ツイッターなどのSNSには「リツイート」と呼ばれる便利な機能があって、他人のツイートを自分のアカウントから再発信することができます。
他人がつぶやいた共感できる内容、好きな芸能人の投稿などをはじめ、ブックマークのつもりでリツイートしている方も多いのではないでしょうか。
しかし、そのような便利な機能であるリツイートによって、損害賠償が命ぜられたとしたらどうでしょう。
実は、リツイートが損害賠償の対象になったという事例はいくつかあります。
先日ご紹介した記事『【事例で学ぶ】元市議会議員が事件とは無関係の人をSNSで拡散~デマ情報に対し損害賠償請求が認められたケース』では、デマがSNSによって拡散されてしまったというものですが、被害にあった女性はリツイートに対しても法的措置を取る意思を表面したことで注目されました。
ここでご紹介する事例は、現在はテレビタレントとしても活躍する弁護士の橋下徹氏が、第三者によるネガティブな投稿をリツイートする行為は、名誉毀損にあたるとして訴えをおこしたものです。
この訴えに対して、一審では名誉毀損を認定して33万円の支払いを命じ、二審においても判決を支持して控訴を棄却しています。
果たして、このリツイートがなぜ名誉毀損に該当するのか、事例を踏まえながら解説していきたいと思います。
【事例で学ぶ】リツイートで名誉毀損が認められた!?リツイートに損害賠償リスクはあるの?
今回ご紹介する事例は、元大阪府知事である橋下徹氏が、第三者のネガティブな投稿をリツイートしたジャーナリストに対して、名誉を毀損されたとして訴訟を起こしたというものです。
このリツイートは自分のコメントを付けておらず、しかもリツイート後には削除されていることもあり、判決内容は注目されていました。
裁判所は訴えを認め、一審では名誉毀損を認定して33万円の支払いを命じ、二審においても判決を支持して控訴を棄却ずる判決を出しています。
ケースの概要
今回ご紹介する事例は、第三者によるデマツイートを、ジャーナリストがリツイートしたことによって情報が拡散されてしまったというものです。
このツイートは「橋下知事は府職員を自殺に追い込んだ」という第三者によるもので、当時フォロワー数18万人であったジャーナリストがリツイートしたことによって、大きく拡散されることになりました。
橋下徹氏は、このリツイートによって名誉を毀損し、社会的評価を低下させたとして訴えを起こすことになりました。
ジャーナリストは、自分のコメントを付けずにそのままリツイートしており、拡散されたのちにリツイートを削除しています。
そのような経過から、このジャーナリストは単に他人の投稿をリツイートしただけであり、しかもその後に削除、抗議や反論などもなく訴えを起こす行為は不当訴訟にあたると主張しています。
控訴審においては、リツイートの法的責任を問うことは表現の自由に対する過度な制約にあたるものであるとし、憲法学者による意見も提出しています。
争点となった内容と裁判所の判断
執筆時点において、今回の事例に関する判決記録を閲覧することはできないので、報道によって入手した内容のみ掲載していきます。
今回リツイートされた投稿は「橋下知事は府職員を自殺に追い込んだ」というもので、橋下氏はこの投稿が拡散されたことによって「自分がパワハラを行う人物であるとの印象を広く拡散された」と主張しています。
この投稿はそもそもジャーナリストによるものではなく第三者のものであるため、
- このリツイートが民事上の責任を問われる表現行為にあたるものなのか
- 橋下氏がこのリツイートによって社会的評価が低下したか
という点が争点になったものであると考えられます。
裁判所は一審、二審共に訴えを認め、一審では名誉毀損を認定して33万円の支払いを命じ、二審においても判決を支持して控訴を棄却ずる判決を出しています。
二審の高裁判決ではリツイート行為について、コメントがないリツイートであるとしても、元ツイートに社会的評価を低下させるような内容が含まれている場合には、多くのフォロワーに情報が拡散されてしまうと指摘。
そのため、リツイートの経緯や意図、目的を問わず、名誉毀損にあたる行為であるとしています。
また、このジャーナリストには当時18万人ものフォロワーがいたことから、橋下氏の社会的評価を低下させたという一審判決を支持するものとなっています。
ジャーナリストの主張に対しては、リツイートする投稿内容によって、社会的評価を低下させるかどうか相応の慎重さが求められる、としています。
リツイートの損害賠償リスクについて
今回ご紹介した事例は第三者の投稿そのものではなくリツイートによるものですので、「自身の意見を発信する表現行為ではないのでは」という意見を多く見受けることができます。
みなさんの中には、共感する投稿だけではなく、ブックマーク目的でリツイートしているという方も多いでしょう。
それらがすべて、自分の意見としてリツイートしている訳ではないような気がすることは当然のように感じます。
しかし、第一審の大阪地裁では、リツイートは主体的に表現していると結論付けて、単なるリツイートも自身の意見の発信として扱うべきものとしているのです。
では、どのような場合のリツイートが損害賠償リスクを生じさせるのか、具体的に解説していきましょう。
リツイートは主体的な表現行為
第一審において大阪地裁では、リツイートは主体的な表現行為であると結論付けています。
つまり、SNS上において言えば、普段のつぶやき投稿と同様に、自分のコメントを付けないリツイートであるとしても、それも自分の意見の表現行為として捉えられていることになります。
もちろん、自分のコメントを付ける引用リツイートの場合には、もとの投稿を発信する表現行為であるとはいえません。
例えば、「山田太郎は嘘つきです」という投稿があったとして、「こんなデマを流したらダメだよね」と引用リツイートすれば、もとの投稿を発信している訳ではないということです。
同様に言えば、近年SNSをみると「保存用でのリツイート」「賛同の趣旨ではない」と記載されているものがありますが、これらは大きな予防策となるように考えられます。
前後の投稿内容
今回の事例で登場するジャーナリストは、橋下徹氏を批判する投稿をたびたびしていることでも知られていました。
そのため、自分のコメントを付けないリツイートだとしても、前後の投稿内容なども踏まえて判決が出たのではないかと考えられます。
リツイートがどの程度拡散されたのか
そもそも今回の事例では、最初に投稿した第三者による「橋下知事は府職員を自殺に追い込んだ」という投稿が悪いように感じる方も多いでしょう。
しかし、この投稿がリツイートによってどのくらい拡散させてしまったのかということが、今回の判決に繋がっていると考えられます。
このジャーナリストは当時18万人ものフォロワーがいたと報道されています。
今回の投稿内容が18万人ものフォロワーによって半永久的に拡散されてしまうことになるのです。
そのため、「たかがリツイート」ではないという自覚を持っておくことが、リツイートで訴えられない大切な考え方になるでしょう。
まとめ
橋下徹氏に対する第三者によるネガティブな投稿をリツイートしたことによって、社会的評価を低下させたとして訴えを起こした事例をご紹介しました。
今回の事例でキーワードとなっているのが「リツイート」ですが、自分のコメントを付けないリツイートであるとしても、自分の意見の表現行為として捉えられることになります。
考えてみれば、他人の投稿であるとしても拡散させている訳ですから、責任を持った行動が必要になることは当然のことです。
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