証拠は不要!支払督促の流れや申し立てに必要な書類、費用と異議申し立てについて解説

六法全書

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この記事の執筆者

福谷 陽子(元弁護士)

六法全書相手に対して「お金を払ってもらう権利」があるなら、裁判所で「支払督促」という手続きを行うことにより、支払わせることができる可能性があります。

ただし、支払督促にはメリットだけではなく、デメリットも多いので注意が必要です。

反対に支払督促を申し立てられたときの対処方法も、一緒に押さえておきましょう。

今回は「支払督促」とは何か、利用すべきケースやメリット・デメリット、申立方法やかかる費用など、必要な知識を広く解説していきます。

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こんな疑問にお答えします

Q:支払督促のデメリットは何ですか??
A:福谷 陽子(元弁護士)

以下がデメリットになる。
・相手が異議申立をすると通常訴訟になる
・労力や時間が無駄になるおそれ
・裁判所が遠くになるおそれ
が挙げられます。

特に、通常訴訟になるリスクを考慮すると、慎重に実施することが必要です。

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支払督促とは

支払督促とは、裁判所に申立をして相手に対する「強制執行(差押え)の権利」を認めてもらう手続きです。

支払督促を申し立てると、裁判所が債務者(相手)に対し、支払督促の通知をします。

相手が通知書を受け取ってから2週間以内に異議申立をしない場合、債権者には債務者の財産を差し押さえる権利が認められます。

すると、債権者は所定の期間内に「仮執行宣言の申立」をすることにより、相手の財産を差し押さえることができます。

支払督促をするとき、詳しい法律上の主張は要りませんし証拠も不要です。

相手が異議さえ申し立てなければ、裁判なしに簡単に財産を差押えることができます。

ただし、支払督促を利用できるのは「金銭債権」の場合のみです。

金銭債権とは、お金を払ってもらう権利です。

たとえば、お金を貸したときや損害賠償金を払ってほしいときなどに利用できます。

反対に、建物を明け渡してほしい場合や子どもと会わせてほしい場合、不動産の登記を移転してほしい場合などには支払督促を利用できません。

また、相手が支払督促通知を受けとってから2週間以内に異議を出せば、手続きは「通常訴訟」に移行します。

そうなると債権者も債務者も強制的に裁判に巻き込まれることになります。

支払督促を利用できるケースと利用できないケース

利用できるケース

支払督促は、以下のようなケースで利用できます。

支払督促が利用できるケース

・貸したお金を返してもらえない
・商品代金を払ってもらえない
・家賃を滞納されている
・損害賠償金を請求したい(交通事故など)
・給料や残業代、退職金を払ってもらえない
・相手の氏名(名称)や居場所がわかっている

上記以外にも「お金の請求」であれば基本的にどのような事柄でも利用可能です。

また、支払督促には限度額がないので、いくらでも請求可能です。

ただし、相手の氏名(企業名)や住所がわからないと裁判所の手続きは利用できません。

利用できないケース

以下のような場合、支払督促を利用できません。

支払督促が利用できないケース

・家や土地を明け渡してほしい
・離婚したい
・子どもと会わせてほしい
・不動産の登記を移転したい
・相手の氏名や名称、居場所がわからない

上記以外でも金銭債権以外の請求は不可能です。

また、相手の名称や住所がわからないと申し立てられないので、先に調査して明らかにする必要があります。

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支払督促と証拠について

支払督促を利用したい方は、よく「どのくらい証拠があったら良いのか?」と迷うことがあります。

実は、支払督促には証拠は不要です。

まったく証拠がなくても支払督促を申し立てることができますし、相手が異議さえ出さなければ証拠がなくても差押えが認められます。

実際に、架空請求詐欺の業者が支払督促を利用して、異議を出さない相手(何の関係もない人)の財産を差し押さえようとする事例もあるくらいです。

しかし、支払督促に異議を出されて通常訴訟に移行すると話は変わってきます。

訴訟では当然厳密な証拠を要求されるので、先々のことを考え、支払督促の申し立て時から証拠を集めておいた方が安心でしょう。

一方で「充分な証拠があるなら始めから裁判をすれば良い」とも考えられるので、支払督促の際にどのくらいの証拠を揃えておくべきかについては、ケースバイケースで検討する必要があります。

支払督促を利用したほうが良いケース

以下のような場合には、支払督促の利用を検討することをお勧めします。

相手が争わないと予想される

相手が争わず異議申立を出さなければ、そのまま支払督促が認められて相手の財産を差し押さえることが可能です。

スムーズに債権回収できるので、ぜひ支払督促を利用しましょう。

弁護士に依頼すると足が出る

少額の債権や相手に資力がない可能性がある場合など、弁護士に対応を依頼すると足が出るおそれの高い案件があります。

そのような場合でも、支払督促なら簡単に自分一人でできるので、まずは試してみる価値があります。

同種の債権で債務者が多数

たとえば、ホテルの宿泊費や飲食店のキャンセル代、未払いの診療報酬(医療費)や売掛金など、同種の債権で債務者が多数いる場合には、一斉に多数の債権者宛に支払督促を申し立てることによって効率的に回収できる可能性があります。

消費者金融などの業者も、よく支払督促を利用しています。

充分な証拠がない

支払督促には証拠が不要ですので、手元に十分な証拠がないならダメ元で支払督促を利用してみるのも1つの手法です。

支払督促を利用しないほうが良いケース

以下のようなケースでは、支払督促をお勧めしません。

相手がほぼ確実に争ってくる

相手がほぼ確実に異議を出すと予想される場合、支払督促をしても意味がありません。

たとえば、交通事故で保険会社相手に支払督促をすると、ほぼ確実に異議申立をされて通常訴訟に移行するので、利用すべきではありません。

弁護士に依頼してでも裁判で解決する価値のあるケース

高額な債権で十分な証拠がある場合など、弁護士に対応を依頼しても充分メリットのある案件であれば、わざわざ支払督促を利用しなくても良いでしょう。

債権額が高額であれば、相手が異議申立を出してくる可能性が高くなります。

特に難しい論点が含まれているケースなどでは、裁判でじっくり審理してもらった方が良いでしょう。

支払督促のメリット

支払督促には、以下のようなメリットがあります。

裁判をしなくても差押えができる

一般的に、相手の財産を差し押さえるには「債務名義」が必要です。

そのためには、強制執行認諾つきの公正証書を作成するか、調停・裁判などの手続を経なければなりません。

裁判には長い時間と多大な労力がかかります。

支払督促であれば、公正証書がなくても裁判なしで相手の財産を差し押さえることができます。

スピーディな債権回収が可能

債権回収は、なるべくスピーディに行いたいものです。

しかし、一般に裁判手続きを利用すると、どうしても手続きが多くなり時間がかかるので、敬遠されがちです。

支払督促の場合、相手が2週間以内に異議さえ出さなければ、すぐに差押えができるためスピーディな債権回収が可能です。

証拠が不要

裁判を起こして判決で債権を認めてもらうには、必ず証拠が必要です。

借用証や売買契約書などの何らかの証拠がなかったら、相手に支払い命令を出してもらうことができません。

支払督促の場合、一切の証拠が不要なので充分な資料がなくても、利用できることがメリットでしょう。

手続きが簡単

支払督促は、手続きが非常に簡単です。

詳しい理由も証拠も不要で「支払督促申立書」という書類を出せば申立ができます。

その後相手が2週間以内に異議を出さなければ、「仮執行宣言申立書」を提出し、差押えができる状態になります。

弁護士をつける必要はなく、自分一人で充分に手続きを進められます。

労力がかからない

支払督促では証拠が不要ですし、提出書類も少数です。

裁判期日なども開かれないので、わざわざ裁判所に行く必要がありません。

書面審理で簡単に結論が出て差押えができるので、労力がかかりません。

費用が安い

支払督促は、通常裁判と比べて費用も安くなります。

まず、裁判所に納める手数料(印紙代)は通常訴訟の半額で、郵便切手代も通常訴訟より低額です。

さらに、支払督促の場合、弁護士に依頼せずに済みます。

弁護士に依頼すると最低10万円はかかるので、自分で支払督促をすることによって大幅に節約が可能となります。

金額に制限がない

自分で裁判する方法としては支払督促と少額訴訟が有名ですが、少額訴訟には「60万円」という金額の制限があり、それを超える場合には通常訴訟しかできません。

支払督促には金額の制限がないので、数百万、数千万円の債権でも請求することが可能です。

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時効を中断できる

債権には「時効」があります。

時効が成立すると債権は消滅するので、基本的には相手に請求できなくなってしまいます。

支払督促には時効中断の効力があるので、申立をした時点で時効が中断され、債権の時効到来の心配がなくなります。

長年放置していて時効が成立しそうな場合、とりあえず支払督促を申し立ててみるのも1つの対処方法でしょう。

支払督促のデメリット

支払督促には以下のようなデメリット・リスクもあるので、注意が必要です。

相手が異議申立をすると通常訴訟になる

支払督促では、相手が異議申立をすると通常訴訟になります。

当初に支払督促申立書を受け取ってから2週間以内に、簡単な「異議申立書」を提出するだけで訴訟手続きに移行して、差押えはできなくなります。

また、相手が当初に受け取った支払督促申立書に異議を申し立てず、仮執行宣言が付与された場合にも、その際に債務者に送られてくる「仮執行宣言付き支払督促」に対して異議を述べれば、やはり手続きが通常訴訟に移行します。

この場合、異議に差押えを止める効果はないので差押え自体は可能ですが、裁判が始まってしまいます。

このように、支払督促では債務者に2回異議申立する機会があり、どちらかに異議を申し立てたら手続きが通常裁判になります。

そうなると、債権者も強制的に裁判に巻き込まれて労力や時間を割かねばなりません。

裁判になったときに証拠がなかったら敗訴しますし、自分で対応できなかったら弁護士を立てざるを得なくなり、費用がかかります。

労力や時間が無駄になるおそれ

支払督促を申し立てても、債務者が異議を申し立てると裁判になります。

すると、通常訴訟の裁判所からあらためて裁判の通知が来ますが、訴訟が始まるまでに1か月以上かかるケースも少なくありません。

また、訴訟になったら1からの手続きのやり直しです。

つまり、異議申立をされて訴訟になると、支払督促に費やした労力や時間は全部無駄になるということです。

はじめから訴訟を起こした方が、労力をかけずに手早く解決することができるのです。

裁判所が遠くになるおそれ

支払督促で異議を出される場合の隠れたデメリットとして、裁判所の管轄の問題があります。

一般的に金銭債権の場合、債権者の住所地で裁判を起こせるケースも多いのですが、支払督促で異議を出されたら相手の住所地の裁判所が管轄となります。

相手が遠方に居住している場合には、期日のたびに相手の居住地の近くに行かねばならず、大変な労力がかかります。

飛行機代や新幹線代などの交通費も発生しますし、弁護士に依頼したら弁護士の分の交通費や高額な日当が発生してしまいます。

これらのことを考えても、裁判になる可能性が高いのであれば、始めから自分の近くの裁判所で訴訟を申し立てた方が良いでしょう。

支払督促にかかる費用

支払督促にはどのくらいの費用がかかるのでしょうか?

一般的に支払督促は弁護士に依頼せずに自分一人で行うので、以下では自分で支払督促を申し立てる場合の費用をご紹介します。

裁判所へ納める費用一覧

・印紙代
裁判所の手数料です。

請求金額によって異なり、金額が高額になるほど手数料も上がります。

ただし、通常訴訟と比べると半額です。

たとえば10万円の請求なら500円、20万円なら1,000円、50万円の請求なら2,500円、100万円の請求なら5,000円、200万円の請求なら7,500円です。

・郵券切手代
支払督促を申し立てる際、債務者の人数×1,200円程度が必要です。

その後、仮執行宣言を申し立てる際、あらためて債務者の人数×1,200円程度が必要です。

・郵送にかかる費用
支払督促を郵送で申し立てる際、簡易書留・速達などで裁判所宛に文書を送付するための郵送費がかかります。

・相手や自分が法人の場合、資格証明書や商業登記簿謄本
相手や自分が法人の場合、それぞれ資格証明書あるいは商業登記簿謄本(法人の全部事項証明書)が必要です。

どちらも法務局で取得できます。

資格証明書は1通450円、商業登記簿謄本は1通600円です。

訴訟に移行する際の費用
債務者が異議申立をして訴訟へ移行する場合、債権者は異議申立をした裁判所へ対し追加の印紙代(当初に債権者が支払ったのと同額)と、郵券切手代(6,000円程度)を支払う必要があります。

申立書類の書き方

支払督促を申し立てる際には、「支払督促申立書」と「当事者目録」、「請求の趣旨及び原因」という書類を作成しなければなりません。

これらの書類の書き方をご説明します。

書式はこちら↓
http://www.courts.go.jp/vcms_lf/31701001.pdf

申立書類の記載例はこちら↓
http://www.courts.go.jp/saiban/syosiki_siharai_tokusoku/siharai_tokusoku/index.html

支払督促申立書の書き方

支払督促申立書には、次の事項を記載する必要があります。

・申立人(債権者)の住所と氏名、押印(認印も可)
・法人の場合、所在地と名称、代表者名を記載します。
・電話番号
・FAX番号
・送達場所
・請求価額
・印紙代や郵便切手の金額
・申立にかかる費用

当事者目録の記載事項

当事者目録には以下の項目を記載します。

・債権者と債務者それぞれの住所(所在地)
・氏名(名称)
・電話番号
・FAX番号
・送達先の住所

請求の趣旨及び原因の記載事項

請求の趣旨及び原因には、以下の項目を記載します。

・請求の趣旨
相手に支払ってほしい請求金額と遅延損害金の金額を書きます。

・請求の原因
どういった理由で債権が発生しているのかを記載します。

たとえば、金銭消費貸借契約を締結したことや売買契約を締結したこと、損害賠償請求権が発生していることなどを具体的に記載します。

オンライン申立について

支払督促申立は、オンラインでも申請できます。

http://www.tokuon.courts.go.jp/AA-G-1010.html

●オンライン申請の概要
オンライン申請の場合、受け付ける裁判所は東京簡易裁判所になります。

まず、債権者として登録をし、ウェブ上で申立書の作成などを行ってそのままウェブ上で申請を完了できます。

印紙代と郵便切手代は、ネットバンキングまたはペイジー対応のATMなどで支払います。

多くの債務者へ申立をする場合、一回の送信で多数の債務者への申立をすることもできるので、手続きがかなり簡略化されます。

オンライン申請の場合、受け付ける裁判所は東京簡易裁判所になります。

とはいえ、全国から申立ができますし、支払督促の段階では東京に出向く必要はありません。

しかし、相手から異議申立をされて訴訟に移行した場合には、東京簡裁あるいは東京地裁で審理が開かれる可能性が高くなり、そうなれば期日のたびに東京まで行かねばなりません。

遠方に居住している方の場合、期日に出廷することによるデメリットが大きくなるでしょう。

もし、支払督促の相手があなたの近くに住んでいて、お互いに管轄裁判所について合意できる場合、「管轄合意」によって近くの裁判所に移送してもらえる可能性もあります。

それ以外の場合、基本的に東京で裁判が開かれることは、念頭に置いておいた方が良いでしょう。

オンライン申請利用の際には「東京との距離感」や「相手が異議申立する可能性がどの程度あるか」などの要素を慎重に検討することをお勧めします。

●利用できる時間
オンラインではありますが、利用できるのは平日の9時〜17時です。

●利用できる債権の種類
オンラインの支払督促を利用できる債権は以下の6種類に限定されています。

・貸付金
・立替金
・求償金
・売買代金
・通信料
・リース料

上記以外は、通常の支払督促手続きを利用する必要があります。

支払督促の必要書類

支払督促を申し立てる際、必要書類は以下の通りです。

支払督促に必要な書類

・支払督促申立書
・当事者目録
・請求の趣旨及び原因
・申立人の氏名、住所地を記載して切手を貼った返信用の封筒
・相手の氏名と住所を書いて切手を貼った封筒
(法人の場合には、法人名と代表者名を記載します)
・申立人の名前と宛先を記載したハガキ
(債務者の人数分が必要です)
・法人の場合、3か月以内に所得した資格証明書
・マンション管理組合が当事者の場合、管理組合の規約と議事録の写し
・弁護士や司法書士に依頼する場合、委任状

支払督促と消滅時効

支払督促を申し立てると時効が中断する

支払督促を申し立てると、債権の時効が中断します。

時効の中断とは、時効期間が進行を止めて、また当初からの期間の数え直しになることです。

そこで、時効が成立しそうになっているタイミングで支払督促を申し立てると、時効を止めて債権を保全できます。

ただし、支払督促の申立をした段階では「催告」という暫定的な効果が発生するのみです。

その後、相手が異議申立をせず「仮執行宣言の申立」をしたときに、確実な時効中断の効果が発生します。

また、途中で支払督促を取り下げると、申立がなかったことになるので、時効は中断しません。

相手が異議申立をした場合

相手が異議申立をした場合、仮執行宣言を申し立てることができません。

ただし、その場合には通常訴訟に移行するので、訴訟による時効の中断効果が発生し、判決が確定した時点で時効が10年間延長されます。

もし、訴訟になったことを嫌って取り下げてしまったら、時効の中断効果は発生しません。

支払督促や訴訟の途中では時効は成立しない

支払督促や訴訟の手続きが進行している最中に時効が成立することはありません。

訴訟が長引いても、途中で請求権が失われることはないので、安心しましょう。

支払督促の流れ

支払督促を申し立てると、その後どういった流れで進んで行くのかみてみましょう。

支払督促の申立をする

まずは、簡易裁判所宛てに支払督促の申立をします。

裁判所は、相手方の住所地を管轄する簡易裁判所です。

必要書類と費用をつけて郵送すれば申立ができますし持参してもかまいません。

オンライン申請の場合には、管轄は東京簡易裁判所になります。

支払督促の発付

支払督促の申立が正常に受け付けられると、裁判所は債権者と債務者の双方に「支払督促の発布」という通知を行います。

債務者には「督促異議申立書」の書式と書き方を説明する書類が同封されます。

異議申立がないまま2週間が経過する

債務者が支払督促の通知を受け取ってから2週間以内に異議申立をしなかった場合には、債権者は「仮執行宣言の申立」をできる状態になります。

異議申立があると通常訴訟に移行する

債務者に支払督促の通知が届いてから2週間以内に異議申立があると、手続きは通常訴訟に移行します。

この場合には、仮執行宣言の申立や債務者の財産差押えはできません。

仮執行宣言を申し立てる

支払督促の通知を受け取ってから2週間、相手からの異議申立がなかった場合、制限期間内に 「仮執行宣言の申立」をしなければなりません。

この手続きをしなければ差押えはできなくなります。

仮執行宣言申立の際には、以下の書類が必要です。

仮執行宣言申立に必要な種類

・仮執行宣言の申立書
・当事者目録
・請求の趣旨及び原因
・郵便はがき
・請書

仮執行宣言の申立ができる期限は「相手が支払督促の通知を受けて異議を申し立てずに2週間が経過したときから数えて30日以内」です。

つまり、仮執行宣言の申立ができる状態になってから30日以内に申立をしないと、権利が失効してもはや差押えができなくなってしまうということです。

支払督促を申し立てたら、裁判所からの支払督促通知を受け取ってから2週間後に異議が出たかどうかを裁判所に確認し、異議が出ていなかったら「すぐに」仮執行宣言の申立をしましょう。

仮執行宣言の発布

仮執行宣言の申立をしたら、裁判所から債権者と債務者の双方へ、「仮執行宣言付支払督促」という書類が送られます。

このときにも債務者には督促異議の機会が与えられます。

2週間以内に異議申立がなければ、仮執行宣言付支払督促は確定します。

その後は相手の財産を差し押さえられる状態となります。

一方、2週間以内に異議申立てがあれば、手続きが通常訴訟に移行します。

ただし、その場合にも差押えの効力を止めることはできないので、差押え自体は可能です。

訴訟に対応しなければならないだけです。

強制執行

仮執行宣言付支払督促が確定しても相手が支払いをしない場合、相手の財産を特定して強制執行を行いましょう。

預貯金口座や不動産、取引している証券会社、生命保険や火災保険などを調べて差押えの申立をすると、相手の資産を強制的に換価して債権回収できます。

給料の差押えも可能です。

申立後の取り下げについて

一度支払督促を申し立てても、取り下げは可能です。

たとえば、相手が異議を出して通常訴訟に移行することが決定した時点で取り下げれば、訴訟に巻き込まれずに済みます。

取り下げの方法

支払督促を取り下げるには、申立先の裁判所に「取下書」を提出する必要があります。

取下書には、事件名と当事者名、それと「都合により本件を取り下げます」などと簡単に書けば良いだけです。

ただし、FAXやメール、口頭での取り下げは認められておらず、必ず書面提出しなければなりません。

取り下げに相手の同意が必要なケースがある

支払督促を取り下げる際、基本的に相手の同意は不要です。

ただし、相手が異議申立を行い法的な反論書面などを提出した場合には、相手に裁判をする利益が発生するので相手の同意が必要となります。

相手の同意が必要な場合に取下書を提出した場合、提出後2週間以内に相手が異議を述べなければ、同意があったものとして取り下げが有効になります。

支払督促申立後、強制執行までにかかる期間

支払督促を申し立ててから強制執行まで、どのくらいの期間がかかるのでしょうか?

まず、申立をしてから支払督促が発布されるまで1~2週間かかります。

そして、支払督促が相手に送達されてから2週間経たないと仮執行宣言の申立ができません。

その後30日以内に仮執行宣言の申立をします。

すると裁判所から仮執行宣言付き支払督促が発布され、それが相手に送達されて2週間が経過してからようやく強制執行できる状態になります。

以上の期間をすべて足していくと、最低でも1か月半はかかるでしょう。

裁判所が支払督促の発布を早くしてくれなかった場合や、債権者による仮執行宣言の申立が遅れた場合などには、さらに長い期間がかかります。

だいたい2~3か月くらいと考えておくと良いでしょう。

異議申し立ての期間と方法

以下では、自分が支払督促申立をされた債務者になったときの対応について、説明します。

異議申立とは

支払督促申立をされたら、すぐに異議を申し立てなければなりません。

異議申し立てをしないまま2週間が経過してしまったら、相手が仮執行宣言を申し立ててこちらの財産を差し押さえてくる可能性が極めて高くなるからです。

支払督促に対する異議申立を、正式には「督促異議申立」といいます。

2種類の異議申立

実は、支払督促に対する異議申立てには2種類があります。

1つは当初に裁判所から「支払督促の通知」が届いたときの異議申立てです。

このときに異議を申し立てると、通常訴訟に移行して強制執行は行われません。

もう1つは、1回目に異議申立をしなかった場合に相手が仮執行宣言を申し立て、その結果裁判所から「仮執行宣言付き支払督促」が送られてきた場合にできる異議申立てです。

この場合、異議申立てをすると通常訴訟に移行しますが、強制執行を止めることはできません。

強制執行を止めるには、①支払督促が認められない事情があり、かつ②強制執行によって債務者が大きな被害を受けることを疎明(簡単な証明)して、裁判所で強制執行停止の決定をしてもらう必要があります。

このように、いったん仮執行宣言が出てしまったら、たとえ異議申立てをしても基本的に差押えを受けてしまうので注意が必要です。

異議申立書の書き方

異議申立をする際には、「異議申立書」という書類を作成して裁判所に提出する必要があります。

異議申立書には特別の書式はありません。

事件番号と当事者名、署名押印をして「本件に異議を申し立てます」と書いて提出すれば、受けつけてもらえます。

この異議申立書の例をダウンロードする

このような感じで詳しい理由は不要ですし、証拠をつける必要もありません。

ただし、必ず期間内に申し立てる必要があるので、早急に作成して確実に裁判所へ提出しましょう。

異議申立の期間制限に注意

異議申立てができる期間は「支払督促の通知を受け取ってから2週間」です。

この2週間は「裁判所に必着」の期間であり、2週間後に異議申立書を発送したのでは間に合いません。

また、郵便事情で異議申立書の到着が遅れたことも理由になりません。

必ず期間内に異議申立書が必着するように早めに速達で発送するか持参しましょう。

異議申立にかかる費用

異議申立ての手続きそのものには費用はかかりません。

異議申し立てをするメリットとデメリット、注意点


異議申立にどういったメリットやデメリットがあるのか、注意点とともに確認しましょう。

メリット

・強制執行される心配がなくなる
当初に支払督促通知が届いた時点で異議申立てをしたら、強制執行される心配がなくなります。

これは、債務者にとって何より大きなメリットと言えるでしょう。

デメリット

・通常訴訟に対応しなければならない
異議申立てをすると、手続きが強制的に通常訴訟へと移行します。

債務者としても訴訟に対応しなければならないので、手間や時間をとられます。

また、訴訟では必ず勝てるとは限らず、負ければ結局は差押えを受けてしまいます。

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・費用が発生する
異議申立てによって通常訴訟に移行したら、一人で対応するのは困難でしょう。

弁護士を雇えば高額な費用が発生します。

このような無駄を考えると、相手の言い分が正しい場合などには相手と和解していくらか払い、早期にトラブルを解決した方が賢明なケースも少なくありません。

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異議申立の注意点

・仮執行宣言付き支払督促に異議申立をしても強制執行が止まらない
先にも説明しましたが、「仮執行宣言付き支払督促」が来ている場合、異議申立をしても強制執行は止まりません。

強制執行されたくなければ、必ず当初の「支払督促」に対して異議申し立てする必要があります。

支払督促以外の取り立ての手段

支払督促は便利な手段ではありますが、デメリットも大きい手続きです。

債権回収には以下のような他の手法もあるので、参考にしてみてください。

内容証明郵便で請求

裁判所を使わずに、自分で債務者に直接内容証明郵便を使って請求する方法です。

内容証明郵便の請求書に「支払いが無い場合には裁判を検討します」などと付記しておくと、こちらが本気であることが伝わり、相手にプレッシャーをかけることができます。

特に弁護士名で内容証明郵便が送られてきたら、多くの人は「裁判をされるかもしれない」と考えて真剣に支払いを検討するものです。

相手が支払いに応じない場合、まずは内容証明郵便で請求書を送ってみましょう。

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公正証書の作成

相手が後に支払いをしなくなる懸念がある場合には、当初に契約や合意をするときに「公正証書」を作成することをお勧めします。

強制執行認諾条項つきの公正証書を作成しておいたら、相手が約束を破って支払わなくなったとき、公正証書を使って財産や給料などの差押えができるからです。

この場合、支払督促をしなくても公正証書のみをもって強制執行できます。

また、相手が支払いをしないので内容証明郵便などで請求を行い合意できた場合にも、その時点で公正証書にしておくことをお勧めします。

そうすれば、二度目に滞納されたときにすぐに公正証書を使って差押えができるので、あらためて内容証明郵便を送ったり裁判手続きをしたりする手間が省けます。

少額訴訟

相手に対する債権額が60万円以下の場合には、少額訴訟を利用しましょう。

少額訴訟とは、60万円以下の金銭債権を請求するときに利用可能な簡単な裁判です。

すべての審理と判決を1日で終えることが可能ですし、弁護士を雇わず自分一人でもできる程度の簡単な手続きなので、費用も抑えることが可能です。

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調停

自分で請求しても払ってくれないけれど、裁判所などの第三者が間に入ってくれたら調整できそうな状態なら、調停を利用するのも1つです。

調停とは、裁判所の調停委員会に間に入ってもらい、話し合いをする手続きです。

調停期日では、申立人と相手方の話し合いを調停委員が仲介するので、基本的に相手と直接顔を合わせたり言葉を交わしたりせずに話を進められます。

また、調停委員から解決案を提示してもらえるので、双方が受諾すれば解決できます。

相手との対立があまり激しくない場合に向いている方法です。

弁護士を代理に立てて交渉

債権回収の効果的な方法として、弁護士を代理人に立てる方法があります。

自分で交渉すると適当にいなされてしまうケースでも、弁護士を立てると相手が真剣になって支払いに応じてくるケースは多々あります。

この方法で支払いを受けられたら、支払督促を始めとした面倒な裁判手続きをする必要はありません。

また、裁判所を利用しないため、非常にスピーディに債権回収できるメリットも大きいでしょう。

早ければ1~2週間で支払いを受けられるケースもあります。

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訴訟

どのような手段をとっても相手が支払いに応じない場合には、最終的に訴訟をする必要があります。

訴訟では法律にもとづいた主張や証拠の提出が必要で、期間も労力もかかりますが、きちんと主張や立証を行えば、裁判所が判決で支払い命令を出してくれます。

判決が確定したら、相手の財産を差し押さえることが可能です。

また、訴訟の途中で和解できることも多く、和解が成立すれば比較的スムーズにトラブルを解決できます。

訴訟を一人で進めるのは大変なので、もしも訴訟を選択するなら当初から弁護士に依頼することをお勧めします。

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支払督促を弁護士に依頼するメリットは大きい

支払督促は、弁護士をつけなくても自分で手続きができるとお伝えしましたが、それでも弁護士に依頼することへのメリットは大きいといえます。

具体的に、弁護士へ依頼することで次のようなメリットがあります。

支払督促に関する必要書類の作成を一任できる

まず、支払督促に関する全ての書類作成を一任できる点です。

支払督促の手続きは簡単といえども、裁判所に提出するものは全て厳格に確認されます。記入漏れや記入ミスなど、書類に不備があると受理されないため、慎重に行わなければなりません。

弁護士に一任することで、確実に書類を提出することができます。時間に余裕がない場合や書類作成に不安を覚える方は弁護士に依頼するメリットは大きいといえます。

訴訟に発展した場合も万全にサポートしてもらえる

支払督促では、相手が異議申立をすると通常訴訟になります。弁護士をつけることで、裁判における代理人としてサポートしてもらえるため、依頼主の負担が軽減されるでしょう。

状況に合う債権回収の方法をアドバイスしてもらえる

状況に合う債権回収の方法をアドバイスしてもらえることも、弁護士へ依頼するメリットです。

先ほど、支払督促以外の取立手段をいくつか紹介しました。ただ、どの方法が適しているのか判断しづらいケースもあるでしょう。

弁護士に依頼することで、依頼主の状況にあった債権回収の方法を提案してもらえます。

このようなメリットがあることから、弁護士の力を借りることも視野に入れておきましょう。

まとめ

相手がお金を払わない場合、支払督促はとても有効な取り立て手段です。

ただし、正確に理解して利用しないと、いきなり裁判になったりして思わぬ不利益を被る可能性もあります。

債権回収方法には支払督促以外にも様々なものがあるので、一度弁護士に相談をして、どのような手続きが最適かアドバイスを受けてはいかがでしょうか?

債権回収を得意とする弁護士であれば、ケースに応じて有用な助言をしてくれるでしょうし、そのまま代理交渉を依頼することも可能です。

一人で悩んでいても解決はできないので、まずは一度、法律事務所へ問合せをするところから始めましょう。

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記事を振り返ってのQ&A

Q:支払督促とは?

A:裁判所に申立をして相手に対する「強制執行(差押え)の権利」を認めてもらう手続きです。相手が通知書を受け取ってから2週間以内に異議申立をしない場合、債権者には債務者の財産を差し押さえる権利が認められます。

Q:支払督促を利用できるケースと利用できないケースとは?

A:利用できるケース

・貸したお金を返してもらえない ・商品代金を払ってもらえない ・家賃を滞納されている ・損害賠償金を請求したい(交通事故など) ・給料や残業代、退職金を払ってもらえない ・相手の氏名(名称)や居場所がわかっている

利用できないケース

・家や土地を明け渡してほしい ・離婚したい ・子どもと会わせてほしい ・不動産の登記を移転したい ・相手の氏名や名称、居場所がわからない