基準
請求額 | 着手金 | 報酬金 |
---|---|---|
300万円以下 | 8% | 16% |
3000万円以下 | 約5% | 約10% |
3億円以下 | 約3% | 約6% |
事務所によって大きく開きがありますが、150万円を請求するのに30~80万円くらいかかるという計算になりました。
しかし、弁護士選びは値段だけで決まるものではありません。
丁寧な説明と的確なアドバイスをしてくれる、自分に合った弁護士を選ぶことが、結果をも大きく左右するといえます。
司法書士や行政書士じゃダメなの?
司法書士や社会保険労務士、行政書士といった他の士業の事務所でも残業代請求を取り扱っていることがあります。
しかし、弁護士以外の士業の資格者では、原則として計算や書類(内容証明郵便など)作成を行ってくれるに過ぎませんので、会社との交渉や裁判・労働審判の代理人などにはなれません(一部の司法書士を除く)。
交渉や訴訟となると、自分で行うには少しハードルが高すぎます。弁護士に法的なサポートを受けて請求するのが、一番実効性の高い手法であるのは間違いありません。
残業代未払い分を着実に回収するなら弁護士へ相談しましょう
残業代の未払いは、労働者のストレスになるほか、生活にも影響する深刻な問題です。
残業代未払いの回収は3年の時効があるので、未払い期間が長期に渡る場合はできる限り早めに回収に取り掛かる必要があります。
働いた時間と労力を無駄にしないためにも、労働問題に詳しい弁護士へ相談するようにしましょう。
弁護士に相談する場合には、弁護士保険がおすすめです。保険が弁護士費用を負担してくれるので助かります。
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記事を振り返ってのQ&A
Q.残業代未払いにはどのような理由がありますか?
A.残業代に未払いがある原因は、「残業代計算の基礎となる賃金が不当に低い」「会社が賃金計算に用いている労働時間が実際の労働時間よりも少ない(もしくはその両方)」ということが考えられます。
Q.弁護士に回収を依頼するとして、どのような準備が必要ですか?
A.残業代計算の基礎となる賃金がおかしい場合は、給与明細のほかに、労働契約書(労働条件通知書)や就業規則(賃金規程)といった書類を準備しましょう。
残業時間が実際より短くされている場合は、タイムカードの写しなど在社時間を示す資料を準備しましょう。タイムカードがない場合は、出勤簿や業務日報、残業申出書など客観的な資料があると効果的です。
Q.そもそも、残業代未払い問題は弁護士へ依頼するのが得策なの?
A.自分で対応するよりも弁護士へ依頼するメリットの方が大きいといえます。
主に、「残業代未払い分を正確に計算してもらえる」「残業代未払いの回収を期待できる」「未払い期間に対する遅延損害金も回収できる」といったメリットがあります。
自分で直接会社に交渉しようとしても、話を先延ばしにされたり、取り合ってもらえなかったりと、丁寧に取り扱ってもらえないことがあります。弁護士であれば、強制力を持って解説へ導いてもらえます。
Q.残業代未払い問題を弁護士に依頼したら費用はどれくらいかかるの?
A.法律相談料は一般的に30分5,000円です。相談であれば無料で対応してもらえるところもあります。着手金、成功報酬は法律事務所ごとによって異なります。