有給?無給?日数上限は?生理休暇の法律的な扱い

生理休暇と弁護士費用保険

有給?無給?日数上限は?生理休暇の法律的な扱い

※この記事は『ワークルール検定問題集』などの著者であり、労働法の研究者である平賀律男氏による寄稿文です。

インターネットの普及により個人の発言力が上がったことで、日本の社会全体や日本人の権利意識などは徐々に変わりつつあるかもしれません。

そんなわけで、今日は、働く女性の権利である「生理休暇」について考えてみましょう。

こんな疑問にお答えします

Q:生理休暇の法律的な扱いはどうなっていますか?
A:平賀 律男(パラリーガル)

生理休暇は、労働基準法68条に定められている法定の休暇です。
生理休暇が有給であることまでをも補償したものではありません。

ただし、
生理休暇を請求されれば認めざるを得ない実態のなかで、「就業が著しく困難」ではないのに生理休暇をとる事態が横行すれば、女性労働者に対する社会の信頼が損なわれることとなり、会社としても生理休暇制度の運用は難しいものといえます。

会社が生理休暇を取らせてくれないのは違法?

生理休暇とは、会社が自由に設けたり設けなかったりしてよいものではなく、労働基準法68条に定められているれっきとした法定の休暇です。

条文をこれから何度も見返すことになるので、まずは引用しておきます。

使用者は、生理日の就業が著しく困難な女性が休暇を請求したときは、その者を生理日に就業させてはならない。

シンプルな条文ですので、わかりやすいのではないでしょうか。

会社がこれに違反した場合は、30万円以下の罰金に処せられることとなっています(労働基準法120条1項)。

ただし、大前提となることですが、生理だからといって無条件に休めるわけではなく、「就業が著しく困難」、つまり「辛すぎて働けない」という状況のときにだけ休むことができることには気をつけなければなりません。

診断書を出せと言われた・・・

生理休暇と診断書

では、「辛すぎて働けない」という事実について、会社が女性従業員に対して、診断書等の客観的な資料によって証明させる必要はあるのでしょうか。

これは、ノーです。

医師の診断書等のような厳格な証明をする必要まではないと考えられています。

生理が重いといっても、個人個人で苦痛の程度が異なって客観的な証明が難しいということもありますし、もし「診断書を添えなさい」などと手続をいちいち複雑にしてしまうと、病院に行ったりしなければならず、辛すぎて働けないから休んでよいという制度の趣旨に反しますからね。

ということで、基本的には本人の申し出が尊重されることになっています。

生理休暇は無給でも文句は言えない?

通常の年次有給休暇については、労基法39条6項で「通常の賃金を支払わなければならない」と定められています。

しかし、生理休暇に関するさきほどの労基法68条の規定には、そのような文言は書かれていません。

そのため、労基法は、生理休暇が有給であることまでをも補償したものではないと考えられています。

ただし、会社の規定によっては、有給扱いになることもありますので、詳しく見ていきましょう。

労働基準法と就業規則が違う場合には、どちらが適用される?

一般に、労基法と就業規則の内容に差がある場合にどちらが適用されるかについては、「有利な方を適用する」というのが大原則です。

就業規則が会社の最低基準になるものであるのに対し、労基法は日本全体の最低基準となるものですから、就業規則で労基法に反する労働条件を定めることはできません。

生理休暇について労基法が有利な場合を考えると、例えば就業規則で「女子従業員に対する生理休暇は、これを与えない」などと規定されている場合がそれにあたります。

しかし、先ほど述べたとおり、生理休暇は労基法に定められた休暇であり、この就業規則の条項は労基法違反となりますので、就業規則のこの部分は無効となって、労基法の基準に置き換えられます。

逆に、就業規則が有利な実例として最もありうるのは、労働契約や就業規則などで生理休暇を有給扱いとするケースです。

この場合は、会社はその定めに拘束されますので、労基法が有給だと言っていないからといって、女性従業員が生理休暇をとった日に給料を支払わないことはできません。

関連ページ→「就業規則の周知義務。見たことがない規則に効力はある?

取得できる日数の上限ってあるの?

生理休暇の上限を気にする女性

会社は、女性従業員が嘘をついて生理休暇を取りまくって社業に影響が出るのを防ぐために、1カ月に1日とか3日とかというように、生理休暇の上限を定めることはできるのでしょうか?

これは、ノーです。

個人個人で感じる辛さのレベルは違って、別に生理だからといって働けなくならないという人から、期間中はまったく働けないという人までさまざまですので、これを何日までと定めてしまうと、制度の趣旨が失われてしまいます。

ですので、就業規則などで日数を制限することはできないことになっています。

ただし、会社としては、女性従業員から申告されたらもうズル休みを防げない、というわけではありません。

先ほどの有給無給の話と絡めて、生理休暇を「月1日までは有給、あとは無給」とかいう定め方をすることは可能ですので、制度を悪用して生理休暇を取りまくる、というのはある程度防げそうです。

パートタイマーにも適用されるの?

シフト制などで働いているパートタイマーにも生理休暇の適用はあるのでしょうか?

もうおわかりかもしれませんが、労基法の規定はどんな労働者にも適用されるのですから、パートタイマーであろうと適用されるのは当然だ、ということで、これはイエスですね。

ただし、シフト制で出勤日が決まっている場合には、休むと急遽誰か他の人に働いてもらうこととなるので、生理休暇を取りにくいのが実情だと思います。

シフトに穴を空ける場合には、それが仮に病欠であったとしても、「休む労働者自身が代わりに働いてくれる人をさがす」というルールがある会社も多いでしょう。

しかし、これは法的には問題のあるシステムです。

休む労働者に対して「代わりの人間をさがせ」というのは会社からの業務命令にあたりますが、会社は業務命令ならどんなことでも命じていいわけではありません。

本来的には労務管理は会社の仕事なのですから、その負担を労働者に押しつけるのは業務命令権の濫用といわざるを得ません。

そうは言っても、急な休みで会社や他の労働者に迷惑を掛けたくないのもホンネでしょう。

事前にある程度時期がわかるのであれば、シフトが決まる時点でうまく対応する、というのが現実的なのかもしれません。非常に日本的な「空気を読む」発想ですが……。

生理休暇をめぐる裁判例

生理休暇の判例

生理休暇は、条文上「就業させてはならない」としか決まっていないこともあり、生理休暇をとったことでその他の労働条件に不利益な影響が及ぶ取扱いが裁判上の争いになることがよくあります。

相反する結論を出した著名な裁判例2つを見てみましょう。

裁判例1「エヌ・ビー・シー工業事件」

会社によっては、労働者の無遅刻無欠勤を達成させるために、精勤手当・皆勤手当といった手当を設けているところもありますが、生理休暇をとったことを理由としてこの精皆勤手当が減額されたという事件で、裁判所は、精皆勤手当が出勤率の向上のために設けられたものであること、生理休暇をとった場合の手当が別に支給されていることから、生理休暇の取得を著しく抑制しているわけでない、として労基法上違法な取扱いにあたらないと判断しています(エヌ・ビー・シー工業事件・最高裁昭和60年7月16日判決)。

裁判例2「日本シエーリング事件」

これに対して、前年稼働率が80パーセント以下の労働者を賃上げの対象から除外する条項がある会社で、年休、生理休暇、産前産後休業や労災による休業などの労基法上の休暇や、ストライキなどの組合活動による休業をすべて含めて稼働率を算定しているという事件で、この条項は法律が労働者に権利を保障した趣旨を実質的に失わせるため、これらの法律上の権利行使による休暇・休業を稼働率算定の基礎に含めることは無効であると判断されました(日本シエーリング事件・最高裁平成元年14月24日判決)

エヌ・ビー・シー工業事件のほうは、精皆勤手当の判断において生理休暇を不利に取り扱ってもよい、とは言っても、生理休暇日に別の手当が出ることで労働者の経済的不利益が少なくなっているという事実が、判断の重要な要素になっていると考えられます。

また、一部の労働者が生理休暇を不適切にとっていた、という裏事情も結論に影響を与えていると思われます。

基本的には、生理休暇をとって何らかの不利益が生じることは、生理休暇の取得を抑制する原因になりますので、生理休暇を労働条件に反映させるのはあまりよろしくない、と考えた方がいいかもしれません。

生理休暇中に外出し、懲戒解雇になった例も・・・

なお、若干オマヌケな例ではあるのですが、生理休暇をとったその日に、夫が運転する自動車で、深夜に遠隔地(高速道路で4時間掛かる場所)まで行き、その翌日に民謡大会に出場したことが判明して懲戒処分を受けたという事件。

裁判所は、生理休暇をとった日に入っていた業務にはそれほど苦痛ではないものも含まれていたので、生理日のため「就業が著しく困難」であったとはいえない、として、懲戒処分を有効と判断しました(岩手県交通事件・盛岡地裁一関支部平成8年4月17日判決)。

生理休暇を取得する際に意識すべきこと

生理休暇は法律で認められる権利です。とはいえ、伝え方や申請の仕方に不安があるという方もいるでしょう。
ここからは、実際に生理休暇を取得する際のポイントを解説します。

取得したい旨を明確に伝えよう

生理休暇は誰にでも与えれる権利です。症状がつらく仕事にならない場合は、取得したい旨を明確に伝えて問題ありません。

ただ、上司が男性の場合は「伝えにくい」「理解してもらえるか不安」と躊躇してしまうこともあるでしょう。女性の上司がいればその方に、そのほか理解を得られそうな上司に相談してみましょう。

有給休暇の日数も考慮しよう

生理休暇が有休に影響するかどうかは、会社によって異なります。
労働基準法では、有給休暇は出勤日数が8割以上に満たなければ取得できないと定められています。

生理休暇を取得しすぎて出勤日数が減ってしまった場合、有給休暇に影響することも考えておいた方がいいでしょう。

休暇中はそれなりの過ごし方を

生理休暇を取得した際は、それなりの過ごし方を心がけましょう。先ほど紹介した事例にもあったように、生理休暇を取得した日に遠方へ外出し民謡大会へ参加したという不正利用と思われるケースがあります。

不正利用が蔓延することで、同じ職場で働いている他の女性労働者も取得しづらい環境になりかねないので、休暇中は安静にするなど過ごし方を意識しましょう。

会社も労働者も、適切な権利意識を持つ

この岩手県交通事件の判決文でも述べられていますが、生理休暇を請求されれば認めざるを得ない実態のなかで、「就業が著しく困難」ではないのに生理休暇をとる事態が横行すれば、女性労働者に対する社会の信頼が損なわれることとなり、会社としても生理休暇制度の運用は難しいものといえます。

会社も労働者も、適切な権利意識を持って、お互いに気持ちよく休暇がとれる世の中になることを願っています。

休暇申請において不当な扱いを受けたら弁護士へ相談を

ただ、「生理休暇の申請をしたにもかかわらず休ませてくれない」「生理休暇を取得したら解雇されてしまった」など、不当な扱いをされた場合は適切に対処する必要があります。

基本的には、生理休暇は法定休暇なので、就業が著しく困難になった場合は会社側は生理休暇の申請を拒否することはできません。

また、取得したことで不当な扱いをされた場合も違法となる可能性があります。

このようなケースは法律が関係してくる話なので、一度弁護士へ相談してみることをおすすめします。

弁護士への相談方法

ただ、弁護士への依頼といっても、どこに相談したらよいのか分からないといった方もいるでしょう。

それぞれの窓口の特徴や利用方法については、こちらの記事を参考にしてみてください。

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記事を振り返ってのQ&A

Q:生理休暇を取得するために、医師の診断書が必要か?
A:医師の診断書等のような厳格な証明をする必要まではないと考えられています。

Q:取得する日数に上限はあるのでしょうか?
A:就業規則などで日数を制限することはできないことになっています。しかし、生理休暇を「月1日までは有給、あとは無給」とかいう定め方をすることは可能です。



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