名誉毀損と侮辱罪の要件の違いと慰謝料の相場

 

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この記事の執筆者

福谷 陽子(元弁護士)

侮辱罪と名誉毀損の違い人に対して誹謗抽象的な発言や侮辱的な発言をした場合、名誉毀損や侮辱罪が成立する可能性があります。

これらはどちらも「相手に対して悪口を言った」場合に成立するイメージがありますが、具体的にはどのような違いがあるのでしょうか?

名誉毀損や侮辱的行為には民事的な側面と刑事的な側面がありますが、その意味や効果の違いについても一般的にはよく理解されていないことが多いので、おさえておく必要があります。

そこで今回は、侮辱罪と名誉毀損の違いについて解説します。

侮辱罪と名誉毀損の違い

六法全書侮辱罪と名誉毀損については、どこがどのように違うのかがよくわからない人も多いでしょうから、まずはこの2つの違いからご説明します。

侮辱罪(刑法231条)は、「事実を摘示しないで」「公然と」、「人を侮辱した」場合に成立します。

これに対し、名誉毀損罪(刑法230条)は、「事実の摘示によって」「公然と」「人の社会的評価を低下させるおそれのある行為をした」ことによって成立します。

「事実を摘示(てきじ)」(摘示とは示すことです)したかどうかによって名誉毀損罪か侮辱罪かが区別され、摘示がなければ侮辱罪、あれば名誉毀損罪ということになります。

侮辱罪でも名誉毀損罪でも、どちらも「公然と」の要件が必要になります。

「公然と」の要件の有無は、その内容が他者へと広がっていく可能性があるかどうかで判断されます。

たとえ少人数が集まる場所での発言であっても、そこにいた人の口から伝わって話が広がる可能性があれば、「公然と」の要件を満たします。

では事実ではない「根も葉もない噂」や「嘘」は名誉毀損ではない?

根も葉もない噂を流す人たち名誉毀損が成立するためには「事実の摘示」が必要だと説明しました。

このように聞くと「事実」を「真実」であると誤解する人がいるかもしれません。

そうなると、根も葉もない嘘や噂の場合には、名誉毀損が成立しなくなるのか?と疑問を持たれることもあるでしょう。

嘘や虚偽の噂の方が悪質なのに、どうしてなのかと思うかもしれません。

結論的には、根も葉もない嘘や噂の場合でも、名誉毀損は成立します。

名誉毀損は、人の社会的評価を低下させる事実を広めた人を罰するための規定なので、内容が虚偽の場合、当然に罰されるべきです。

むしろ、内容が真実のケースよりも根も葉もないケースの方が、より悪質であることが多いので罰する必要性は高いです。

そもそも、「根も葉もない嘘や噂の場合に名誉毀損が成立しなくなるのでは?」と考える理由は、「事実」は「真実」と誤解しているためです。

名誉毀損が成立するために必要な「事実」は、「真実」である必要はなく、嘘や虚偽の「事実」でも良いのです。

たとえば、自分で不倫していないのに「あの人は上司と不倫している」と言われたら、それは名誉毀損を構成する「事実」になります。

これに対し、「馬鹿野郎!」などという場合には、「事実」を言っていません。

名誉毀損における「事実」は、侮辱罪との区別をするための概念なのであり、内容が真実かどうかは問題になりません。

むしろ、真実であれば、刑法230条の2によって違法性が阻却されることもあります。(詳しくは後述します。)

以上のように、名誉毀損における「事実」については内容の真実性は影響しないので、内容が真実であっても根拠のない嘘や噂であっても、名誉毀損が成立する可能性があります。

名誉毀損の「事実」の解釈において、混乱を生じないように正しく理解しておきましょう。

名誉毀損が成立しない可能性がある2つのケース

名誉毀損を棄却する裁判官

違法性が阻却される場合(刑法230条の2)

上記の名誉毀損の要件を満たす場合にも、例外的に違法性が阻却(そきゃく-しりぞけること)されて名誉毀損罪が成立しないことがあります。

具体的には、摘示された事実が「公共の利害にかかわる事柄」であり、目的が「公益目的」であり、かつ「真実性が立証された」場合には、これを罰しない、とされています(刑法230条の2第1項)。

たとえば、有名な政治家の過去の業務に関するスキャンダルなどを暴いた場合には、上記の要件をすべて満たすので、名誉毀損が成立しない可能性が高いです。

逆に、ただの一般人の名誉を毀損する内容であれば、たとえその内容が真実であっても「公共の利害に関する事実」とは言えないので、名誉毀損が成立するでしょう。

目的が公益目的である必要もあります。

たとえ公共の利害に関する事柄であっても、私利私欲のために名誉毀損的な行為を行った場合には、やはり名誉毀損が成立します。

真実性の証明ができなかった場合

名誉毀損の違法性阻却における「真実性の証明」については、さらに問題があります。

真実性の証明ができなかったとしても、名誉毀損が成立しない可能性があるのかということです。

たとえば、実際には真実であるという証明まではできなかったけれども、真実であると信じていたし、十分な根拠もあった、という場合もあります。

このようなケースでは、「たとえ真実性の証明ができなかったとしても、当時の状況から真実であると信じるに足りる根拠があった場合」には、名誉毀損が成立しない、と考えられています。

たとえば有名な政治家の過去のスキャンダルを暴いた場合、たとえその内容が真実であると証明できなくても、記事を書いた時点でそれが真実であると信じるだけの充分な根拠があったのであれば、名誉毀損罪が成立しなくなる可能性が高いです。

例外規定は名誉毀損罪にしか認められない

以上のような例外的な処罰の除外規定や解釈方法は、名誉毀損には認められますが、侮辱罪にはありません。

それは、名誉毀損は「事実を摘示」するものなので、「事実が公共性を持つか」や「真実かどうか」などを考慮できる可能性がありますが、侮辱罪の場合には、事実を摘示しない単なる侮辱行為なので、それが公共の利害にかかわるかとか、真実かどうかということはまったく問題にしようがないからです。

このように、侮辱罪と名誉毀損罪には、基本的に「事実」に関するかどうかという違いがあるだけですが、その違いが実はとても大きなものだということがわかります。

1対1でののしられた場合に成立するか

罵る人それでは次に、どのような場合で名誉毀損や侮辱罪が成立することがあるのか、具体的なケースを見てみましょう。

まずは、1対1で言い合いをしているときに、相手から名誉毀損的行為や侮辱発言をされたときに成立するかという問題です。

名誉毀損罪について

1対1で言い合いをしているときに、相手から社会的評価を低下させるような発言があった場合、侮辱罪が成立することはあるのでしょうか?

このとき、問題になるのは「公然と」の要件です。

名誉毀損罪が成立するためには、公然と名誉毀損的な行為が行われる可能性があり、具体的には周囲に伝播(広がる)する可能性があることが必要です。

ただ、まったくの1対1で言い合いをしていて周囲に誰もいない、という状況では、発言内容が周囲に広がっていく可能性がありません。そこで、この場合には「公然と」の要件を満たさず、名誉毀損罪は成立しないと考えるべきです。

ただ、1対1で言い合いをしている場合であっても、周囲に誰か他の人がいて、それを聞いていた人がさらに他の人に話すことによって発言内容が広がっていく可能性がある場合には、名誉毀損罪が成立する可能性があります。

侮辱罪について

それでは、侮辱罪についてはどうなるのでしょうか?

これについても、名誉毀損罪と同じ考え方となります。

侮辱罪が成立するためにも、やはり「公然と」の要件が必要です。

そこで、完全に相手と自分しかいない状況で侮辱されたとしても、その内容が他に広がっていく可能性はないので侮辱罪は成立しません。

反対に、周囲に誰が他の人がいて、それを聞いていた人が発言内容を他に広める可能性がある場合には、「公然と」の要件を満たし、侮辱罪が成立する余地があります。

「バカ」と言われた場合に成立するか

部下にバカという上司次に、単純に相手から「バカ」と言われただけのケースで名誉毀損や侮辱罪が成立する可能性があるのか、見てみましょう。

名誉毀損について

まずは、名誉毀損について見てみましょう。名誉毀損が成立するには「事実の摘示により」人の社会的評価を低下させる必要があります。

ところが「馬鹿」というだけでは、事実の摘示になっていません。そこでこの場合には、名誉毀損は成立しないことになります。

名誉毀損が成立するためには「あの人は上司と不倫している」とか「あの人は前科者だ」など、具体的な事実を摘示して人の名誉を低下させる必要があります。

侮辱罪について

次に侮辱罪の成否を見てみましょう。

侮辱罪は、相手に対して「事実の摘示なしに」侮辱する行為です。そして「馬鹿」というだけでは事実の摘示になっていません。

そこで、この場合、「公然と」などの他の要件を満たしている限り、侮辱罪が成立する可能性があります。

たとえば大人数が集まっている前で「馬鹿野郎!」などとののしった場合、侮辱罪に該当する可能性が充分にあります。

人がたくさんいるところでは、あまり相手を汚い言葉でなじったりしないように注意すべきです。

ネット上やメールなどでの中傷行為にも成立するか

インターネット上で名誉毀損に悩む人次に、ネット上やメールなどでの誹謗中傷行為に侮辱罪や名誉毀損が成立するのかどうかを見てみましょう。

名誉毀損罪について

まずは名誉毀損罪について、見てみます。

名誉毀損罪が成立するためには「公然と」の要件が必要ですが、ネット上やメールでの誹謗中傷行為についても「公然と」と言えるのかが問題です。

この点、ネット上に文書などを公開した場合には、「公然と」の要件を満たします。

ネット上の記事は、基本的にインターネットにつながっている環境さえあれば、世界中の誰からでも閲覧できます。

そこで、ネット上に公開してしまったら、広く世間に広がっていく可能性があるので、公然との要件は問題なく満たされることになります。

SNSなどへの投稿であっても、それが不特定多数に見られる可能性のある設定になっていれば、やはり伝播可能性があるので名誉毀損罪が成立します。

少人数の友人だけしか見られない設定であったとしても、それを見た友人の口や友人の書き込みを通じて周囲に広がっていく可能性がある以上、やはり伝播可能性があるとして「公然と」の要件が満たされます。

つまり、ネット上に投稿した場合には、ほとんどどのようなケースでも「公然と」の要件が満たされて名誉毀損罪が成立する可能性があるということなので、ネット上の投稿行為には、充分注意が必要です。

これに対して、メールでの誹謗中傷行為の場合には、少し事情が異なります。

メールは、基本的に送った相手しか読まないものです。そこで、相手ひとりだけにメールを送信した場合には、名誉毀損罪が成立しない可能性が高いです。

ただし、複数の宛先に同じ文章を送った場合やBCC、CCなどによって他の人にも同じ内容のメールを送信した場合などには、それを受けた他の人から不特定多数に伝播していく可能性があるので、「公然と」の要件を満たし、名誉毀損罪が成立する可能性があります。

侮辱罪について

次に、侮辱罪について、見てみましょう。

侮辱罪の場合でも、基本的な考え方は名誉毀損罪のケースと同じです。

侮辱罪が成立するためにも「公然と」の要件が必要になるので、ネット上の投稿行為やメール送信行為に「公然と」の要件が満たされるかどうかが問題になります。

この場合の判断基準も名誉毀損罪のケースと同じになるので、ネット上の投稿行為の場合には基本的に侮辱罪が成立することになります。

反対に、メール送信行為の場合には、相手ひとりだけに送ったケースでは侮辱罪にはならない可能性が高いです。

そうではなく、複数の送信先にメールを送った場合には、侮辱罪が成立すると考えると良いでしょう。

ネット誹謗中傷は、匿名でもしてはいけない

ネット上における記事投稿やメール送信は、相手の顔が見えないこともあって比較的容易に行き過ぎた発言をしやすいです。

しかし、ここで節度を持った対応をしておかないと、後から「侮辱罪」「名誉毀損」などと言われて刑事上や民事上の責任追及をされてしまうおそれがあるので、充分注意が必要です。

特に、近年ネット上の誹謗中傷行為が増えており、「ネット誹謗中傷」などという言葉までできているほどです。

ネット誹謗中傷をすると、たとえ匿名で記事投稿をしていても、プロバイダ責任制限法という法律にもとづいて発信者情報を特定されて、最終的に投稿者を特定されて責任追及されてしまうおそれがあります。

「ネット投稿は匿名だからバレない」と安易な気持ちで相手を傷つける発言をすると、ある日突然内容証明郵便が届いたり裁判所からの訴状が届いたりすることもあるので、くれぐれも注意しましょう。

刑事上の問題と民事上の問題

刑事事件と民事事件で訴状を出す弁護士名誉毀損や侮辱罪には、刑事上の問題と民事上の問題があります。

これら2つは混同されることも多いですが、目的や効果が全く違うものなので、正確に理解しておく必要があります。

以下で、具体的に見てみましょう。

刑事上の名誉毀損罪、侮辱罪

他人の名誉を毀損したり侮辱したりした場合には、刑法上の名誉毀損罪(刑法230条)や侮辱罪(刑法231条)が成立します。

これらは、刑事上の問題です。

名誉毀損罪や侮辱罪が刑事上で問題になる場合、行為者は、逮捕されたり起訴されて刑事裁判になり、有罪判決を下されたりする可能性があります。

そして、有罪になった場合には、ケースに応じて刑罰が科されます。

名誉毀損罪が成立する場合には、3年以下の懲役若しくは禁錮または50万円以下の罰金刑が下される可能性がありますし、侮辱罪の場合には、拘留または科料(かりょう-1,000円以上1万円未満の金額を支払う刑罰)を受ける可能性があります。

なお、侮辱罪の法定刑は、刑法典の中でももっとも軽いものとなっています。

また、名誉毀損罪も侮辱罪も、「親告罪」です。

親告罪とは、被害者が刑事告訴をしない限り、行為者を罰することができないタイプの犯罪です。

つまり、相手が名誉毀損的な行為や侮辱的な行為に及んだとしても、被害者が警察に刑事告訴をしない限り、警察は相手を逮捕してくれませんし、裁判にかけてくれることもない、ということです。

名誉毀損をされて相手に刑罰を与えてほしいなら、必ず刑事告訴をする必要があります。

また、相手を刑事告訴して刑罰を適用してもらえたとしても、相手から慰謝料などのお金を払ってもらうことはできません。

お金を払ってもらうためには慰謝料請求をする必要があり、これは、次に説明する民事的な問題です。

民事上の名誉毀損、侮辱行為

他人によって名誉毀損的な行為や侮辱的な行為をされた場合には、民事上の損害賠償も問題になります。

相手が名誉毀損的な行為や侮辱行為をしたとき、それが度を超えたものであれば違法性を有することになるので、違法行為となります。

民法上、相手の違法行為によって損害を被った場合には損害賠償請求ができることになっているので、この場合、相手に対して不法行為にもとづく損害賠償請求ができます(民法709条)。

名誉毀損的な行為や侮辱行為によって受けるのは精神的な苦痛であることが通常なので、相手に対してできる損害賠償請求は「慰謝料請求」となります。

名誉毀損が成立する場合にはもちろんのこと、侮辱的な行為をされた場合であってもそれが度を超えたものなら、慰謝料請求ができる可能性があります。

ただ、名誉毀損の方が侮辱行為よりも一般的に違法性が強いと考えられるので、慰謝料請求が認められやすいですし、認められた場合の慰謝料の金額も、侮辱行為より名誉毀損的な行為の方が高くなることが多いです。

慰謝料の相場

名誉毀損と侮辱罪の慰謝料の相場それでは、名誉毀損や侮辱行為によって民事上の慰謝料請求ができる場合、具体的にはどのくらいの金額の慰謝料を請求することができるのでしょうか?

これについては、名誉毀損と侮辱行為によって金額が異なるので、分けてご説明します。

名誉毀損の慰謝料の相場

名誉毀損が成立する場合、その対象が芸能人か一般人かや、誹謗中傷内容、社会に与える影響の大きさや実際に発生した結果などによって慰謝料の金額が変わってきます。

一般人が被害者となる通常一般的な名誉毀損事案の場合の慰謝料の相場は、10万円~100万円までの間であることが多いです。

ただし、相手が芸能人や政治家で社会に与えるインパクトが大きなケースや、誹謗中傷内容が重大で被害者が自殺してしまったケースなどでは、数百万円の多額の慰謝料が認められることもあります。

侮辱罪の慰謝料の相場

次に、侮辱行為が行われた場合の慰謝料の相場を見てみましょう。

侮辱行為では、名誉毀損行為よりも慰謝料が認められる可能性が低くなります。

これは、侮辱罪の違法性は名誉毀損罪よりも小さいと考えられていることによります。実際、侮辱罪の刑事上の法定刑は名誉毀損罪のそれよりも相当軽くなっていることからも、このことがわかるでしょう。

実際、侮辱行為が行われただけで慰謝料が認められること自体が、さほど多くはありません。

認められるとしても、10万円程度になることが多いでしょう。

実際にも、タクシー運転手が客から20分もの長きにわたって侮辱的発現を受け続けたケースで、10万円の支払い命令が出た判例があります。

名誉毀損が認められた判例と認められなかった判例

名誉毀損と侮辱罪の判例名誉毀損が成立して慰謝料が認められる場合、具体的にはどのくらいの慰謝料が認められるのかを知りたい人が多いでしょう。

そこで以下では、名誉毀損で慰謝料が認められた判例とその場合の慰謝料の金額及び、認められなかった判例をご紹介します。

名誉棄損で損害賠償が認められたケース

●主婦による嫌がらせ行為
3人の主婦が近所や職場に被害者の悪口を言いふらし、被害者は退職を余儀なくされた上に持ち家を処分して家族と一緒に引っ越しをしなければならなくなった事案で、名誉毀損による慰謝料が認められました。

金額としては、加害者の主婦3人にそれぞれ20万円ずつ、合計60万円の慰謝料支払が命じられました(昭和59年8月29日 仙台地裁)。

この事件については下記のページにて詳しく解説されております。
参考ページ:「根も葉もない悪口を言いふらされた!名誉毀損で慰謝料をとれるかも?

●株主総会における発言内容
株主総会における発言内容が名誉毀損に該当するとされた事案です。慰謝料として15万円、弁護士費用が3万円の、合計18万円の支払命令が出ました(平成20年11月28日 東京地方裁判所)。

●被害者が自殺してしまった事案
週刊文春が、発掘された石器について「疑惑がある」などと掲載したことにより、石器発掘の調査責任者が自殺してしまった事案では、週刊文春に対し、600万円の損害賠償命令が出ました。

この事案は、被害者が自殺していることによって慰謝料の金額が大きくなっていると考えられます。

●労働組合に対する誹謗中傷行為
週刊現代が、JR東日本の労働組合について「革マル派に支配」などと記載した事案では、掲載内容の一部について名誉毀損が認められ、週刊現代に対して200万円の支払命令が出ました。

●相手を匿名で掲載した場合にも名誉毀損が成立した事例
イベントサークル内で準強姦罪事件が発生したとき、対象の実名を出さずに匿名で「準強姦罪に関与している」と掲載した事案がありました。

この事案では、たとえ対象を匿名にしていても、事情を総合的に判断すると、対象者の特定が可能であると判断されて、200万円の支払い命令が出ました(平成18年)。

●保険医の資格取消についての情報を消さなかったことが名誉毀損になった事例
保険医資格の取り消しを受けていたけれども欠格期間が経過して資格を回復した被害者が、国を訴えた事案です。

旧厚生省のウェブページにおいて、被害者の保険医欠格期間経過後も「保険医取消」という情報が掲載され続けていたため、これが名誉毀損に該当するとして国を訴えました。

ここでは、名誉毀損が成立するとして、30万円の慰謝料が認められました(平成15年)。

●根拠のない殺人罪の告訴状が名誉毀損となった事例
殺人罪の告訴状を提出した人が、その内容をブログで掲載した事案です。

この事案では、告訴された人が、根拠のない誹謗中傷であるとして掲載者を訴えました。

結果として、その告訴状には殺人罪などの疑いをかけることができるだけの客観的な根拠がないとして、ブログ掲載者に対し、150万円の慰謝料支払い命令が出ました(平成23年)。

これは、対象が一般人の事案ではあっても、殺人罪という重大な事実を摘示されたことによる社会への影響の大きさを考慮して、慰謝料が多額になっているものと考えられます。

●根拠のない懲戒請求が名誉毀損になった事例
弁護士が、根拠もなく懲戒請求を受けたとして懲戒請求者を訴えた事案です。

この事案では、弁護士会は懲戒しないという決定をしていましたが、名誉毀損の裁判所は、「根拠なく行われた懲戒請求である」と判断し、懲戒請求者に対し、70万円の慰謝料支払い命令を出しました(平成15年)。

名誉毀損が認められなかったケース

次に、名誉毀損が認められなかったケースもご紹介します。

●相手を匿名で掲載して名誉毀損にならなかった事例
文藝春秋が、ある人を、匿名にしてその少年時代における犯罪歴を掲載した事案において、名誉毀損が認められなかったケースがあります。

●「地盤が危険」というだけでは名誉毀損が認められなかった事例
また近隣住民がマンション建設に反対しており、その反対運動の一環として「地盤が危険」などと書いて建設会社を牽制した事案です。

このケースでは、建設会社が住民に対して名誉毀損にもとづく損害賠償請求をしましたが、裁判所は「社会的評価の低下は認められない」として請求を棄却しました(平成15年)。

名誉毀損の慰謝料の判例からわかること

以上のように、名誉毀損が認められる場合には、通常の場合には数十万円レベルであることがわかります。

また、相手を匿名にしていても、他の事情と合わせて判断すると特定の人物であると判断できる場合には、名誉毀損が成立してしまいます。

さらに、摘示された事実が重大であったり、被害者が自殺してしまったりして結果が重大になっていたりすると、相手が一般人であっても数百万円単位の多額の慰謝料が認められるケースもあります。

なお、芸能人や政治家などが被害者のケースでは、数百万円レベルの慰謝料が認められることも珍しくありません。

相手が一般人であっても有名人であっても、軽い気持ちで誹謗中傷行為をしてしまうと、多額の慰謝料請求をされてしまうリスクがあるので、くれぐれもそのようなことのないよう注意しましょう。

まとめ

今回は、名誉毀損と侮辱罪の違いや民事上と刑事上の問題、慰謝料が認められるケースとその場合の金額などについてご説明しました。

名誉毀損と侮辱罪の違いは、事実を摘示するかどうかということです。名誉毀損の方が侮辱行為よりも、刑事上も民事上も責任が重くなります。

ネット上などでは、軽い気持ちで相手をおとしめる発言をしてしまうことがよくありますが、こちらが安易な気持ちであっても被害者にとっては重大な受け止め方をして、刑事告訴されたり民事損害賠償をされたりするおそれがあります。

「これくらい大丈夫だろう」などと考えることなく、常に自分の言動には責任をもって対処することが必要です。
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福谷 陽子(元弁護士)

福谷 陽子(元弁護士)

京都大学法学部卒。在学中に司法試験に合格し、2004年に弁護士登録。その後、弁護士として勤務し、2007年、陽花法律事務所を設立。女性の視点から丁寧で柔軟なきめ細かい対応を得意とし、離婚トラブル・交通事故・遺産相続・借金問題など様々な案件を経験。2013年、体調の関係で事務所を一旦閉鎖。現在は10年間の弁護士の経験を活かしライターとして活動。猫が大好きで、猫に関する記事の執筆も行っている。
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